重要ポイント
労働条件通知書について、使用者が特に気をつけるべきところは、主に以下の点です。
絶対的明示事項の漏れと正確性
労働基準法により、必ず書面(または労働者が希望した場合は電磁的方法)で明示しなければならない事項(絶対的明示事項)に漏れがないか確認が必要です。
特に、賃金、労働時間(始業・終業時刻、休憩、休日、時間外労働の有無など)、就業場所、業務内容、労働契約の期間、退職に関する事項(解雇の事由を含む)は最重要項目です。
記載内容が就業規則や実際の労働条件と異なっていないか確認し、正確に記載することが不可欠です。
2024年4月からの改正対応(全ての労働者・有期雇用労働者)
全ての労働者に対し、「就業場所」と「業務」の変更の範囲(将来的な配置転換や異動の可能性を含む)を明示することが義務化されました。
有期雇用労働者に対しては、以下の3点を追加で明示する必要があります。
- 更新上限の有無と内容
- 無期転換申込機会(契約期間が通算5年を超える場合)
- 無期転換後の労働条件
賃金に関する明確な記載
基本給のほか、各種手当(通勤手当、住宅手当、資格手当など)の有無と計算方法・支給条件を明確にすること。
特に固定残業代(みなし残業代)を導入している場合は、それが何時間分の時間外労働に対応するのか、超過分は別途支払うのかを明確に区別して明示する必要があります。不明確だとトラブルの原因になります。
有期雇用契約に関する記載
有期雇用の場合は、契約期間に加え、更新の有無とその判断基準(自動更新なのか、業績や勤務態度によるのかなど)を具体的に記載し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。
労働時間・休日に関する明確な記載
変形労働時間制やフレックスタイム制など、特殊な労働時間制度を採用している場合は、その具体的な制度内容や計算方法を明確に記載すること。
所定労働時間を超える労働(残業)の有無、休憩時間、休日(会社カレンダーやシフト制など)も明確に記載します。
交付方法と保管
労働条件通知書は、労働者に書面で交付することが原則です。電子メールなどの電磁的方法で交付する場合は、労働者の希望(同意)を得る必要があります。
交付の手続きをきちんとやらないと、後日、受け取っていないと主張されることもあります。そのようなトラブルを避けるために、労働条件の通知をした証拠を残すようにしましょう。
労働条件通知書の書式を作るときに、文書の末尾に「この労働条件通知書を受領しました。令和〇年〇月〇日氏名〇〇〇〇印」という欄を作って、日付を入れて署名してもらいましょう。
この場合、労働条件通知書は正本と控えの二部作成して、正本は従業員に保管してもらい、日付と署名をもらった控えを会社が保管しましょう。就業規則などを交付したときは、交付文書一覧を同様に作成して日付署名をもらった会社控えを保管しましょう。
交付した労働条件通知書(控え)は、労働基準法により5年間(電子帳簿保存法の観点からは7年間が推奨される場合あり)保管する義務があります。
これらの事項を正確かつ明確に記載することで、労働者との間で「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、法令を遵守することができます。記載漏れや虚偽の記載があった場合は、罰則(30万円以下の罰金)の対象となる可能性もあるため、細心の注意が必要です。
書式
厚労省ホームページに「労働条件通知書」のモデルが掲載されています。
労働条件通知書に全ての労働条件を記載するのでなく、就業規則等を交付することで明示を簡略にすることもできます。その場合は労働条件通知書に、就業規則等を別途交付した旨の記載が必要です。
交付時期
交付するのは内定時か入社日か、どちらがよいか迷うことがあるかもしれません。
結論から言うと、どちらでも法的に問題はありません。しかし、次の点を考慮して。適切なタイミングを選んでください。どちらを選ぶかは、会社の規模、採用人数、労働条件の内容など、様々な要因によって異なります。
内定時に交付する場合
内定時に交付すると、入社前に労働条件について十分に理解してもらうことができます。特に、新卒採用の場合は、入社前の不安を軽減させるために内定時に交付することが一般的です。
入社時に交付する場合
入社日、すなわち最初の出勤日に交付することも広く行われています。ただし、入社日は雇用期間の第一日目としてすでに雇用されている状態にあります。この段階で労働条件について認識の相違が見つかるとトラブルに発展する可能性があります。
雇用契約書との関係
労働条件通知書を交付しただけでは雇用契約を結んだことになりません。別に雇用契約書を締結することが推奨されます。ただし、書式を工夫することで、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねることができます。
パートタイム・有期雇用労働者に対する明示
パート従業員や有期雇用従業員には、上記に加えて、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口についても文書を交付して明示しなければなりません。(パート有期雇用労働法第6条)