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労働契約 採用の事務

採用時の労働条件の明示

Last Updated on 2023年10月22日 by

労働条件明示の義務

労働者を採用するときは、賃金・労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければならないことが労働基準法に定められています。

労働基準法第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

明示すべき事項

明示すべき事項は、労働基準法施行規則第5条に列記されています。

このうち、第四号の二から第十一号までに掲げる事項は、定めがある場合に明示しなければならない事項です。

一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項

令和6年4月1日改正施行

労働条件明示事項が追加されます。

就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲

全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に適用されます。この項目は労働基準法施行規則第5条に追加されます。

従来も、「就業の場所」「従事すべき業務の内容」は明示事項に含まれていましたが、2024年度からは、採用直後の配置場所等だけでなく、変更の範囲を記載しなければなりません。「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲を指します。

変更の範囲を具体的に示すことが求められるのですが、総合職など、異動や転勤を伴い、就業の場所および業務に変更を限定しない従業員を採用することがあります。この場合は、「会社の定める事業所への異動(転居を伴う配置転換を含む)を命じることがある。」「適性に応じて、会社の指示する業務への異動を命じることがある。」のような表記も許されると解されています。(参考:厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書」令和4年3月30日)

通算契約期間または更新回数の上限の有無と内容

有期労働契約の締結時と更新時に適用されます。この項目は労働基準法施行規則第5条に追加されます。

有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約2の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要になります。

通算契約期間や更新回数に上限を設けない場合には、その旨の明示が必要になります。

なお、この点については、告示(有期契約労働者の雇止めや契約期間について定めた厚生労働大臣告示(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準))も改正されて、契約更新などで労働者側に不利な変更を伴う場合には、予めその理由を労働者に説明することが必要になります。

関連記事:雇い止めのルール

無期転換申込機会の明示

無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時に適用されます。この項目は労働基準法施行規則第5条に追加されます。

「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込 3 むことができる旨(無期転換申込機会)の明示が必要になります。

無期転換後の労働条件の明示

無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時に適用されます。この項目は労働基準法施行規則第5条に追加されます。

「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要になります。

なお、この点については、告示(有期契約労働者の雇止めや契約期間について定めた厚生労働大臣告示(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準))も改正されて、「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者とのバランスを考慮した事項(例:業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲
など)について、有期契約労働者に説明するよう努めなければならないこととなります。

関連記事:無期労働契約への転換

労働条件通知書の交付

労働基準法施行規則第5条4 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。

労働条件通知書を書面で交付するのが原則ですが、労働者の希望があれば、ファクシミリと電子メールを使うこともできます。

関連記事:労働条件の明示は電子メール等でもよい

厚労省ホームページに「労働条件通知書」のモデルが掲載されています。

労働条件明示の一部は、労働条件を記載した辞令の交付や就業規則の交付によって行う場合もあります。その場合は労働条件通知書の記載事項は別途交付した部分について簡略にできます。

受領印をもらって保管する

受け取っていないと主張されるとやっかいです。労働条件の通知をした証拠を残すようにしましょう。労働条件通知書の書式を作るときに、文書の末尾に「この労働条件通知書を受領しました。令和〇年〇月〇日氏名〇〇〇〇印」という欄を作りましょう。

労働条件通知書は二部作り、一部は従業員に保管してもらい、もう一部に記入押印してもらって会社が保管しましょう。同様に就業規則などを交付したときも交付文書一覧に受領印を押してもらいましょう。

労働条件について納得したら雇用契約書を取り交わしましょう。労働条件通知書はあくまでも使用者が労働者に労働条件を示したものであって、合意したことを示すものではないからです。労働条件通知の受領書があっても同様です。雇用契約が交わされたことにはならないからです。

関連記事:雇用契約書を締結しましょう

パートタイム・有期雇用労働者に対する明示

パート従業員や有期雇用従業員には、上記に加えて、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口についても文書を交付して明示しなければなりません。(パート有期雇用労働法第6条)

関連記事:パート・有期雇用労働者雇用の注意点

求人段階での労働条件明示

このページで説明した労働条件の明示は、採用時に行うもので、労働基準法に定められたものです。求人段階での労働条件の明示については職業安定法に定められています。

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