労働条件の明示は電子メール等でもよい

採用

労働条件通知書を電子メールなどの電磁的方法で送ることは可能です。2019年4月1日の労働基準法施行規則改正により、書面交付が原則だった労働条件通知が、労働者が希望した場合に限り、電子メールやFAX、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などでも行えるようになりました。

電子交付の実施条件

労働条件通知書を電子メール等で送るためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 労働者の希望: 労働者本人が電子メールなどでの交付を明確に希望している必要があります。事業主側から一方的に電子交付することはできません。
  • 書面での交付も可能であること: 労働者が希望すれば、いつでも書面での交付に切り替えられる体制を整えておく必要があります。
  • 出力・保存ができること: 労働条件通知の内容を、労働者がいつでも印刷(出力)し、保存できる形式で送信する必要があります。例えば、PDFファイルやテキスト形式などがこれに該当します。
  • 改変できないこと: 送信した内容が、後から事業主側によって勝手に改変されることのないような方法で送付する必要があります。

SNSについて

SNSについては、労働者が希望し、上記の条件を満たす場合に限り、利用可能です。

例えば、LINEやFacebook Messengerなど、メッセージのやり取りができるツールを通じて労働条件通知書を送信することが可能です。

ただし、注意点として、単なるメッセージではなく、PDFなどの形式で内容を添付する、あるいはメッセージ内で全文を記載するなど、上記「出力・保存・改変履歴」の条件を満たすことが重要です。

改変できないこと

これは、送信後に事業主側が一方的に内容を修正・変更することができない状態であることを指します。

  • PDFファイルでの送付: 最も一般的な方法です。PDFは原則として内容を簡単に編集・改変できない形式であり、改変の履歴も残りません。労働者側は内容を確認するだけで、誤って編集してしまう心配も少ないです。
  • 電子署名の活用: より厳格な証拠性を求める場合は、電子署名が付与された文書で送付します。電子署名が付与された文書は、署名後に改変が行われると、その事実が検知できるようになっています。これにより、内容が改変されていないことを客観的に証明できます。
  • メール本文に記載する際の注意: 電子メールの本文に直接記載する場合、後から送信履歴を編集することは技術的に難しいため、一見問題ないように見えます。しかし、メールサービスによっては、送信したメールを後から削除・編集できる機能がある場合もあります。また、もしもサーバー側の問題で記録が失われた場合なども考慮する必要があります。

要するに、労働条件通知書は、その内容が「送信された時点」で確定され、その後の変更ができない、あるいは変更が検知できる状態でなければならない、ということです。

紙の労働条件通知書に「改ざん」が困難であるのと同様に、電子的な通知書も、「改ざんが困難である」「改ざんが行われた場合にそれが検知できる」状態を確保することが重要です。

受領の記録

労働条件通知書を電子交付するためには、労働者本人が電子メールなどでの交付を明確に希望している必要があります。そのため、労働者の希望があったことの記録を残す必要があるます。

労働条件通知書の電子交付に関して、労働者の同意を得るための文書サンプルを2つ作成しました。

サンプル1:電子メールで同意を得る場合

件名:【ご回答のお願い】労働条件通知書の電子交付について

〇〇様

この度は、内定おめでとうございます。

株式会社△△の採用担当、□□です。

さて、この度、〇〇様の労働条件通知書を、電子メールに添付する形で交付させていただきたく、ご希望をご確認させていただきたくご連絡いたしました。

電子交付にご同意いただける場合は、お手数ですが、本メールにご返信いただけますでしょうか。

なお、電子交付をご希望されない場合は、書面にて郵送させていただきますので、その旨ご返信いただければ幸いです。

ご多忙のところ恐れ入りますが、ご返信をお待ちしております。

サンプル2:書面で同意を得る場合

労働条件通知書の電子交付に関する同意書

株式会社△△

採用担当:□□殿

私は、貴社より交付される労働条件通知書について、以下の内容を確認し、同意いたします。

  1. 労働条件通知書が、私の指定する電子メールアドレス(またはその他、FAX、SNSのアカウント等)へ電子的に交付されること。
  2. 電子交付された労働条件通知書の内容を、いつでも印刷(出力)し、保存できること。
  3. 上記1の交付方法を希望しない場合は、書面での交付に切り替えることができること。

上記の内容を承諾し、労働条件通知書の電子交付を希望します。

交付希望先

  • 電子メール:
    • 〇〇〇〇@〇〇〇.com

同意日

  • 2025年  月  日

同意者

  • 署名:

これらのサンプルは、労働者が明確に電子交付を希望していることを記録し、後々のトラブルを防ぐためのものです。労働者の署名(または返信メール)が、同意の証拠となります。