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ダブルワークについて

Last Updated on 2023年11月15日 by

兼業・副業を制限する理由

これまでは、副業・兼業、いわゆるダブルワークは就業規則で禁止されているのが一般的でした。その理由は、次のようなものです。

期待通りの労務が提供されないおそれがある

本業がおろそかになるという心配です。例えば、フルタイムで働いている従業員が、もう一つの仕事を持てば、一日の労働時間が増えることになります。寝不足や疲労によって集中力がとぎれ、事故を起こしてしまう危険性があります。

事業場秘密が漏洩するかもしれない

よその会社などで働けば、営業秘密の扱いに不安が生じます。思わぬところでの会社情報の漏洩が心配されます。また、本業が買う方の会社、副業先が売る方の会社である場合、いくら公平さを心がけたとしても、利益相反になる可能性があります。

事業場の評判や信用を損なうかもしれない

ダブルワークの内容によっては、世間的評判や信用を損なう可能性がある場合があります。

就業規則で規制することができる

副業・兼業をして会社から懲戒処分を受けて、不服として裁判に至った例は、過去いくつもありますが、これまでの判例は、休日など本業の就労義務から解放されている時間は、本来は従業員が何をしようと自由であるものの、一定の状況が認められる場合は就業規則に記載することで制限をかけることも妥当だとしています。

認める場合の検討事項

多くの事業場は、副業や兼業をこれまでは禁止にしてきたのですが、近年は、ダブルワークを認める動きがあります。

従業員からすると、「空いた時間を活用してお金を稼げる」、「自分がやりたい仕事の経験を積める」、「持っている資格を活用ができる」などのメリットがあります。

会社からすると、「無理に会社にしばりつけるのはイメージが悪い」、「いろいろ経験を積んで成長してくれれば長い目でみれば会社にメリットをもたらすかもしれない」、「他に収入があれば低賃金に対する文句が少なくなるだろう」などと考え始めているようです。

ただし、ダブルワークの従業員が過労により健康を損なう危険があり、本人の意志によるものだとしても会社の安全配慮義務が免除されるものではありません。

そこで、副業兼業を認めるにしても、無条件に認めるのではなく、個別に可否を判断することにして、例えば次のような場合には副業兼業を禁止することができるような規程の整備、運用をする必要がありそうです。

①副業兼業によって明らかに長時間労働になり、安全な労務提供が期待できない可能性がある場合。
②別の勤務先が競合会社なので会社の秘密が漏洩する危険性が考えられる場合。
③別の会社の業態や従事する仕事が会社の名誉や信用を損なう可能性がある場合。

就業規則の変更

ダブルワークを認める場合は、就業規則を変更する必要があります。

関連記事:副業・兼業|就業規則

健康管理上の問題

副業・兼業の結果、会社の対策不足などから当該従業員の健康が害されることになれば、安全配慮義務等の問題がでてくる可能性があります。ダブルワークが長時間労働・過重労働につながらないように、健康チェックなど具体的な対策が必要です。

労働時間の管理

労働基準法第38条第1項「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とあることから、本業のあと、同日に行われる副業・兼業の労働時間は通算されます。異なる会社との間で労働時間情報を交換する手段を持つ必要があります。

関連記事:ダブルワークの労働時間把握

通勤手当と通勤災害

通常は自宅と事業場の往復に通勤手当を出しますが、本業の事業場から副業・兼業の事業場へ直接の移動をする場合は、通勤手当をどうするかという問題があります。

また、その移動中のケガ等の災害に労災が適用されるとして、どちらの事業場が該当するかという問題もあります。この場合は移動先である副業・兼業先事業場が労災認定を行います。

社会保険と雇用保険

同時に複数の会社に勤務している場合、社会保険(厚生年金と健康保険)は、それぞれの会社で加入条件を満たせばそれぞれの会社が加入させて、それぞれの会社で保険料を天引きしなければなりません。雇用保険は重複加入できないので主たる事業所のみで加入手続きをとります。

令和4年4月1日より、65歳以上の労働者の場合、本人の申し出があれば、一社で雇用保険の加入要件を満たさなくても、合算して加入させる制度が実施されます。

関連記事:複数の会社で働く従業員の社会保険をどうするか

労災保険

労災事故があって労災認定された場合、以前は労災が発生した事業所における賃金額を元に給付額が計算されていましたが、現在は雇用されている全ての事業所から受け取る賃金を合算した額を元に給付額が計算されます。

関連記事:複数事業労働者の労災保険

ダブルワークの把握

ダブルワークについては、原則として本人の申告がなければ把握が難しいものです。

会社は住民税の特別徴収をしているので、その金額が過大に見えればダブルワークの可能性がありますが、市区町村から送られてくる「特別徴収税額決定通知書」の記載金額をそのまま自社のシステムに入力するので、特に意図を持ってチェックしていなければ見逃す可能性の方が高いでしょう。

むしろ、本人の日頃の様子からそれとなく分かる場合が多いと思います。

ダブルワークを把握できなかったとしても会社が法的な責任を問われることは滅多にないと思われますが、ダブルワークをしているらしいことを把握したときは、過重労働による健康不安の問題があるので、見逃さずに、しっかり事情を聞いて対処する必要があります。


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