ダブルワークの労働時間把握

Last Updated on 2023年2月26日 by

複数の職場での労働時間を通算する

パートで働く人を中心に、複数の職場を掛け持ちで働いているひとがいます。

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会社は、異なる事業場で働く人たちの労働時間を合計して把握する必要があります。

労働基準法第38条第1項に「事業場を異にする場合も、労働時間の適用に関する規定の適用については通算する」と定められています。この「事業場を異にする」は、「事業主を異にする場合を含む」という通達があります。

割増賃金の計算

労働時間管理の基本の一つに、週40時間、日8時間という時間制限があります。

二つの職場で働いた時間を足して、この時間を超えたら、割増賃金を払わなければなりません。この場合は、法定労働時間を超えた時点で働いてた職場、原則として後の職場に割増賃金を支払う義務があります。

例えば、ある労働者が日中にA店舗で5時間、夕方からB店舗で5時間働いた場合は、5時間+5時間=10時間となり、8時間を超える時点で働いていたB店舗は2時間分については割増賃金を払わなければなりません。

ただし、午前の職場で4時間、夕方の職場で4時間の契約をしている場合は、午前の職場で超過勤務をさせれば全体として8時間を超えることが明らかなので、この場合は午前の職場に割増賃金を支払う義務があります。

一般的には上述のように後の会社ということになっていますが、労働契約の順序によるという考え方もあります。

これは、アルバイトをしているかどうか常に確認することは現実的でなくても、採用時点で、他の仕事をしているかどうか確認することが現実的だからです。

時間外労働の上限規制

時間外労働の上限規制には、

① 延長できる限度時間(月45時間・年間360時間以内)
② 特別条項の上限(年720時間以内)
③ 1か月の労働時間を100時間未満(時間外労働と休日労働の合計)
④ 2か月ないし6か月の平均労働時間を月680時間以内(時間外労働と休日労働の合計)

という4つの上限があります。

このうち、①と②については事業場に対して適用される規制です。

つまり、その事業場で労働者が何時間働いたかが重要で、仮にある労働者が複数の事業場で働いていたとしても、その労働時間を通算して考える必要はないということです。

一方、③と④は労働者個々に適用されるので、異なる事業場同士でも労働時間を通算する必要があります。

よって、同じ月にAという事業場で月50時間、Bという事業場で月55時間働いた場合、「1か月100時間未満」の上限を超えるため法違反となります。

これらは厚生労働省のQ&Aに、転勤の際の労働時間の通算で説明されていますが、副業・兼業であっても基本的な考え方は同じと考えるべきでしょう。他の職場での労働時間を申告させる必要があります。

ダブルワークの把握

労働者本人が、職場に隠して別な職場で働いていることもあると思います。その場合、会社が相当の注意を払っても知りえなかった場合には免責を主張できると思います。

相当の注意の例としては、パートタイム就業規則等に申告の義務付けを明記し、雇用の際にダブルワークについて確認する、また、途中でダブルワークになったときに申告することを周知するなどです。

会社が相当の注意を払っていなかったと認められれば、従業員が隠して働いていた場合でも、会社に責任が生じる可能性があります。

責任があるとされた場合は、割増賃金未払いに対する責任だけでなく、過重労働による健康被害等にも責任が出てくると考えられます。

なお、面倒だからと、パート勤務者のダブルワークを禁止するのは、職業選択の自由があるし、生活の資を奪うことになるので無理です。

昨今、仕事の多様化の論議があり、その中には、フルタイマーの兼業禁止を見直す方向もあります。

これからは、ダブルワークはパートの問題にとどまりません。兼業を認めるということを前提とすれば、自社の従業員が働いている別の会社との連絡体制などの新たな課題が生じます。

労働時間通算の管理モデル

労働時間通算の基本は、上記のように、従業員が副業や兼業している場合、従業員の申告等により、それぞれの使用者が自らの事業場における労働時間と他の使用者の事業場における労働時間とを通算して管理する必要があります。

現実的には、従業員とその勤務する複数の会社との間で、日々の労働時間を報告する必要がありかなり煩雑です。

そこで、厚生労働省は、ガイドラインで、簡便な労働時間管理の方法として「管理モデル」を示しました。

管理モデルよる労働時間管理

管理モデルによる労働時間管理は、副業・兼業の開始前に、関係する事業場の使用者が、当該従業員のそれぞれの事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定し、その範囲内で労働させること方式です。

これにより、日常的な労働時間に関する申告や報告が不要になり、副業・兼業をする従業員の他社における労働時間を把握しなくても、労働基準法違反に問われることはなくなります。

ただし、管理モデルを導入した使用者が、あらかじめ設定した労働時間の範囲を逸脱して労働させたことによって、時間外労働の上限規制を超える等の労働基準法に抵触した状態が発生した場合には、当該逸脱して労働させた使用者が、労働時間通算に関する法違反を問われることになります。

関係先との合意

管理モデルを実施するためには、副業・兼業を行う従業員と、副業・兼業先の事業場との合意が必要です。

従業員から副業・兼業の申し出があったさいは、以下の事項を申告させる必要があります。

□ 副業・兼業先の事業内容
□ 副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
□ 副業・兼業先での労働時間

副業・兼業先の事業場とは以下の事項について確認する必要があります。

□ 副業・兼業先との労働契約締結日、契約期間、業務内容
□ 副業・兼業先での所定労働時間、始業・終業時刻、休日
□ 副業・兼業先での所定労働時間の有無、見込み時間数及び最大時間数
□ 副業・兼業先との連絡事項の伝達手段と窓口

各事業場での労働時間の上限

以下、従来の使用者をA社、新しい使用者をB社、C社とします。

A社の事業場における1か月の法定外労働時間とB社の事業場における1か月の労働時間とを合計した時間数が単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定します。

月の労働時間の起算日が異なる場合は、無理に合わせることなく、各々の事業場の労働時間制度における起算日を基に、そこから起算した1か月における労働時間の上限をそれぞれ設定して構いません。

時間外労働の割増賃金の取扱い

A社は自らの事業場における労働のうち、法定外労働時間の労働について割増賃金を支払います。なお、所定外労働時間外の労働についても割増賃金を支払うこととしている場合には、所定外労働時間について割増賃金を支払います。

B社は自らの事業場における労働時間の労働について割増賃金を支払います。

通算60時間超の場合

A社の事業場における法定外労働時間の上限にB社の事業場における労働時間を通算して、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が1か月について60時間を超えた場合には、その超えた時間の労働のうち自らの事業場において労働させた時間については、法定外60時間以上に適用される割増率を適用します。

以上は、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン(平成30年1月策定令和2年9月改定)」によるものです。

詳細は ↓

会社事務入門労働時間の適正な管理労働時間の把握方法>このページ


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