監査手続書とは
監査手続書(個別監査プログラム)とは、特定の監査テーマや対象部門について、監査を効率的かつ網羅的に実施するための具体的な手順(手続き)を定めた文書です。
これは、年間計画で定められた監査テーマを具体的に実行するための「行動計画」であり、監査員が「いつ(When)」「どこを(Where)」「何を(What)」「どのように(How)」確認するかを明確にします。
監査手続書の目的:
- 監査品質の均一化: 監査員が変わっても、同じ基準と手順で監査を実施できるようにする。
- 網羅性の確保: 監査で確認すべき重要なリスクや手続きの抜け漏れを防ぐ。
- 監査証拠の記録: 実施した手続きと得られた監査証拠(根拠)を明確に記録するためのベースとなる。
在庫管理監査の監査手続書サンプル
ここでは、先に策定した「内部監査年間計画書」の第2四半期(7月~9月)のテーマである「購買・在庫管理監査」のうち、「在庫管理」に焦点を当てた監査手続書(個別監査プログラム)のサンプルを示します。
内部監査手続書(個別監査プログラム)
監査テーマ | 在庫管理の適正性 | 監査対象部門 | 購買部、倉庫管理部門 |
監査期間 | 2026年8月1日~8月31日 | 監査員 | 内部監査室長 |
1. 予備調査(リスク評価と基準の把握)
No. | 監査手続(確認事項) | 監査基準(根拠となる文書) | 実施者 | 実施日 | 監査証拠 | 所見・評価 |
1.1 | 倉庫管理部門の組織図と担当者リストを入手し、職務分掌(入出庫担当者と記録担当者の分離など)を確認する。 | 倉庫管理規程、組織図 | 内部監査室長 | 7/10 | 組織図、職務分掌表 | |
1.2 | 棚卸資産管理規程を入手し、実地棚卸の頻度、方法(全数/循環)、差異発生時の処理手続きを確認する。 | 棚卸資産管理規程 | 内部監査室長 | 7/15 | 規程 | |
1.3 | 直近の在庫回転率、不良・滞留在庫のリストを入手し、高リスク品目や異常な変動がないか予備分析する。 | 在庫管理システムデータ | 内部監査室長 | 7/20 | 分析資料 |
2. 現場監査活動(統制の運用状況の検証)
No. | 監査手続(確認事項) | 監査基準(根拠となる文書) | 実施者 | 実施日 | 監査証拠 | 所見・評価 |
2.1 | 【入出庫】倉庫への入庫時の検収手続き(発注書との照合、数量確認)が、手順通りに行われているか、書類をサンプリングして確認する。 | 倉庫管理手順書 | 内部監査室長 | 8/05 | 入庫伝票、検収書 | |
2.2 | 【在庫保管】在庫品が指定されたロケーションに保管され、整理・整頓がなされているか、また、不正持ち出し防止のための物理的管理(施錠など)を確認する。 | 倉庫管理規程 | 内部監査室長 | 8/05 | 現場観察記録、写真 | |
2.3 | 【棚卸】直近で実施された実地棚卸の記録を入手し、棚卸差異が発生した場合、原因究明と是正措置が適切に行われたかを確認する。 | 棚卸資産管理規程 | 内部監査室長 | 8/10 | 棚卸表、差異報告書、原因分析記録 | |
2.4 | 【滞留在庫】予備調査で識別した滞留在庫(例:1年以上動きのない品目)について、評価減の検討がなされているか、また、その妥当性(販売可能性など)を関連部署にヒアリングする。 | 棚卸資産評価規程 | 内部監査室長 | 8/15 | 評価委員会資料、ヒアリング記録 | |
2.5 | 【支店管理】A支店の在庫管理担当者に対し、在庫データの入力や入出庫管理の手順についてヒアリングを行い、本社との手順の統一性を確認する。 | 支店業務マニュアル | 内部監査室長 | 8/20 | ヒアリング記録 |
3. 評価と報告
No. | 監査手続(確認事項) | 監査基準(根拠となる文書) | 実施者 | 実施日 | 監査証拠 | 所見・評価 |
3.1 | 不適合事項および改善推奨事項を整理し、監査調書にまとめる。 | 監査報告書作成手順 | 内部監査室長 | 8/25 | 監査調書 | |
3.2 | 監査結果報告書を作成し、監査対象部門責任者へ説明を行う。 | 監査報告書作成手順 | 内部監査室長 | 8/30 | 報告書 |
監査手続の設計におけるポイント
- 「何を」「どのように」の具体化: 「在庫管理が適切か」という抽象的な問いではなく、「入庫時の検収手続きが手順通りか」のように、具体的な行動(手続き)に落とし込みます。
- 監査証拠の明記: 監査手続きの結果、「どの文書(記録)を確認したか」や「誰にヒアリングしたか」を明確に記録する欄を設けます。これは監査報告の裏付けとなります。
- リスクへの対応: 予備調査で特定した「滞留在庫」や「支店の統一性」といった高リスクな領域に対して、重点的に手続きを割り当てます。