Last Updated on 2025年9月3日 by 勝
弁明の機会を与える必要
懲戒処分の前に本人に弁明の機会を与えることについては、法律では明記されていませんが、裁判例では「弁明の機会を与えない懲戒処分は無効」とされたものがあります。懲戒処分の適正手続きの観点から、事実確認を十分に行い、処分の有効性を確保するために、本人の弁明を聴くことが推奨されます。
以下に架空の事案でシナリオを作成しました。懲戒委員会が本人から事情を聴く場面です。
シナリオ1
会社側出席者は3名、審議中は録音します。事案はセクハラです。本人は強く否定しています。会社の調べでは目撃情報も出ています。弁明を聴く場なのでこの場では追求しません。
委員会の日時等
- 日時: 2025年9月3日(水)11:00~
- 場所: A会議室
- 出席者:
- 会社側:懲戒委員長(A)、懲戒委員(B、C)の3名
- 本人:社員(D)
- 記録: 録音
- 事案: セクハラ(本人は強く否定)
- 争点:
- 申告された行為があったのか。
弁明聴取シナリオ
1. 冒頭
委員長(A): Dさん、本日はお忙しい中、懲戒委員会へのご出席ありがとうございます。私は本委員会の委員長を務めますAです。本日の議事進行をさせていただきます。
こちらは委員のBとCです。本日は、社内で提起されているハラスメントに関する件で、Dさんのご意見、ご説明を伺うために集まっていただきました。
本日はDさんの弁明を公正に聴取するため、ご本人の同意を得て、この場を録音させていただきます。これは、後日、委員会で内容を正確に確認するためであり、Dさんの不利益になるような目的で利用することはありません。よろしいでしょうか。
本人(D): はい、承知いたしました。
委員長(A): ありがとうございます。それでは、さっそく本題に入らせていただきます。
2. 事実関係の確認
委員長(A): 会社として、これまで調査してきた内容について、まずご説明させていただきます。
- 〇月〇日、〇〇部所属のEさんから、Dさんによるハラスメント行為の申告がありました。
- 申告された内容は、〇月〇日の業務中、Eさんに対してDさんが不適切な言動を行った、というものです。
- 会社はEさんから詳細な状況を聴取し、また、社内の複数の関係者からも聞き取り調査を行いました。
委員長(A): ここまでの事実関係について、Dさんから何か補足や訂正はございますか。
本人(D): ありません。しかし、私はEさんに対して、そのような不適切な言動は一切行っていません。誤解だと思います。
3. 本人からの弁明聴取
委員長(A): ありがとうございます。それでは、Dさんご自身から、この件について詳しくご説明いただけますか。〇月〇日にEさんとどのようなやり取りがあったか、時系列に沿ってご説明いただけますでしょうか。
本人(D): はい。あの日、Eさんとは仕事の話をしていました。特に変わったこともなく、ごく普通の業務上の会話だったと記憶しています。Eさんの言うような不適切なことは言っていませんし、なぜ申告されたのか、本当に理解できません。
委員長(A): 具体的にどのような話題で、どのくらいの時間話されていましたか。
本人(D): 〇〇プロジェクトの進捗についてです。5分ほど立ち話をしていました。
委員長(A): わかりました。他に何かこの件について、ご説明しておきたいことはありますか。
本人(D): 私は本当にEさんを不快にさせるような意図もありませんでしたし、そういう言動も取っていません。
4. 委員からの質疑応答
委員長(A): Dさん、詳しいご説明ありがとうございます。ここからは、私たち委員からいくつか質問をさせていただきます。
委員(B): 業務上の会話とのことでしたが、会話の中でプライベートな話題は一切出ませんでしたか。
本人(D): まったくありません。
委員(C): これまでEさんとは、業務上、どのような関わりがありましたか。過去に何かトラブルになったり、誤解されたりしたことはありませんか。
本人(D): 特にありません。業務でたまに話す程度で、トラブルになったことはありません。
委員(B): 会社の調査で、Dさんの日頃の言動について、周囲の方からいくつかの指摘がありました。これらは、今回申告されたような行為と似た内容も含まれていますが、心当たりはありますか。
本人(D): いいえ、私は皆さんとコミュニケーションを積極的にとるようにしているので、雑談することは多い方だと思いますが、不愉快にさせているようなことはしていません。
5. 結び
委員長(A): Dさん、本日は丁寧にご説明いただきありがとうございました。弁明の内容はすべて記録いたしました。
本日お話いただいた内容をもとに、懲戒委員会で改めて慎重に審議を進めてまいります。審議の結果については、後日、会社から改めてご連絡いたします。
シナリオ2
会社側出席者は3名、審議中は録音します。事案は会社備品の窃盗です。本人は強く否定しています。会社の調べでは、その備品はフリマサイトに出品されたものと類似しています。弁明を聴く場なのでこの場では追求しません。
委員会の日時等
- 日時:2025年9月3日(水)11:00~
- 場所:A会議室
- 出席者:
- 会社側:懲戒委員長(A)、懲戒委員(B、C)の3名
- 本人:社員(D)
- 記録:録音
- 事案:会社備品の窃盗(本人は借りた後、紛失したと主張)
- 争点:
- 備品が意図的に持ち出された(窃盗)のか、無断で持ち出された後に紛失したのか。
- フリマサイトに出品された備品と、紛失した備品が同一のものか。
弁明聴取シナリオ
1. 冒頭
委員長(A): Dさん、本日はお忙しい中、懲戒委員会へのご出席ありがとうございます。私は本委員会の委員長を務めますAです。本日の議事進行をさせていただきます。
こちらは委員のBとCです。本日は、会社の備品に関する件で、Dさんのご意見、ご説明を伺うために集まっていただきました。
本日はDさんの弁明を公正に聴取するため、ご本人の同意を得て、この場を録音させていただきます。これは、後日、委員会で内容を正確に確認するためであり、Dさんの不利益になるような目的で利用することはありません。よろしいでしょうか。
本人(D): はい、承知いたしました。
委員長(A): ありがとうございます。それでは、さっそく本題に入らせていただきます。
2. 事実関係の確認
委員長(A): 会社として、これまで調査してきた内容について、まずご説明させていただきます。
- 〇月〇日頃、社内備品であるノートPCが所在不明となっていることが判明しました。
- その後、会社が調査を進めたところ、このノートPCと酷似したものが、フリマサイトに「〇月〇日に出品」されていることが確認されました。
- Dさんにおかれましては、この件について、ご自身で備品を借りた後、紛失してしまったと主張されています。
委員長(A): ここまでの事実関係について、Dさんから何か補足や訂正はございますか。
本人(D): ありません。おっしゃる通りです。私は備品を借りただけで、盗んでいません。
3. 本人からの弁明聴取
委員長(A): ありがとうございます。それでは、Dさんご自身から、備品が紛失するに至った経緯について、詳しくご説明いただけますか。時系列に沿って、どのような状況だったかお話しいただけますでしょうか。
本人(D): はい。〇月〇日に業務でPCを使う必要があり、ロッカーから出して持ち帰りました。自宅で作業を終えた後、そのまま返却するのを忘れてしまい、カバンの中に入れたままになっていました。その後、PCを返却しようとしたのですが、どこを探しても見つからず、紛失したことに気づきました。
委員長(A): 持ち出した場所は会社のロッカーからですね。
本人(D): はい、そうです。
委員長(A): ちなみに、フリマサイトに出品されていたPCをご覧になりましたか。
本人(D): はい、見ました。
委員長(A): それは、Dさんが紛失されたPCと同一のものであると思われますか。
本人(D): 似ているとは思いましたが、確信はありません。
委員長(A): わかりました。では、紛失に気づかれたのはいつ頃でしょうか。
本人(D): 〇月〇日頃です。会社に連絡しようか迷っていたところ、上司の〇〇さんから聞かれてご説明しました。
4. 委員からの質疑応答
委員長(A): Dさん、詳しいご説明ありがとうございます。ここからは、私たち委員からいくつか質問をさせていただきます。
委員(B): 紛失されたPCは、最後にどこで確認されましたか。
本人(D): 自宅です。作業を終えて、カバンの中にしまったところまでは覚えています。
委員(B): 紛失に気づいた際、何か心当たりはありませんか。例えば、PCを入れたカバンをどこかに置き忘れたり、落としたりしたようなことは。
本人(D): ありません。カバンは常に持ち歩いていたので。
委員(C): フリマサイトには出品者情報が記載されていたと思いますが、心当たりはありますか。
本人(D): いえ、まったくありません。
5. 結び
委員長(A): Dさん、本日は丁寧にご説明いただきありがとうございました。弁明の内容はすべて記録いたしました。
本日お話いただいた内容をもとに、懲戒委員会で改めて慎重に審議を進めてまいります。審議の結果については、後日、会社から改めてご連絡いたします。
聴取のポイント
- 冒頭で録音の目的を明確に伝え、本人の同意を得ることで、公正性を担保します。
- 会社側の調査結果を簡潔に提示し、事実関係の認識をすり合わせます。
- 「弁明を聴く場」であることを意識し、本人が自由に話せるように、まず本人の主張を促します。
- 質疑応答では、あくまで事実の確認に徹し、誘導尋問や断定的な言い方を避けます。捜査ではないので「白状させよう」と思ってはいけません。
- 事実を指摘するのは構いませんが、確認だけです。強く反論するのは控えます。
- 最後に、結論は後日伝えることを明確にし、この場で結論を出さない姿勢を示します。
このシナリオは、あくまで弁明聴取のたたき台です。回答によっては、いろいろな展開が考えられます。その際は臨機応変に対応してください。