メンタルヘルスケアを担当する部署の設置と運営

メンタルヘルスケア

メンタルヘルスケアは、担当者を兼務で発令するだけでは充分な仕事ができません。できるだけ、専任のメンタルヘルスケア担当(部署を)設置したいものです。

組織規程に規定する

メンタルヘルスケアを専任で担当する担当者(部署を)設置したときは、組織規程のなかで、その目的と役割を明確に定義することが重要です。これにより、部署の存在意義が社内外に伝わり、従業員も安心して利用できるようになります。

以下に、組織規程に盛り込むべき規定の例を示します。

部署の名称

部署の性格が直感的に伝わる名称を検討します。

  • 例:
    • 「健康推進室」
    • 「ウェルネス推進部」
    • 「従業員支援センター(EAPセンター)」

目的(存在意義)

最も重要なのが、この部署を設置する目的を規定することです。メンタルヘルスケアが単なる「不調者対応」ではなく、「従業員全体の健康増進と生産性向上」に貢献するものであることを明記します。

  • 規定例:
    • 「本部署は、全従業員の心身の健康維持・増進を図るとともに、快適かつ安全な職場環境の形成を推進することを目的とする。」
    • 「本部署は、メンタルヘルス不調の予防、早期発見、そして円滑な職場復帰支援を包括的に実施し、従業員の健全な職業生活を支援する。」

所掌事務(具体的な役割)

部署が担当する具体的な業務内容を列挙することで、その機能と責任範囲を明確にします。

  • 規定例:
    1. メンタルヘルス不調の予防に関する事項:
      • ストレスチェックの企画、実施、および結果分析
      • メンタルヘルスに関する研修の企画、実施
      • 職場環境改善に向けた提言、および関係部署との連携
    2. 不調者への対応・支援に関する事項:
      • 社内および社外の各種相談窓口の運営
      • メンタルヘルス不調者およびその上司に対する専門的助言
      • 休職制度の運用、および主治医や産業医等との連携
    3. 職場復帰支援に関する事項:
      • 休職者に対する職場復帰支援プログラムの策定、および実施
      • 復帰後のフォローアップ、および再発防止策の検討

機密保持と連携

メンタルヘルスケアにおいては、従業員のプライバシー保護が絶対条件です。また、人事や総務、産業医といった他部署との連携も不可欠です。これらの関係性を明確に規定します。

  • 規定例:
    • 「本部署は、従業員から提供された個人情報および相談内容の機密を厳守し、本人の同意なくこれを他部署および第三者に開示しない。」
    • 「本部署は、人事部門、総務部門、および産業医等と密接に連携し、従業員への適切な支援体制を構築する。」

これらの規定を組織規程に明文化することで、部署の専門性、重要性、そして従業員に対する配慮が明確に示され、全社的な理解と協力が得られやすくなります。

外部EAPサービスの利用

EAPサービスを社内だけで実施する(内部EAP)のは、専門スタッフの確保やプライバシー保護の体制構築が難しく、多くの企業、特に中小企業にとっては大きな負担となります。

そのため、現在、多くの企業が外部の専門サービス会社に委託する方法(外部EAP)を採用しています。

外部委託するメリット

EAPを専門会社に外注する最大のメリットは、社内では実現が難しい「専門性」「匿名性」「コスト効率」を確保できる点にあります。

メリット詳細
1. 匿名性の確保と利用促進外部の機関が相談窓口となるため、従業員は「相談内容が社内に漏れて評価に影響するのではないか」という不安を感じにくく、心理的なハードルが大きく下がります。ハラスメントなど、社内の人間には相談しづらいデリケートな問題ほど効果を発揮し、結果としてサービスの利用率向上につながります。
2. 高い専門性と幅広い対応臨床心理士、公認心理師、弁護士、ファイナンシャルプランナーなど、多様な分野の専門家による支援をまとめて提供できます。自社でこれらの専門家を常駐させるよりも、低コストで質の高いサービスを利用できます。
3. コスト効率専門スタッフを自社で雇用する(人件費:年間数百万円)よりも、外部EAPの利用料(従業員一人あたり月額数百円程度)の方が、一般的にコストを抑えやすい傾向があります。
4. 全国・24時間対応外部EAPサービスは、電話やオンラインを通じて全国の事業所に対応できます。また、24時間365日対応しているサービスも多く、従業員が自分の都合の良い時間に、緊急時にも相談できる体制を構築できます。
5. 企業の負担軽減相談対応、カウンセラーの手配、ストレスチェック後の面談調整、研修プログラムの実施など、EAPの運用に関わる事務的な負担や労力を大幅に軽減できます。

内部EAPとの比較

項目外部EAP(外部委託)内部EAP(自社実施)
専門性・幅広さ高い(多様な専門家を確保しやすい)限定的(自社で雇用できる専門家に限られる)
匿名性・相談しやすさ高い(社外のため)低い(社内での噂や評価への影響を懸念されやすい)
コスト比較的安価(従業員数に応じた月額料金)高額(専門スタッフの人件費や設備費)
企業文化の理解時間がかかる場合がある深い(社内の事情や文化を把握している)
対応時間24時間365日対応が可能勤務時間内に限定的になりがち

多くの企業では、外部EAPを導入し、社内の産業医や保健師(内部EAPの機能の一部)と連携させることで、外部の専門性と匿名性を活かしつつ、社内事情を理解したケアも両立させるハイブリッドな形がとられています。