「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」について詳しく解説

育児介護

2025年10月1日施行の「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」は、育児・介護休業法の改正によって事業主に義務付けられる措置で、労働者が仕事と育児を両立できるよう、個々の状況に応じた支援を強化することが目的です。

個別の意向聴取

この義務は、事業主が特定のタイミングで労働者から仕事と育児の両立に関する意向を聴き取り、その意向に沿って適切な配慮を行うことを求めるものです。

意向聴取を実施するタイミング

事業主は、以下の2つの時期に、対象となる労働者に対して個別に意向聴取を行う必要があります。

  • ① 労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき
  • ② 労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間
    • 具体的には、子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの1年間です。

【第1のタイミング】妊娠・出産等の申出時

これは、育児休業制度等の周知・意向確認の義務と同じタイミングです。この申出をきっかけに、事業主は労働者に対し、育児休業制度の説明と、仕事と育児の両立に関する意向聴取を個別に行います。

【第2のタイミング】子が3歳になる前の適切な時期

指針で定められた具体的な期間は、子の1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までです。

なぜ期間が特定されているのか?

この「子の1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの1年間」という期間は、以下のような実務上のニーズを踏まえたものです。

  1. 育児休業終了後のキャリア・両立支援の検討時期
    • 多くの労働者は、子が1歳または1歳半(最長2歳)で育児休業を終了し、職場復帰します。この期間は、復帰後の働き方を見直すのに適しています。
  2. 両立支援制度の利用状況の確認
    • この時期は、育児短時間勤務制度など、復帰後に利用している両立支援制度の利用期間の終わりが近づいていることが多く、今後の働き方や、制度の延長の意向を確認するのに適切なタイミングです。

「適切な時期」という表現について

「子が3歳になる前の適切な時期」という表現は、この1年間のうち、会社が個別の面談や書面交付を実施しやすい時期を指しています。

たとえば、子の2歳の誕生日が近づいたときや、現行の短時間勤務制度の利用期限が切れる数か月前など、各社の実情に合わせて、この1年間の中で聴取を実施する時期を定めることになります。

聴取する意向の内容

聴取する内容は、主に子や家庭の事情に応じた就業条件に関する希望です。

  • 勤務時間帯(始業および終業の時刻)
  • 勤務地(就業の場所)
  • 両立支援制度等の利用期間
  • 仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)

意向聴取の方法

以下のいずれかの方法で行う必要があります。

  • 面談(オンライン面談も可)
  • 書面の交付
  • FAX(労働者が希望した場合のみ)
  • 電子メール等(労働者が希望した場合のみ)

書面の交付・FAX・電子メール等

「書面の交付・FAX・電子メール等」は、意向聴取に必要な情報が記載された書面を労働者に手渡す(郵送も含む)、またはFAX・電子メール等で送付することを指します。しかし、単に書面を渡すだけでは「意向を聴いた」ことにはなりません。この「書面の交付」等は、「面談」の代わりではなく、「意向聴取の手段」の一つとして、以下のステップで「聴取」の義務を果たすことになります。

ステップ内容目的
① 書面の交付・送付会社が、両立支援制度の内容と、労働者の意向を記入するための質問項目(勤務時間、勤務地、業務量など)を記載した書面を労働者に渡します。労働者に制度情報を提供し、意向を表明する機会を与える。
② 労働者の記入・提出労働者が書面で質問項目に対する自身の具体的な希望(意向)を記入し、会社に提出(返却)します。労働者の具体的な意向を会社が「聴取」(把握)する。
③ 会社による配慮・検討会社は提出された意向に基づき、配慮すべき事項を検討し、その結果を労働者にフィードバック(通知)します。「聴取した意向についての配慮」の義務を履行する。

つまり、「書面の交付」等は、「意向確認書」や「両立支援意向届」といった書類を労働者に渡し、それに記入・提出してもらうことで意向を把握する手法であり、書面のやり取り自体をもって「意向聴取」と見なされます。

FAXや電子メール等の電磁的方法は、「労働者が希望した場合」にのみ認められるとされています。

聴取した意向への配慮

事業主は、聴取した労働者の意向に基づき、自社の状況に応じて適切な配慮を行うことが求められます。

配慮の内容は、必ずしも労働者の意向通りにしなければならないわけではありませんが、意向を踏まえた検討を行う必要があります。

  • 勤務時間帯や勤務地にかかる配置
  • 業務量の調整
  • 両立支援制度の利用期間等の見直し
  • 労働条件の見直し

望ましい対応の例

  • 子に障害がある場合などで希望するときは、短時間勤務制度や子の看護等休暇等の利用可能期間を延長すること。
  • ひとり親家庭の場合で希望するときは、子の看護等休暇等の付与日数に配慮すること、などが指針で示されています。

意向聴取のイメージ(サンプル)

「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」は、労働者の状況に応じた就業条件全般(業務内容、勤務時間、勤務地など)について、会社がより幅広く配慮するためのプロセスです。この「広範な就業条件の調整・配慮」に焦点を当てたシナリオを以下に示します。

登場人物

  • Aさん: 従業員。復帰直後、または子が3歳を迎えるなど、働き方の見直しを希望する時期。
  • Bさん: 人事担当者。

ステップ 1: 両立状況と制度利用意向の聴取

Bさんは、Aさんの現在の状況と、会社が提供する既存・新規の全制度(時短勤務、残業免除、子の看護等休暇、柔軟な働き方措置など)への利用意向を確認します。

面談のやり取り(抜粋)意向聴取の目的
Bさん: 「この面談は、今後のAさんの仕事内容や働き方が育児と無理なく両立できるよう、一緒に調整するためのものです。まずは、現在利用されている(またはこれから利用したい)柔軟な働き方の措置(時差出勤、テレワークなど)や、残業免除について、具体的な希望をお聞かせください。」既存および新しい制度の利用意向を確認
Aさん: 「残業は免除をお願いしつつ、今後は、子が小学校に入学するまでの期間、週2日の在宅勤務を希望したいです。また、子の病気が増えたので、子の看護等休暇を時間単位で利用する可能性があります。」具体的な制度利用の頻度や期間を把握

ステップ 2: 就業条件全般(仕事の質・量・場所)に関する意向聴取

Bさんは、制度の利用可否だけでなく、Aさんの仕事そのものに対する希望や懸念点を深く掘り下げます。これが「個別の意向聴取・配慮」の核心です。

面談のやり取り(抜粋)意向聴取・配慮のポイント
Bさん: 「承知しました。次に、お任せしている業務内容や量についてです。現状、Aさんの担当業務の中で、突発的な対応が必要なものや、急な出張が不可避なものはありますか?また、プレッシャーが大きいと感じる業務はありますか?」業務負荷、突発性、精神的負担の把握
Aさん: 「現在担当している『Cプロジェクト』は納期が厳しく、急な夜間対応が必要になることがあり、両立が難しいと感じています。また、来期の地方出張が多い役割へのアサインは避けたいです。」具体的な業務上の制約の提示
Bさん: 「ありがとうございます。その意向を最優先に検討します。勤務地については、通勤時間短縮のため、週2日の在宅勤務以外の日に、自宅近くのサテライトオフィスを利用する可能性も検討できますが、いかがでしょうか?」勤務場所に関する柔軟な配慮を提示

ステップ 3: 会社としての具体的な「配慮」の決定と実行

Bさんは、Aさんの意向を尊重しつつ、関係部署と協議し、業務運営に支障がない範囲で、具体的な配慮内容を提示します。

決定・配慮の内容(Bさんの回答)「配慮」の実行
Bさん: 「分かりました。『Cプロジェクト』の担当は、一旦Dさんに引き継ぎます。Aさんには、納期に余裕があり、突発的な夜間対応が少ない『Eプロジェクト』のサブリーダーとして入っていただきます。業務量は、当面8割に調整し、残業・深夜業は免除します。」業務内容・量の調整(配慮)の実行
Bさん: 「出張については、向こう1年間は日帰りの近隣出張のみとします。また、ご希望の週2日の在宅勤務は恒久的に利用できるよう手続きを進めます。」就業条件(出張、勤務場所)の具体的な調整
Bさん: 「この調整内容は、合意書に記録し、来期の異動・評価の判断材料とします。また、3ヶ月後に改めて面談を行い、問題がないか確認させてください。」記録の義務とフォローアップの約束

聴取等の記録

法律で「記録の作成・保存」が明確に義務付けられているわけではありませんが、事業主が「個別の意向聴取・配慮」を適切に実施したことを証明するため、また、その後の適切な配慮を実施する際の根拠とするために、記録を残すことは実務上、不可欠です。

記録の重要性

  • 実施の証明: 法の義務である「意向聴取」を、いつ、誰に対して、どのように実施したかの証拠となります。
  • 配慮の根拠: 労働者から聴取した具体的な意向(希望)と、それに対する会社側の検討内容や提供した配慮を紐づける根拠となります。
  • トラブル防止: 意向聴取の内容や配慮に関する認識の齟齬を防ぎ、労働者との予期せぬトラブルを回避します。

記録すべき具体的な内容

記録には、以下の事項を漏れなく、具体的に記載することが望ましいです。

項目記載すべき内容
実施日時意向聴取を行った具体的な年月日、時間。
対象者労働者の氏名、所属部署。
実施方法面談(対面・オンライン)、書面、メール等のうち、どの方法で実施したか。
聴取事項労働者が希望する具体的な内容(「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」で義務付けられた以下の項目)。
* 勤務時間帯(始業および終業の時刻)
* 勤務地(就業の場所)
* 両立支援制度等の利用期間
* 仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)とその理由。
事業主の配慮内容聴取した意向に対し、会社が検討した内容、決定し提供する配慮(例:短時間勤務の適用、業務量の調整、在宅勤務の許可など)。
フォローアップ必要に応じて今後の再検討の時期や、相談窓口等についての情報提供の有無。

記録のサンプル(イメージ)

「妊娠・出産等を申し出たとき」の意向聴取を想定した記録のサンプルイメージです。

【仕事と育児の両立に関する個別意向聴取・配慮 記録簿】

項目記載内容
対象労働者山田 太郎
所属部署営業企画部
意向聴取日2026年1月20日(火) 14:00~14:30
実施方法オンライン面談(人事担当:田中)
聴取時の状況配偶者の妊娠申出(出産予定:2026年6月)に伴う聴取
聴取事項と意向
1. 勤務時間帯育児休業明け(2027年3月予定)から1年間、所定時間勤務を9:00~18:00から9:30~17:30に変更したい。(保育園の送迎を希望のため)
2. 勤務地変更希望なし(現状通り本社勤務)
3. 両立支援制度育児休業を子の1歳6か月まで取得予定。その後、上記時短勤務制度を1年間利用したい。
4. その他の希望突発的な病気の際の子の看護休暇を、有給と無給を含めて最大限利用したい。
事業主の配慮内容
検討・決定事項* 育児休業:申出通り子の1歳6か月まで取得を承認。
* 短時間勤務:復帰後1年間、9:30~17:30(休憩60分)での勤務を承認。
* 子の看護休暇:法定通りの日数に加え、会社独自の有給休暇(年間5日)についても利用可能であることを説明し、承認。
確認事項今後、子の成長や家族の状況に変化があれば、随時、個別相談窓口に相談可能であることを伝達した。
記録者署名田中 幸子
本人確認確認済み(署名または確認メールの受領)

このように、記録は労働者の希望(意向)と会社がそれに対して何を提供・配慮したかを対にして残すことが重要です。