カテゴリー: 労働保険

  • 労働保険料の追徴金

    追徴金とは

    労働保険関係の成立手続きを行うよう指導を受けたのにもかかわらず、自主的に成立手続きを行わない事業主に対しては、行政は職権によって成立手続きを行い、労働保険料の認定決定を行います。

    追徴金は、手続きを怠ったために、行政による認定決定の処分を受けたときに徴収される懲罰的な金銭です。

    懲罰的な金銭なので、認定決定された確定保険料を、その通知を受けた日から15日以内に納付した場合であっても、徴収されます。

    ただし、概算保険料については、追徴金の対象外なので、認定決定の処分を受けた場合であっても、追徴金は徴収されません。

    追徴金は確定保険料の不足額に対して10%の割合で徴収され、納付すべき額が1000円未満のときは徴収されません。

    似たような徴収金に延滞金というのがありますが、こちらの方は遅延利息です。延滞金は督促が行われた場合に徴収されます。

    関連記事:労働保険料を滞納すればどうなる、猶予制度はあるの?

    労災保険給付に要した費用の徴収

    事業主が故意又は重大な過失により労災保険に係る保険関係成立届を提出していない期間中に労働災害が生じ、労災保険給付を行った場合は、事業主から労働保険料と追徴金を徴収するほかに、労災保険給付に要した費用の全部又は一部を徴収することになっています。


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  • 労働保険料を滞納すればどうなる、猶予制度はあるの?

    労働保険料の延滞金とは

    労働保険料の延滞金とは、労働保険料を滞納している事業主に対して課せられる徴収金(遅延利息)のことです。

    延滞金は、労働保険料の納付の督促をうけ、督促状に指定された期限までにこれを納付しないときに徴収されます。督促が行われた場合であっても、指定された期限までに納付すれば、延滞金は徴収されないことになっています。

    延滞金は、税務申告上の経費になりません。

    似たような徴収金に追徴金というのがありますが、こちらは罰金のようなものです。労働保険関係の成立手続きを怠って、職権で認定決定をされたされたときに徴収されます。

    関連記事:労働保険料の追徴金

    延滞金の計算式

    法定納期限の翌日からその完納又は財産差押えの日の前日までの日数×料率

    保険料額に年14.6%の割合で計算し徴収されます。また最初の2か月間は軽減措置が設けられています。ただし、延滞税の軽減措置が講じられている期間は軽減されています。

    納付しないとどうなる

    労働保険料を、延滞金も含めて納付しないでいると、滞納処分を受けることがあります。滞納処分とは、滞納事業主の財産から強制的に保険料を徴収する法的手続きです。税金を滞納したときの「差押え」のような処分です。

    納期限までに納付できない事情がある場合は、早めに都道府県労働局労働保険徴収室または最寄りの労働基準監督署に相談しましょう。災害等により保険料が一時的に納付できない事業主のために、納付猶予制度があります。

    納付猶予制度

    労働保険料を一時的に支払えない場合に活用できる「納付猶予制度」には、次の3つのタイプがあります。

    種類状態・要件猶予期間延長の可能性
    災害猶予災害で資産の約20%以上の損失原則1年まで最大3年まで一般猶予との合算で可能
    一般猶予病気、災害・盗難、廃業、赤字等の事情原則1年まで最大2年まで延長可能
    換価の猶予支払いが事業・生活を圧迫する場合最長1年まで(納期限から6か月以内に申請)不明(基本1年以内)
    1. 上記のどのタイプが該当するか確認し、必要な証拠書類(罹災証明書、損益資料など)を準備する。
    2. 担保の要否を判断する。条件に応じて担保が不要な場合もあるので確認を。
    3. 最寄りの 管轄労働局 に相談し、申請書類を入手・提出する。

    制度の具体的な利用手続きや書類については、厚生労働省の公式ページや所轄の労働局にて詳細をご確認のうえ、早めの申請をおすすめします。


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  • 石綿健康被害救済法一般拠出金

    一般拠出金とは

    労働保険の一般拠出金は「石綿による健康被害の救済に関する法律」により、アスベスト(石綿)健康被害者の救済費用に充てるためのものです。

    何の「一般」なのか分かりにくいのですが、石綿健康被害救済法に基づく、石綿健康被害救済のための「一般拠出金」といいます。

    また、「一般拠出金」に対して「特別拠出金」もあります。特別拠出金は、石綿の使用量等が政令で定める要件に該当する事業主が徴収されるものです。

    保険料について

    一般拠出金は、労働保険と合わせて申告・納付します。一般拠出金は概算保険料の申告では申告の必要はありません。確定納付のみの手続きです。

    また、一般拠出金は労働者からは徴収しません。全額、事業主が負担します。

    アスベストは全ての産業において、その基盤となる施設、設備、機材等に幅広く使用されてきたため、健康被害者の救済にあたっては、アスベストに直接関係する事業の事業主だけでなく、すべての労災保険適用事業場の事業主が一般拠出金を負担することになっています。

    業種を問わず、料率は一律1000分の0.02です。

    一般拠出金の額=事業主が前年度に労働者に支払った賃金総額×一般拠出金率

    一般拠出金の部分は延納(分割払い)の対象になりません。

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  • 役員や家族等の労働保険は加入条件に注意が必要です

    役員の扱い

    法人の役員は原則として労災保険や雇用保険が適用されません。ただし、従業員としての身分がある場合(いわゆる使用人兼務役員)は被保険者になれる場合があります。

    雇用保険の手続き

    役員であっても、部長、支店長、工場長などの会社の従業員としての身分も兼ねている場合は、就労実態や給料の額などからみて労働者としての性格が強く認められるのであれば、例外的に雇用保険の被保険者として認められることがあります。

    この適用を受けるには、公共職業安定所所長の承認が必要です。ハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出するときに、同時に「兼務役員等の雇用実態証明書」を提出しなければなりません。

    その際、定款、議事録、登記簿謄本、就業規則、賃金規程、役員報酬規程、賃金台帳などを用意します。必要書類が多いので事前に確認してから提出しましょう。

    特に、賃金規程、役員報酬規程、賃金台帳等によって、当該役員の給与の役員報酬部分と従業員賃金部分の別が明確に説明できるものである必要があります。

    適用が認められた場合は、当該兼務役員分の雇用保険料は、(役員報酬分を除いた)従業員分賃金に対して保険料率を乗じて計算します。離職票に記載する賃金支払い額も同様です。失業給付等においては、従業員分賃金で算出された額が給付されます。

    労災保険の手続き

    ハローワークのように一人一人について手続きする必要はありません。

    雇用保険が資格取得の申請時に判断されるのに対し、労災保険は、個々の労働者毎に加入の手続きをする必要がないため、労災事故が発生した後に請求をし、そこで初めて労働者性について判断されるためです。

    従業員としての身分をもつ役員が労災事故にあったときに、労災保険での扱いを望んだとしても、労災保険の給付を受けることができない場合もあります。また、身分としての労働者性が認められたとしても、役員としての仕事をしているときの事故は対象になりません。

    労災保険料の計算は、雇用保険料と同様に、役員としての報酬と従業員としての賃金を分離して、役員としての報酬を除いた部分を対象として記載します。給付を受けるときは、失業給付等と同様に従業員分賃金をもとに給付の金額が算定されます。

    労災保険の適用が受けられない可能性があるので、労災保険の特別加入を検討することをお勧めします。ただし、企業規模などの制限があります。
    関連記事:労災保険の特別加入

    同居の親族・家族従業者の扱い

    同居の親族・家族従業者は原則的には雇用保険の被保険者、労災保険の対象者になりませんが、条件によっては被保険者等になることができます。

    関連記事:同居の親族、家事使用人の扱い

    雇用保険の手続き

    同居の親族であっても常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において、以下の要件をすべて満たす方については、被保険者として取扱うことができます。

    1、日常的に仕事を行う際に、事業主の指揮命令に従っていることが明白なこと
    2、就業の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること
    3、事業主と利益を一にする地位(取締役等)にはないこと

    この適用を受けるには、公共職業安定所に「同居の親族雇用実態証明書」を提出する必要があります。

    この場合、形式的には法人であっても実質的には代表者の個人事業であると認められるケースは、同じように扱われることがあります。公共職業安定所にご相談して下さい。

    労災保険の手続き

    常時同居の親族以外の労働者を使用する事業において一般事務又は現場作業等に従事し、かつ、次の要件をすべて満たす方については、労災保険法上の労働者としてあつかわれます。

    1.日常的に仕事を行う際に、事業主の指揮命令に従っていることが明白なこと

    2.就労の実態が当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もそれに応じて支払われていること。

    特に、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及び賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り日及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。


    関連記事:役員や家族等の社会保険は加入条件に注意が必要です

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  • 労災保険のメリット制を分かりやすく解説します

    メリット制って何?

    労災保険料は、基本的に「業種ごとに決められた保険料率」をベースに計算します。

    ところが実際には、同じ業種でも「事故が多い会社」と「ほとんど事故がない会社」がありますよね。

    その差を反映させるのが メリット制 です。つまり「過去の労災の実績」を見て、保険料率を上げたり下げたりする仕組みなんです。

    すべての事業場に適用される?

    答えは いいえ

    メリット制は、原則として「常時使用する労働者が100人以上」の事業場に適用されます。ただし、100人未満でも一部のケースで対象になることもあります。

    つまり、小規模の会社ではメリット制の適用は多くありません。

    メリット率の計算方法

    ポイントは「過去3年間の労災保険給付の実績」を基に算出することです。

    具体的には、

    1. 保険料の基準となる「業種ごとの料率」
    2. 過去3年間に発生した労災事故による給付額
    3. 会社の賃金総額

    を組み合わせて、割増・割引率(=メリット率)を計算します。

    たとえば、事故が少なければ「90%」に割引、事故が多ければ「110%」に割増、といった形です。保険料の変動幅は最大で増減ともに40%です。

    事故が無いと翌年から適用される?

    ここは注意が必要です。

    メリット制は「前年」だけを見るのではなく、過去3年間の実績平均で判断します。具体的には、連続する3保険年度の最後の年度の翌々年度から適用となります。

    したがって、1年間事故がゼロになったからといってすぐに翌年に割引されるわけではありません。

    なお、メリット制は申請が必要ありません。

    メリット制の対象となった企業には、毎年の労働保険(雇用保険+労災保険)の年度更新時期に「労災保険率決定通知書」が送付されます。

    つまり、会社が「メリット制を使いたい」と申請して適用されるものではなく、一定の要件(労働者100人以上、など)を満たしていれば 自動的に適用される制度 なんです。

    労災隠しの心配は?

    メリット制は「安全に取り組んだ会社の保険料を軽くする」仕組みですが、裏を返すと「事故が多いと負担が重くなる」制度でもあります。そのため、一部では「割引を受けたいから労災を隠すのでは?」という懸念が指摘されてきました。

    国もこの問題を理解しており、以下のような仕組みを設けています。

    • 重大災害の発生状況は別途監督署で把握しており、隠蔽は監督指導の対象になる
    • 労災隠しが発覚すれば、刑事罰や企業名の公表につながる
    • メリット制の判定は「過去3年の給付実績」を基にするため、1件や2件を隠したところで大きく変わらない場合も多い

    つまり「隠すメリット」よりも「発覚したときのリスク」の方が圧倒的に大きい仕組みになっています。

    まとめ

    • メリット制は労災保険料を「事故実績」に応じて調整する仕組み
    • 原則100人以上の事業場が対象
    • 過去3年間の給付実績からメリット率を算出
    • 事故ゼロが1年でも翌年すぐに反映されるわけではなく、3年の平均で判定
    • 企業から申請して審査を受けるのではなく、要件を満たすと自動的に適用される仕組み
    • 労災隠しは会社にとって致命的なリスク(法違反+信用失墜)

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  • 労災保険と雇用保険の暫定任意適用事業

    例外的に労働保険加入が免除される事業

    雇用保険と労災保険の二つの労働保険といいます。原則として労働者を1人でも(アルバイト1人でも)、使用していれば、法人・個人事業を問わず労働保険に加入しなければなりませんが、例外もあります。

    労働保険への加入について例外が認められている事業を暫定任意適用事業といいます。

    労災保険と雇用保険では、暫定任意適用事業の範囲が若干異なります。

    労災保険の暫定任意適用事業

    労働者を使用する事業は、原則として労災保険に加入しなければなりません。ただし、以下に該当する場合は、労災保険への加入は任意となっています。

    □ 労働者数5人未満の個人経営の農業であって、特定の危険又は有害な作業を主として行う事業以外のもの
    □ 労働者を常時は使用することなく、かつ、年間使用延労働者数が300人未満の個人経営の林業
    □ 労働者数5人未満の個人経営の畜産、養蚕又は水産(総トン数5トン未満の漁船による事業等)の事業

    小規模な農業系の事業が対象です。

    これに該当する事業は労災保険に加入せず、労災保険料の支払いを免れますが、もし労働災害が発生した時は、労災保険からの給付が無いため、治療代等の災害補償について、すべて事業主が責任を負わなければなりません。

    関連記事:使用者には労働者に対して災害補償の責任があります

    労働者の過半数が希望するとき

    労災保険の暫定任意適用事業であっても、対象となる労働者の過半数の希望がある場合は、加入の手続きをとる必要があります。

    特別加入しているときは注意が必要です

    農業で事業主が労災保険の特別加入している場合は、暫定任意適用事業所ではなく、当然適用事業として扱われるので、常時使用する労働者数が5人未満でも労災保険に加入しなければなりません。

    個人経営の農家が労災保険の特別加入をしているときは、アルバイトを1人でも雇えば労災保険の適用事業になります。繁忙期だけ知り合いや親せきにパートをお願いした場合でも同じです。

    雇用保険の暫定任意適用事業

    労働者を使用する事業は、原則として雇用保険に加入しなければなりません。ただし、以下に該当する場合は、雇用保険への加入は任意となっています。

    下記に掲げる農林水産の事業であって、常時5人未満の労働者を雇用する個人経営の事業。

    □ 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
    □ 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他畜産、養蚕又は水産の事業

    上記のように、加入が任意とされている事業は、小規模な農林水産関係の事業に限られます。

    小売や飲食店などの一般の商売では、一人でも雇用したら労働保険の手続きをしなければなりません。

    なお、農業用水供給事業、もやし製造業は暫定任意適用から除外されているので、雇用する人数にかかわらず加入しなければなりません。

    労働者の2分の1以上の希望するとき

    上記のような雇用保険の暫定任意適用事業であっても、対象となる労働者の2分の1以上の希望がある場合は、加入の手続きをとる必要があります。

    社会保険の任意適用制度

    社会保険(健康保険と厚生年金保険)にも加入を免除される事業があります。

    関連記事:社会保険の任意適用事業所

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