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採用の事務

従業員の学歴詐称が判明したとき、会社はどう対応するべきか?

Last Updated on 2025年8月17日 by

「履歴書の学歴詐称」は実務上まれですが、発覚すると問題となることが多いテーマです。結論からいうと、常に懲戒解雇が有効になるわけではなく、その虚偽が業務適性や採用判断に重大な影響を与えるかどうかで判断することになります。

法令と判例

法令

法律には「学歴詐称=処分」と直接的に定めた条文はありません。ただし、労働契約の前提となる事項に虚偽が含まれれば、民法を適用して、錯誤(勘違い)による契約の取り消しや、公序良俗違反による契約無効などが考えられます。

判例

この件については、判例がいくつかあります。

判例では「虚偽の内容が採用に重大な影響を与える場合」に限り懲戒解雇が有効とされています。

懲戒解雇が有効とされた例

最終学歴を大学卒と偽ったケース
学歴が採用条件の一つであり、採用担当者が明確に学歴を重視していた → 懲戒解雇有効

資格・免許の虚偽申告
医師免許や運転免許など、業務遂行に不可欠な資格を偽った → 解雇有効。

懲戒解雇が無効とされた例

業務能力に直接関係のない学歴の水増し
業務遂行に支障がなく、本人の勤務実績も良好であった場合、解雇は社会的に相当とは言えないとして、解雇が無効になったケースもあります。

実務上の整理

整理してみます。

学歴が採用の本質的条件(研究職、資格取得要件あり、幹部候補など) であれば、学歴詐称は重大で、懲戒解雇も有効になる可能性が高いと考えられます。

学歴が業務に影響しない一般職の場合は、虚偽は不誠実な行為ですが、懲戒解雇まで認められるのは難しいでしょう。

多くの会社規程では、解雇事由のなかに「採用時の申告虚偽」が含まれていますが、裁判になってしまうと、有効かどうかはケースごとに判断されることになります。

ではどう判断すべきか

学歴詐称自体は「不誠実な行為」であり放置はできませんが、採用条件や業務遂行に重大な支障がなければ、懲戒解雇では重すぎ、戒告(もっとも軽い懲戒処分)で十分相当と整理されます。判例・実務の流れに照らしても、穏当な対応です。

以下に、本人に手交する 処分通知書サンプル を示します。

処分通知書(サンプル)

令和〇年〇月〇日

処分通知書

〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇 印

従業員 〇〇 〇〇 殿

戒告処分について

あなたが当社へ提出した履歴書において、学歴を実際と異なる内容で記載していた事実が判明しました。

この行為は、会社に対する信頼を損ねる不誠実なものであり、就業規則第〇条(懲戒)に該当します。

しかしながら、これまでの勤務態度・職務遂行状況に特段の問題は認められず、また虚偽記載が業務遂行に直接の支障を及ぼしたものではないことから、今回については戒告処分といたします。

本処分を厳粛に受け止め、今後は誠実に勤務し、同様の行為を繰り返さぬよう強く求めます。

以上

ポイント

「事実の認定」→「規程違反の指摘」→「処分理由」→「処分内容」→「今後への期待」という順で記載すると法的に整理された文書になります。

感情的なトーンで書いてはいけません。事実ベース+冷静な処分理由の説明が重要です。

当然、処分決定前に「本人の弁明の機会」を与えておくことが必要です。弁明を聴かない処分は無効のリスクがあります。


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