Last Updated on 2025年9月20日 by 勝
近時点誤差とは
人事考課における近時点誤差(近接効果)とは、評価期間全体の出来事ではなく、評価直前(近時点)の出来事の印象に引きずられ、評価が偏ってしまうエラーです。評価者が直近の記憶に頼りすぎることが原因で起こり、評価の公平性を著しく損ないます。
人事考課の近時点誤差(近接効果)の具体的な例を2つ挙げます。
例1: 期末のプレゼンと年間の貢献度
ある従業員が、評価期間の最後の月に、非常に成功したプレゼンテーションを実施したとします。このプレゼンは聴衆に強いインパクトを与え、顧客からも高い評価を得ました。評価者はこのプレゼンの鮮烈な印象に強く影響され、年間を通じての貢献度を考慮せず、そのプレゼンだけでその従業員を最高評価としてしまいます。
しかし実際には、この従業員は、年間の大半で目立った成果を出していなかったり、チームへの貢献が乏しかったりしたかもしれません。このように、直近の出来事(プレゼン)が、年間の地道な努力や成果を過小評価してしまうのが近時点誤差の一例です。
例2: 評価直前のミスと年間の安定した実績
ある従業員が、評価期間を通じて安定したパフォーマンスを維持し、大きなミスもなく、着実に業務を遂行していたとします。しかし、評価直前に、重要な報告書に軽微なミスを見つけてしまいました。
評価者は、この直近のミスの印象が強く残り、その従業員の年間を通じた安定した実績を過小評価し、全体として低い評価を付けてしまいます。このように、直近の些細な失敗が、長期間にわたる努力や成果を覆い隠してしまうのも、近時点誤差の一例です。
近時点誤差が起こる原因
近時点誤差は、以下のような要因から生じます。
- 記憶の限界: 人間は、評価期間の初めの方の出来事よりも、直近の出来事の方が鮮明に記憶に残っています。そのため、評価者が直近の印象に頼ってしまいがちです。
- 短期的な成果の強調: 評価直前に大きな成果を上げたり、逆に大きなミスをしたりすると、その印象が評価全体を左右してしまいます。
- 評価の手間: 評価期間中のすべての出来事を振り返ることが面倒に感じ、直近の記憶だけで判断してしまうことがあります。
近時点誤差がもたらす問題点
この評価エラーは、組織に以下のような悪影響を及ぼします。
- 不公平感の増大: 評価期間を通じて地道に努力を続けた従業員よりも、評価直前に成果を出した従業員の方が高く評価されることになり、不公平感が生まれます。
- 計画性の欠如: 従業員が、年間を通じて安定した成果を出すことよりも、評価直前に目立つ成果を出すことに注力するようになり、長期的な計画や目標への取り組みが疎かになる可能性があります。
- モチベーションの低下: 正当な評価が得られないと感じた従業員は、仕事への意欲を失い、組織全体の生産性が低下する恐れがあります。
近時点誤差への対策
評価者は、以下の点を意識することで近時点誤差を回避し、公平な評価を実現できます。
- 定期的な記録: 評価期間中、従業員の行動、成果、改善点などを日頃から具体的に記録しておきましょう。これにより、評価時に直近の記憶だけでなく、過去の事実に基づいた判断ができます。
- 評価対象期間を意識する: 評価を行う際には、必ず設定された評価期間全体を振り返るように意識しましょう。
- 複数情報源の活用: 評価対象者本人からの自己申告、同僚からの意見、プロジェクトの進捗報告書など、複数の情報源を参考にすることで、より客観的で多角的な評価が可能になります。
これらの対策を講じることで、評価の信頼性が高まり、人事考課をより有効な人材育成ツールとして活用することができます。