Last Updated on 2025年9月24日 by 勝
通常は1年契約を更新
高年齢者雇用安定法により、企業は65歳までの雇用機会の確保が義務付けられています。しかし、多くの企業では雇用契約の形式として1年ごとの契約更新にしています。
1年契約と法律の整合性
日本の法律(高年齢者雇用安定法)は、企業に対して「65歳までの雇用」という結果を求めており、そのための手段を具体的に定めてはいません。そのため、1年ごとの契約更新を繰り返すことで結果的に65歳まで雇用を継続する場合、それは法律上の義務を果たしていると見なされます。
多くの企業がこの形式を採用しているのは、以下のような理由からです。
- 労働者の能力や健康状態の変化への対応: 1年ごとに契約を見直すことで、労働者のその時点でのスキル、健康状態、勤務意欲などを確認し、柔軟に対応することができます。
- 経営状況の変化への対応: 経営環境は常に変動するため、長期的な契約を結ぶよりも、短期的な契約を更新する方が企業にとってリスクが低いと判断されることがあります。
雇い止めは事実上困難
1年契約にした場合、1年毎に健康状態などをチェックすることはできますが、その結果を理由とした雇い止めは会社にとってリスクがあります。
労働契約法と「雇い止め法理」
1年ごとの有期雇用契約を繰り返している場合でも、労働者には65歳までの雇用継続への「合理的な期待」があると見なされることが多く、その場合は、単に契約期間満了をもって雇用を終了することはできません。これを「雇い止め法理」といい、労働契約法第19条に定められています。
雇い止めが有効と認められるためには、会社側に「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。
健康理由による雇い止めのリスク
例えば、健康状態を理由とする雇い止めは、以下の点で会社にとってリスクが高く、慎重な対応が求められます。
- 医師の診断の必要性: 単なる体力の衰えや自己申告では不十分で、医師の診断書や産業医の意見書など、客観的な証拠に基づいて「業務に耐えられない」と判断できる必要があります。
- 配置転換・業務軽減の検討義務: 会社は、雇い止めを判断する前に、業務内容の見直しや、本人の健康状態でもできる別の業務への配置転換を検討する義務があるとされています。これらの努力を怠ると、雇い止めが無効と判断される可能性が高まります。
- 訴訟リスク: 労働者が雇い止めを不当として訴訟を起こした場合、会社が敗訴するケースがあります。その場合、雇い止めは無効とされ、裁判期間中の賃金の支払いを命じられるなど、経済的にも大きな負担となる可能性があります。過去の裁判例では、慰謝料や未払い賃金の支払いを命じられた事例も見られます。
したがって、1年契約であっても、健康上の理由などで雇い止めを行うと、不当解雇と見なされ、会社が不利になる可能性が非常に高いと言えます。契約更新の判断は、個々の労働者の状況と客観的な証拠に基づいて慎重に行う必要があります。
5年契約を検討する
1年契約にしても、更新を繰り返すことがほとんど義務になっているのであれば、更新の手間を省くなどの理由で、初めから5年契約(65歳の誕生日まで)にするのが合理的とも言えます。
5年契約の根拠
定年後の再雇用において、5年までの契約期間を設定できる根拠は労働基準法第14条第1項にあります。
この条文では、原則として有期労働契約の期間は3年が上限とされていますが、いくつかの例外が設けられており、その一つとして「満60歳以上の労働者」との契約については、1回の契約期間の上限が5年とされています。
したがって、60歳以上の定年後再雇用者と5年間の契約を結ぶことは、法律上問題ありません。これは、高年齢者雇用安定法が65歳までの雇用を義務付けていることとは別に、労働基準法が個々の雇用契約期間の上限を定めていることによるものです。
留意事項
健康状態の悪化、業務能力の低下などの懸念について、以下のような対策を講じることができます。
- 再雇用契約締結時に、5年間の業務遂行に問題がないか、産業医との面談を推奨する。
- 1年ごとに業務遂行能力や健康状態について簡易的な面談を行い、必要に応じて業務内容の調整を検討する。
- 契約期間中であっても、業務遂行が客観的に困難と判断される場合は、双方の合意のもとで契約を見直す旨を雇用契約書に明記する。
メリット
5年契約のメリットをまとめます。
- 再雇用者のエンゲージメント向上: 5年という長期的な雇用が保証されることで、労働者は安心して働き続けられる。これにより、会社への帰属意識が高まり、生産性やモチベーションの向上につながる。
- 人材育成とノウハウの伝承: 長期的な視点で業務に取り組むことができるため、ベテラン社員の持つ高度な知識や技術を若手社員に計画的に伝承しやすくなる。
- 優秀な人材の確保: 雇用が不安定なイメージを払拭し、優秀な定年退職者に再度当社で働くことを選択してもらいやすくなる。
- 業務効率化とコスト削減: 会社としても、毎年行っている契約更新手続きが5年に一度になることで、人事部門や現場管理職の事務的な負担が軽減され、間接的なコスト削減につながる。