Last Updated on 2025年10月7日 by 勝
労働基準法等が適用される
スキマバイトを雇用する際に注意すべき点は多岐にわたりますが、以下に主な注意点をまとめます。
労働条件の明示を徹底する
スキマバイト(スポットワーク)であっても、労働基準法に基づき、賃金、勤務時間、業務内容などの労働条件を書面(または電磁的方法)で明示する義務があります。
アプリを介した募集であっても、最終的な法的責任は雇用主である企業にあるため、「アプリ任せ」にせず、条件の齟齬がないか確認しましょう。
求人情報と実際の労働条件が異なるとトラブルの原因になります。
労働時間の適正な把握と管理
着替え、見学・研修、業務に必要な片付けなどの時間も、原則として労働時間に含まれるため、これらも含めて始業・終業時刻を正確に記録・管理する義務があります。
労働者が他のスキマバイトを含め複数の場所で働いている場合、労働時間が通算され、1日8時間、週40時間を超えると時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要となる場合があります。可能な範囲で労働時間を通算して把握する姿勢が求められます。
労働時間に応じた休憩時間を正しく付与する必要があります。
賃金に関する注意
最低賃金を遵守する必要があります。
所定の労働時間を超えた場合は、法定通り割増賃金を支払う必要があります。
「交通費別途支給」など、明示した支払い条件は必ず守りましょう。
労災保険の適用
スキマバイトも労働者に該当するため、労災保険の適用対象であり、企業は加入義務があります。
安全衛生教育の実施
法的な義務: 労働安全衛生法第59条により、企業は労働者を雇い入れた時、その従事する業務に関する安全または衛生のための教育を行わなければなりません。これは、雇用期間の長短(1時間のスキマバイトでも)や雇用形態(アルバイト、日雇いなど)に関わらず、事業者に課せられた義務であり、省略はできません。
教育の時間は、業務の危険度や複雑性に応じて、必要な事項について行う必要があります。この教育時間は、労働者の指揮命令下にあるため、労働時間として扱われ、賃金支払いが必要です。
同じ方が再度来た場合の安全衛生教育について
- 原則: スキマバイトは、1日単位や単発で雇用契約が成立し、終了する形態が一般的です。同じ方が再度就業する場合でも、法的には「新たな雇入れ」と見なされるため、原則としてその都度、安全衛生教育を実施する義務が生じます。
- 教育の省略: 労働安全衛生法上、「再度の雇入れの場合に教育を省略できる」という明確な規定はありません。
- 実務上の軽減措置:
- ただし、教育の内容が「以前従事した業務と同一」であり、かつ「労働者がその内容を十分に理解し、危険性がないと判断できる」場合、一部の教育事項を省略できると解釈されることがあります。
- 例えば、「機械等の危険性」など、以前と変わらない一般的事項については、知識を確認したうえで簡略化し、「作業手順の変更点」や「その日の特有の危険箇所」など、変更・特記事項に絞って教育するなどの工夫が実務上行われます。
- 重要な点: 教育を実施したことの記録(日時、教育内容、受講者名など)を残し、教育内容の省略が妥当であると説明できる状態にしておきましょう。
休業手当・キャンセルに関する注意
労働契約が成立した後、会社の都合で丸1日の休業や仕事の早上がりをさせた場合、原則として休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う必要があります。これは、労働基準法に基づく最低限の補償です。
民法上の責任(賃金全額の請求または損害賠償)
- 賃金全額請求のリスク: 労働者側は、労働契約が成立している以上、本来得られるはずだった賃金全額(100%)を民法に基づき請求できる可能性があります。
- 損害賠償請求のリスク: 直前のキャンセルによって、労働者が他の仕事の機会を失ったなどの損害が発生した場合、その損害について賠償を求められる可能性があります。
マッチングサービス・業界の動向
- 給与満額補償の動き: 近年、スポットワーク市場では、労働者保護の観点から、大手マッチングサービスを中心に、企業都合によるキャンセルが発生した場合に予定されていた給与の全額(100%)を補償する制度(給与満額補償制度など)が導入される動きが進んでいます。 これは、労働基準法上の6割という最低基準を超え、実質的な損害を補填するものです。
- 各サービスのルール確認: 利用しているスキマバイトのマッチングサービスによっては、キャンセル料として、休業手当の6割ではなく、予定されていた給与の満額を事業主に請求するルールを定めている場合があります。利用するサービスの規約を必ず確認してください。
受け入れ体制の整備
当日スムーズに業務を開始できるよう、スキマバイト用の業務マニュアルを整備し、現場の担当者への教育も徹底し、受け入れの手間を軽減することが推奨されます。
面接がないことが多いため、ミスマッチやパフォーマンス不足のリスクを考慮し、業務内容を具体的に定めるなどの工夫が必要です。
ハラスメント対策
正社員やアルバイトと同様に、スキマバイトに対してもハラスメント防止のための体制整備(相談窓口の設置や方針の周知など)が義務付けられています。
まとめ
「スキマバイト(スポットワーク)」は、新しい働き方やマッチングの仕組みという側面が注目されていますが、労働基準法などの法律が適用されるかどうかという点では、従来の「短期アルバイト(日雇いを含む)」と基本的に変わりません。
つまり、企業が「スキマバイト」として人を雇う場合、その人は「労働者」であり、企業は「雇用主」として、期間の長短に関わらず、労働法規上の義務を負うことになります。これまでの短期アルバイトを雇用するのと、法的な責任の重さは同じです。
「スキマバイト」が新しい働き方と認識されているのは、主に以下のビジネスモデルや利便性の部分です。
側面 | スキマバイト(スポットワーク)の特徴 |
マッチング | 専用アプリを通じて、面接などを介さずスピーディに(時には即時に)単発の仕事と働き手をマッチングさせる仕組み |
雇用期間 | 従来の短期アルバイトよりもさらに短く、数時間〜1日単位の超短期・単発の契約が中心 |
給与支払い | 即日払いなど、支払いサイクルが非常に短いことが多い |
労働管理 | 複数のアプリで働く労働者の労働時間の通算管理など、複雑な労務管理が必要となるケースがある |
以上は一般的な留意事項であり、個別の状況によっては他の法律や規制が適用される可能性もあります。ご心配な場合は、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。