部下の方から退職の申し出があった際の対応は、まず冷静に傾聴し、本音を理解することが重要です。その後の対応は、引き止めたいかどうかによって変わってきます。
以下のステップと具体的な会話例、注意点を参考にしてください。
上司としての基本的な対応
まず、引き止めたい場合でも、以下の基本を踏むことが重要です。
- 冷静に受け止める:感情的にならず、驚きや不満を表に出さずに、まずは申し出を真摯に受け止めます。
- ポイント:部下が話しやすい雰囲気を作ることが大切です。
- 退職の理由を丁寧にヒアリングする:部下の話をさえぎったり、否定したりせずに、傾聴に徹します。「なぜ退職を考えるに至ったのか」という本音を深く掘り下げて聞きましょう。
- NG行動:「辞められたら困る」「なんで急に」など、会社都合や上司都合の反応は避けます。
- 感謝を伝える:これまでの会社への貢献に対し、心からの感謝を伝えます。
- 会話例:「率直に話してくれてありがとう。〇〇さんが今までチームに尽力してくれたことに、心から感謝しています。」
- 再度の面談を提案する:その場ですぐに慰留したり承諾したりせず、一度持ち帰り、後日改めて話し合う場を設けます。
- 会話例:「私としても、あなたが話してくれた内容を一度しっかり受け止めたい。明日、もう一度30分ほど時間を取って、話し合ってもいいですか?」
引き止めたい場合の対応
ヒアリングで退職の本音の理由が、会社側で解決可能な問題(例:待遇、人間関係、仕事内容、キャリアプラン)だと判明した場合に、具体的な改善策と共に慰留を試みることができます。
退職理由に基づいた解決策の提案
| 部下の退職理由(本音) | 上司からの具体的な会話例と提案 |
| 仕事内容・適性への不満 | 「〇〇さんの得意な部分は、✕✕のプロジェクトで活かせるかもしれない。部署異動や新しいプロジェクトへの参加も検討できるので、検討してみてくれないか。」 |
| 待遇(給与・評価)への不満 | 「今の評価・給与が〇〇さんの貢献に見合っていないと感じさせてしまったのは、私の責任でもある。社長と相談して、来期の昇給・昇格について前倒しで検討したい。」 |
| キャリアの不安・成長の停滞 | 「〇〇さんの将来のビジョンは理解している。そのために、この会社で次に必要な経験・スキルは何だと思う?そのために私がサポートできることがあれば協力したい。」 |
| 人間関係の悩み | 「もし特定の人間関係が理由であれば、配置の変更やチーム構成の見直しを検討することで解決できるかもしれない。差し支えなければ、具体的な状況を聞かせてもらえないか。」 |
引き止める際の注意点
引き止めは、部下の気持ちを尊重し、信頼関係を壊さないように慎重に行う必要があります。
- 会社都合を押しつけない
- 「今辞められたら困る」「後任がいない」など、会社の都合や感情をぶつけると、部下の気持ちはかえって離れてしまいます。
- 改善策は具体的に、口約束で終わらせない
- 曖昧な「努力します」「今後考える」ではなく、「〇月までに」「具体的に✕✕を提案する」など、時期と内容を明確に示しましょう。実現不可能な約束は信用を失います。
- 脅迫めいた言動は絶対に避ける
- 「辞めたら業界で仕事ができなくなる」など、部下を威圧・拘束するような発言は、法的な問題に発展する可能性もあるため、絶対に避けましょう。
- 他の社員に知られないよう配慮する
- 慰留活動や面談の内容は秘密厳守で進めます。情報が漏れると、部下は社内で居心地が悪くなり、他の社員の動揺も招く可能性があります。
- 最終判断は部下に任せる
- 改善策を提示し誠意を示しても退職の意思が固い場合は、その決断を尊重し、快く送り出す姿勢が大切です。円満な退職は、将来的な良好な関係にも繋がります。
辞めてほしかった部下への対応
辞めてほしいと思っていた部下からの退職申し出に対応する際の対応方法を説明します。
嬉しそうな様子を出すのはNGです。しかし、残念さを強調しすぎると翻意させてしまうこともあるので、難しいバランスが求められます。大切なのは、上司として冷静かつ誠実な態度で部下の決断を尊重し、円満に退職プロセスを進めることです。
| 項目 | 留意点 | 目的 |
| 態度 | 中立的で冷静な姿勢を貫く。感情的な反応を避ける。 | 部下に不信感を与えず、円満退職の障害となる言動を避ける。 |
| ヒアリング | 形式的にでも退職理由を傾聴する。ただし、深掘りはしすぎない。 | 上司の責任を果たしつつ、退職の意思を確認する。 |
| フィードバック | 過去の貢献への感謝は伝えるが、今後の期待や惜しむ言葉は強調しない。 | 翻意のきっかけを与えず、スムーズに退職へ移行させる。 |
| プロセス | 速やかに退職の合意と手続きに進む。 | 退職の意思を固めさせ、後で「引き止められた」といったトラブルを防ぐ。 |
具体的な会話の流れと表現例
ここでは、「残念さを強調せず、かといって喜んでもいない」という上司の立場を保つための表現を使います。
退職理由の確認
- 上司:「そうか、退職を考えているんだね。どのような理由で退職を決めたのか、差し支えなければ教えてくれるかな。今後の参考にしたいので。」
- (部下が話したら、静かに頷きながら傾聴します。)
- 上司:「そうだったか。あなたの考えは理解しました。」
- ポイント:理由を聞くのは上司の責務ですが、その場で解決策の提示はしません。「残念だ」「改善できる」といった引き止めにつながる言葉は避けます。
今後の流れの確認と決断の尊重
- 上司:「それでは、この退職願を受け入れます。退職日はあなたの希望日で大丈夫です。あとで今後の引き継ぎのスケジュールについて相談しましょう。」
- 上司:「(退職理由が転職など前向きなものだった場合)〇〇さんの今後の新しいチャレンジを応援したいと思う。この会社での経験が、次の場所でも必ず活かせるはずです。」
- (「応援」という言葉は中立的で前向きな響きがあり、「戻ってきてほしい」という引き止めには繋がりません。)
- ポイント:話の流れを迅速に「退職の合意と手続き」に移します。
避けるべき言動
| 避けるべき言動 | なぜ避けるべきか |
| 「よかった」という喜びの表情や言葉 | 倫理的・人間的な配慮に欠け、パワハラと受け取られるリスクがあります。 |
| 「君の代わりはいくらでもいる」 | 差別的な発言や、退職者に会社への悪感情を残すことにつながります。 |
| 「もう仕事はしなくていい」 | 業務から外すのは「退職強要」とみなされるリスクがあります。通常通りに引き継ぎを進めましょう。 |
| 「非常に残念だ」「残ってほしい」と強く言う | 部下の決意を揺らがせ、本当に翻意してしまった場合、かえって問題が続くことになります。 |
この対応の目的は、「円満かつ迅速な退職」を実現し、会社としても部下としてもスムーズに区切りをつけることです。

