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解雇

部下を育てることができないことを理由に解雇できますか?

Last Updated on 2025年9月3日 by

よく部下が辞める従業員がいます。その従業員は仕事がよくできるのですが、その者の下に人を配属すると、辞めてしまいます。聞くと、「全然使えない奴だった」と言います。それを指導して育てるのがお前の仕事だと言っても、「頑張って指導したのですが、あれほど使えない者は見たことがありません」と返してきます。せっかくの人材ですが、辞めてもらったほうが従業員の定着も上がるし、社内の空気も改善されると思い始めました。どうすればよいでしょうか。

結論から申し上げると、このケースで「解雇」を正面から成立させるのはかなり難しいです。以下で理由を整理します。

指導力不足は解雇理由になるか

労働契約法16条では、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない場合は無効」と定めています。典型的な解雇理由は以下の3つに分類されます。

  1. 能力不足解雇
    • 業務遂行能力が著しく欠ける場合(仕事が全くできないなど)。→ご相談の従業員は「仕事ができる」ので、この理由には当たりません。
  2. 規律違反・非行解雇
    • 無断欠勤、命令違反、暴力・ハラスメントなど。→「部下が次々辞める」「言葉が厳しい」「協調性に欠ける」は、その程度にもよりますが、一般的には解雇の理由としては弱いです。ただしハラスメント行為が明確に立証できる場合には理由になり得ます。
  3. 経営上の人員整理(整理解雇)
    • 経営上の必要性がある場合。→今回の事情には該当しません。

したがって、このようなケースでは、解雇に固執するのはリスクが大きく、紛争になれば会社側が不利になる可能性が高いです。

現実的な対応策

むしろ次のような手順を踏むのが現実的です。

注意・指導

業務の内容から、一人ではできない仕事で、どうしても部下を配属する必要がある場合には、本人に対する指導を強化して、改善してもらうことを試みます。

特に、本人の言動が、厳しすぎる、あるいは、部下をことさらに無視するなどであれば、そのような言動はパワハラにあたる可能性があることを重点的に注意指導し、その記録を残しましょう。

指導に関与する

コミュニケーションを上手く取れないだけかもしれません。部下を配属してあとは任せるというのではなく、もう一人ベテランを関与させて、一緒に指導させるなどの対策も一策です。

配置転換の検討

本人が仕事ができて、部下を育てることができないということであれば、部下を持たせないポジションに異動させることができれば、それが一番の解決策でしょう。本人の能力を活かしつつ、若手退職のリスクを減らすことができます。

退職勧奨

改善がみられず、本人の努力が充分でないと判断できる場合は、会社としてこのまま放置できないことを伝え、本人にキャリアの選択肢を考えさせることになります。ただし、強圧的な勧奨は「違法な退職強要」とされるので注意が必要です。

明確なパワハラがある場合

パワーハラスメントの事実がある場合は別の問題になります。ハラスメントについては、その程度によって充分な解雇理由になります。


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