Last Updated on 2023年7月14日 by 勝
労働基準法19条による解雇の禁止
労災で治療中の人と産前産後休業中の人は、その休業期間と休業が終わってから30日間は解雇が認められません。
この期間にある人は、就業規則に違反する重大な非違行為があっても解雇できないというのが原則です。
労働基準法第19条
使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定(産前産後休業)によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
休業していない期間は別
条文に「休業する期間」と書いてあります。業務上の負傷などにより治療中であっても休業せずに働いている場合には(休業後30日間を除き)この解雇制限が適用されません。出産予定日前であっても、労働者が休まず働いている場合には解雇制限が適用されず、また、産後休業が終わって働いている場合は(休業後30日間を除き)解雇制限が適用されません。
通勤災害は別
労災保険は、「業務上災害」と「通勤災害」の場合に給付されますが、労働基準法が解雇を制限しているのは、「業務上災害」の場合だけです。「通勤災害」であれば、労災保険から給付を受けていても解雇制限の対象外です。
解雇制限の例外
上記の条文の中ほどに「ただし」とあります。「解雇してはならない」という原則のもとで2つの例外を規定しています。1つが打切補償を支払う場合、もう1つが天変地異などで事業が継続できない場合です。
打切補償とは、事業主が療養補償を支払う期間が3年に達しても、従業員の負傷・疾病が完治しない場合に、平均賃金の1200日分を支給することで、それ以降の補償責任を免れる制度のことを指します。業務上負傷や疾病の休業に適用され、当然、産前産後休業には無関係です。これを適用するには労働基準監督署長の認定が必要です。
天災事変については、業務上負傷や疾病の休業、産前産後休業の両方に適用されます。天災事変とは大災害が想定されます。これを適用するには労働基準監督署長の認定が必要です。
労働基準監督署への申請
打ち切り補償、天災事変の例外に当たる場合でも、解雇の前に労働基準監督署長の認定を受けなければ解雇できません。
解雇制限除外認定申請書の様式は厚生労働省ホームページに掲載されています。
労働基準法による解雇の禁止(19条以外)
①労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇の禁止(労働基準法第3条)
②解雇の予告又は解雇予告手当の支払いを行わない解雇(労働基準法第20条第1項)
男女雇用機会均等法による解雇の禁止
男女雇用機会均等法は、妊娠・出産や産休を申請したことを理由に解雇などの不利益な扱いをしてはならないと定めています。
男女雇用機会均等法第9条
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業を請求し、又は休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
男女雇用機会均等法第9条による解雇制限は、労働基準法の解雇禁止時期にあたらない期間にも適用されます。
違いは、下から2行目の「ただし」です。労働基準法はいかなる場合も解雇できませんが、男女雇用機会均等法は、解雇の理由が妊娠出産に関係ないと証明できる場合は解雇が可能だとしています。
育児休業法による解雇の禁止
育児・介護休業法第10条、第16条により、労働者が育児休業、介護休業の申し出をしたこと、又は実際にそれらの休業をしたことを理由とする解雇は禁止されています。
労働組合法による解雇の禁止
労働者が労働組合の組合員であることや、組合に加入したり組合を結成しようとしたことなどを理由とする解雇は禁止されています。(労働組合法第7条第1号)
労働者の法的権利行使を理由とする解雇の禁止
労働者が法律上の権利を行使したことを理由として解雇することは禁止されています。以下のような場合です。
①労働者が労働委員会に対し、不当労働行為の救済を申し立てたことなどを理由とする解雇(労働組合法第7条第4号)
②労働者が労働基準監督署などに対し、使用者の労働基準法違反や労働安全衛生法違反の事実を申告したことを理由とする解雇(労働基準法第104条第2項、労働安全衛生法第97条第2項)。
③労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、又はあっせんを申請したことを理由とする解雇(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第4条第3項、第5条第2項)。
④労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、又は調停を申請したことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法第17条第1項、第18条第2項)
労働契約法による解雇の制限
労働基準法等の解雇禁止条項を該当しないと判断できる場合でも、さらに、労働契約法第16条の規定や、関連する判例法理に基づいて妥当性を検討しなければなりません。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
「合理的な理由」や「社会通念」については下記の記事もご参照下さい。
会社事務入門>解雇するときの注意点>このページ