1週間単位の変形労働時間制における時間外労働計算の注意点

労働時間

1週間単位の変形労働時間制とは

この制度は、特定された週において、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超える労働時間を設定できますが、変形期間全体(通常は1週間)としては平均して1週40時間以内にする必要があります。ただし、この制度は、労使協定または就業規則で定められた場合に限り、常時30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店など一部の事業に限定されています。

割増賃金の計算方法

全体の説明

1週間単位の変形労働時間制は変形期間全体(通常は1週間)としては平均して1週40時間以内に収まれば時間外労働が発生しないという仕組みですが、週40時間以内に収まったとしても、あらかじめ定めた所定労働時間1日8時間を超えて働いた日があれば、その日に割増賃金が発生します。

これは、この制度の残業(時間外労働)の判定が「日」と「週」の2つの基準で行われるためです。

1週間単位の変形労働時間制では、以下のいずれかの基準を超えて労働した時間が時間外労働になります。

1. 日の基準(単日での超過)

原則として、1日8時間を超えて労働した時間は、その日のうちに時間外労働となります。

ただし、この制度では、あらかじめ労使協定等で特定の日について1日8時間を超える所定労働時間を定めることができますが、1日の上限は10時間とされています。

1日の所定労働時間の設定割増賃金の対象となる時間
8時間を超える所定を定めた日所定労働時間を超えて労働した時間
8時間以下の所定を定めた日8時間を超えて労働した時間

所定労働時間が8時間以下の日に、8時間を超えて働いた場合は、週40時間を超えていなくても、その日の8時間を超えた分は時間外労働として割増賃金が発生します。

2. 週の基準(週単位での超過)

1週間の労働時間が40時間を超えた時間(上記1の日の基準で割増賃金を支払った時間を除く)が時間外労働となります。

具体的な計算例

例えば、ある週の所定労働時間が以下の通り定められていたとします(週合計35時間)。

曜日所定労働時間(あらかじめ定めた時間)実労働時間割増賃金が発生する時間判定基準
7時間9時間1時間1日の所定(7時間)は超えるが、1日の法定(8時間)を超えた1時間が割増対象。
7時間8時間0時間8時間以内。
7時間7時間0時間所定内。
7時間7時間0時間所定内。
7時間7時間0時間所定内。
休み休み0時間
休み休み0時間
合計35時間38時間1時間週合計38時間は40時間以下であるため、週の基準での割増は発生しない。

この例の場合、週の合計労働時間は38時間で40時間以内ですが、月曜日に1時間が1日8時間を超えた(ここでは所定7時間を超え、かつ8時間を超えた)ため、この1時間分について割増賃金が発生します。

このように、変形労働時間制であっても、「日」または「週」のいずれかで法定労働時間を超えれば、その都度、割増賃金が発生するという点が重要です。

計算の順序

1週間単位の変形労働時間制では、日の単位で時間外労働として確定し、割増賃金を支払った時間は、後の「週の基準」の計算から除外されます。

これは、同じ労働時間に対して二重に割増賃金を支払うことを防ぐためです。

残業の判定は以下の2つのステップで行われます。

1. 日の基準(単日で確定)

日の基準で時間外労働(割増賃金が発生する法定外残業)となるのは、原則として以下の時間です。

  • 1日8時間を超えて労働した時間。
  • (ただし、労使協定で8時間を超える所定時間を定めた場合は、その所定時間を超えた時間。)

処理:

このステップで確定した時間外労働に対しては、直ちに割増賃金(1.25倍以上)が支払われます。そして、この時間は、次の週の判定からは除外されます。

2. 週の基準(最終確認)

日の基準で割増賃金を支払った時間を除いた後で、残りの実労働時間の合計が1週間で40時間を超えているかを確認します。

  • 1週40時間を超えて労働した時間(ただし、上記 1.で既に割増賃金を支払った時間を除く)。

処理:

もし、1週間全体で40時間の総枠を超過していれば、その超過分に対して割増賃金を支払います。

計算例による確認

例えば、所定労働時間が7時間の日がある週で、合計労働時間が41時間だった場合を考えます。

  1. 日の基準で残業確定:月曜日に実労働が9時間だったとします。8時間を超えた1時間分は、日の基準で時間外労働(割増賃金)が確定します。
  2. 週の合計から除外:週の総労働時間は41時間ですが、上記の1時間は既に割増賃金が確定しているため、週の基準の計算からは除外されます。
  3. 週の基準で残りの時間を判定:41時間 – 1時間(日の残業分) = 40時間 残りの40時間は週の法定労働時間(40時間)に収まっているため、週の基準による追加の割増賃金は発生しません。

このように、先に日の基準で割増賃金を支払うことで、同じ時間を週の基準で再度計算し、二重払いとなることを避けています。

割増賃金の扱い

所定労働時間を超えているが、法定労働時間(原則8時間)を超えていない時間については、割増賃金(1.25倍以上)を支払う必要はありません

ただし、労働の対価として通常の賃金(100%)は支払う必要があります

変形労働時間制において、労働時間が「所定労働時間」と「法定労働時間」の間に収まる場合、その超過分は割増賃金の対象にはなりませんが、所定労働時間を超過した実動労時間に対しては割増なしの賃金を払わなければなりません。

該当する労働時間支払うべき賃金
所定労働時間を超え、法定労働時間(1日8時間)以内の時間通常の賃金(100%)

これは、会社と労働者の間で定めた約束の時間(所定)は超えているものの、労働基準法で定められた上限時間(法定)は超えていないため、「残業」ではあっても「割増賃金」はない、と解釈されるためです。

該当する労働時間支払うべき賃金
法定労働時間(1日8時間)を超えた時間割増賃金(125%以上)

この制度は、日ごとの所定労働時間を8時間以下に設定することが多いため、時間外労働が「所定を超えた」「法定を超えた」の別をしっかり把握することが重要です。