Last Updated on 2023年10月11日 by 勝
割増賃金の支払い義務
法定労働時間(1日8時間や1週40時間)を超えて残業させたとき(時間外労働)や休日出勤をさせたときは、一定の割増率により割増賃金を支払う必要があります。
法定労働時間を超えたときに割増が適用されるので、残業であっても法定労働時間内におさまっていれば割増賃金の必要はありません。
例えば、就業規則で朝9時から夕方5時までの就業時間を定めていて昼休憩が1時間であれば、労働時間は7時間になります。この場合に、例えば、午後6時まで残業させれば残業時間は1時間ですが、法定労働時間の8時間を超えていないので割増賃金を支払う必要はありません(1時間分の通常賃金は追加しなければなりません)。
また、午後7時までの2時間の残業を命じた場合は、前半の1時間分は通常の1時間分、後半の1時間分は割増した1時間分を支払わなければなりません。
割増率
通常の割増率
通常の時間外労働に対する割増率は25%(1.25倍になる)となっています。
月60時間超の割増率
月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率は50%以上になります。
例えば、月90時間の時間外労働があった場合、60時間分の時間外労働が25%、30時間分の時間外労働を50%の割増賃金率で計算します。
1時間当たり賃金×60時間×25%+1時間当たり賃金×30時間×50%
1か月60時間の法定時間外労働の算定には、法定休日(例えば日曜日)に行った労働は含まれませんが、それ以外の休日(例えば土曜日)に行った法定時間外労働は含まれます。
50%分のうち、25%部分を除いた残りについては、労使協定を締結することにより、割増賃金の支払いに代えて有給休暇(年次有給休暇を除く)を与えることもできます。
休日労働の割増率
休日出勤の割増賃金は、法定休日に労働させた場合に35%の割増率となります。
その他の休日(所定休日=会社が就業規則で定めている休日)に労働させた場合は、その出勤の結果、その週の労働時間が40時間を超えた時間に対して25%の割増率となります。40時間以内におさまっている時間は割増のない通常賃金でかまいません。
法定休日は、労働基準法に定めがある1週1日、あるいは4週4日の休日のことです。法律では曜日を限定していません。例えば、週休2日制の場合にどちらを法定休日にするかは、就業規則の定めあるいは雇用契約の内容によります。
なお、就業規則で、法定・所定を問わず35%としている場合は、労働基準法が定める基準を上回る待遇なので問題ありません。
深夜労働の割増率
労働時間が深夜(午後10時から午前5時まで)になったときは、25%以上の割増賃金を追加する必要があります。
この場合、時間外労働が深夜の時間帯に及んだ場合は、25%+25%となり割増賃金は50%以上となります。
深夜の時間帯に1か月60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、 深夜割増賃金率25%以上、時間外割増賃金率50%以上で、あわせて75%以上となります。
休日労働が深夜の時間帯に及んだ場合は、35%+25%となり割増賃金は60%以上となります。
特別条項による部分
1か月に45時間または1年に360時間を超える法定時間外労働をさせる場合には、特別条項付きの労使協定(さぶろく協定)を締結する必要があります。特別条項付きの労使協定を締結してない場合は、1か月に時間または1年360時間を超える時間外労働は、割増賃金を支払ったとしても労働基準法違反になります。
なお、「時間外労働の限度に関する基準」により、特別条項付きの36協定に定める割増率は、25%を超える率とする努力義務が課せられています。
したがって、月45時間までの割増率は25%で良いとしても、45時間を超えれば「25%を超える」率を設定しなければなりません。現在のところ30%と定める例が多いようです。さらに、60時間を超える部分は上述したとおり50%超が適用されます。
計算の実際
一般的な計算方法
割増率は以上のとおりですが、実際の計算に当たっては、各人の割増賃金を計算対象となる給与をもとに各人ごとの賃金単価を正確に算出しなければなりません。
解説記事:割増賃金の計算方法
変形労働時間制の割増賃金の計算
変形労働時間制の場合の割増賃金の計算は、原則的な場合(1週40時間 1日8時間)の時間外労働の計算方法と比べると複雑です。
解説記事:1か月単位の変形労働時間制
解説記事:1年単位の変形労働時間制
解説記事:1週間単位の非定型的変形労働時間制
注意点
三六協定を締結する
労働時間は法定労働時間内におさめるのが原則なので、法定労働時間を超えて労働をさせるには特別の手続きをしなければなりません。就業規則の定めと労使協定の締結です。
解説記事:時間外労働の手続き
遅刻と残業の通算について
遅刻した時間を終業後の時間で埋め合わせて、その部分について割増扱いをしないことは問題ありません。
従業員が残業代を辞退したとき
従業員が仕事上のミスで本来しなくてもよい残業をしたときに、「自分のミスですから残業申請しません」と言ったり、申請しなかったりすることがあるかもしれません。しかし、理由にかかわらず残業時間は労働時間であり割増賃金の対象になります。ミスにつけ込んで残業代を支払わないと賃金の未払いという労働基準法違反になることに注意しましょう。
固定残業手当の場合
固定残業手当は、定額残業手当ともいい、毎月決まった金額を見込みの残業手当として、実際の残業の有無にかかわらず支給する制度のことです。