割増賃金に代えて有休を選択する代替休暇制度

労働時間

代替休暇制度とは

代替休暇制度とは、1ヶ月の法定時間外労働が60時間を超えた場合に、超えた分の割増賃金の一部を、賃金(お金)の代わりに休暇(休み)として与えることができる制度です。

制度の背景と仕組み

割増賃金の仕組み

労働基準法により、1ヶ月に60時間を超えて法定時間外労働を行った場合の割増賃金率は、50%以上と定められています。これは通常の時間外労働の割増率(25%以上)を上回ります。

代替休暇で「休み」となる部分

この50%以上の割増賃金のうち、25%分はこれまで通り賃金として必ず支給されます。そして、残りの25%分以上について、企業は賃金として支払う代わりに、労働者の申請に基づき有給の休暇として与えることができるようにしたのが代替休暇制度です。

労働者の休息の機会を確保する観点から設けられた制度であり、割増賃金の一部を休暇に振り替えるか否かは、労働者本人の意向が優先されます。

代替休暇の付与方法と期間

休暇の単位

労働者の休息を確保するため、代替休暇はまとまった単位で与えることとされています。具体的には、1日半日、または1日・半日のいずれかの単位で与えられます。

取得期限

代替休暇は、時間外労働が60時間を超えた月の末日の翌日から2ヶ月以内に労働者に与えなければなりません。

代替休暇の時間数の計算

代替休暇の時間数は、以下の式で計算される換算率を用いて算定します。

代替休暇の時間数=(1ヶ月の法定時間外労働時間数−60時間)×換算率

換算率=(代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率​)−(代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率​)

計算例

【前提】

  • 法定外時間労働が100時間
  • 代替休暇を取得しなかった場合の割増率(50%以上):1.5
  • 代替休暇を取得した場合に支払う割増率(25%以上):1.25

【計算】

(100時間−60時間)×換算率(1.5−1.25)=40時間×0.25=10時間

この場合の代替休暇の時間は10時間となります。

制度の導入と労使協定

労使協定の締結

代替休暇制度を導入するためには、労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を結ぶ必要があります。

労使協定で定める事項

労使協定には、以下の事項を必ず定める必要があります。

  1. 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
  2. 代替休暇の単位(1日、半日、または1日・半日のいずれか)
  3. 代替休暇を与えることができる期間(法定時間外労働が60時間を超えた月の末日の翌日から2ヶ月以内)
  4. 代替休暇の取得日の決定方法および割増賃金の支払日

この労使協定は、あくまで制度を設けるためのものであり、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではありません。制度がある上で、代替休暇を取得するかどうか、いつ取得するかは、個々の労働者がその都度自由に決めることができます

代替休暇制度の実務上の課題

代替休暇制度を運用する上で、実務上の課題や問題点がいくつか指摘されています。

1. 労働者の選択権と企業側の強制力のなさ

  • 労働者の意向が優先: 代替休暇は、労働者本人が割増賃金ではなく休暇の取得を希望した場合のみ成立します。企業側は、残業代の抑制や労働者の健康確保を目的としていても、労働者に休暇の取得を強制することはできません
  • 強制による賃金不払いリスク: 企業が労働者の意向に反して一方的に休暇取得を命じた場合、本来支払うべき割増賃金との差額が未払い賃金となり、労働基準法違反となるリスクがあります。

2. 時間数管理・計算の複雑さ

  • 計算の煩雑さ: 代替休暇の時間数は、「60時間を超えた時間外労働時間」に「換算率(割増率の差)」を乗じて算出するため、通常の残業時間管理に加えて、この代替休暇専用の複雑な時間計算が必要になります。
  • 端数の取り扱い: 算出された代替休暇の時間数が、労使協定で定めた休暇の単位(1日または半日)に満たない場合、残りの端数の取り扱いをどうするかという問題が生じます。(例:代替休暇が7.5時間で、単位が1日/8時間の場合など)

3. 休暇取得の難しさ

  • 取得期限の短さ: 代替休暇の取得期限は、時間外労働のあった月の翌日から2ヶ月以内と比較的短く、業務が恒常的に忙しい職場では、この期間内に休暇を消化することが難しいという実態があります。
  • 業務の多忙: 月60時間超の残業をしている労働者は多忙であるため、まとまった休みを取ることにためらいを感じたり、業務との調整がつかなかったりして、結果的に休暇を取得せず、割増賃金を受け取るケースが多くなる傾向があります。

こうした課題が問題点が考えられるので、制度の導入や継続的な運用に際しては、計算に対応する労務管理システムを活用したり、休暇を取得しやすい配慮をするなど、充分検討する必要があると考えられます。


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