会社の意思決定を高速化する「特別取締役」制度とは?

Last Updated on 2025年9月12日 by

会社の経営において、迅速な意思決定は欠かせません。しかし、多数の取締役がいる会社では、重要な案件を決めるたびに全員を集めて会議を開くのは大変な労力です。そんな時に活用できるのが、会社法に定められた「特別取締役」制度です。

特別取締役とは?

特別取締役とは、会社の特定の重要事項(例えば、会社の重要な財産の売買や、多額の借金など)について、通常の取締役会を開かずに迅速に決定を下す権限を持つ取締役のことです。

この制度は、あくまで会社の意思決定を「高速化」させるための仕組みであり、通常の取締役会がなくなるわけではありません。特別取締役による決定は、取締役会での決議があったものとみなされます

特別取締役の具体的な権限

特別取締役には、以下の事項について、取締役会の決議があったものとして決定できる権限が与えられます。

  • 重要な財産の譲渡および譲受け:不動産や大規模な設備など、会社の経営に大きな影響を与える財産の売買。
  • 多額の借財:会社の財産状態に影響を及ぼす、多額の融資を受けること。

これらの権限は、取締役会の決議が必要な事項の中でも特に重要性が高いものです。特別取締役は、これらの事項について、緊急かつ迅速な判断を求められる場合に、その権限を行使することができます。

なぜこの制度があるの?

最大の目的は、ビジネスチャンスを逃さないためです。

不動産取引やM&A(企業の合併・買収)など、時機を逸すると大きな損失につながる可能性がある場面では、数日間の差が勝敗を分けます。特別取締役制度があれば、緊急の案件でも一部の取締役だけで即座に判断を下せるため、迅速な対応が可能になります。

いわば、通常の会議が「一般道」だとすれば、特別取締役制度は重要な案件を素早く処理するための「高速道路」のような役割を果たします。

どんな会社が使えるの?

特別取締役制度は、すべての会社が導入できるわけではありません。会社法で定められた以下の要件を満たす必要があります。

  • 取締役が6名以上いること
  • 取締役のうち1名以上が社外取締役であること

つまり、ある程度の規模があり、かつ社外の視点も取り入れている会社が、この制度の対象となります。

この制度は、多く利用されているわけではありません。検索で得られた古いデータ(2019年時点)によると、東京証券取引所第一部に上場している会社のうち、この制度を導入しているのは約2.9%でした。取締役の人数が多い会社など、一部の会社で利用されるにとどまっているようです。

特別取締役を選任する方法

特別取締役を選任するためには、まず取締役会で決議を行います。この決議は、通常の取締役会の決議とは異なり、取締役の3分の2以上の賛成が必要です。これは、通常の決議よりも厳しい条件であり、この制度の重要性を示しています。

選任された特別取締役は、3名以上でなければならず、取締役会設置会社の取締役の中から選ばれます。

登記しなければならないこと

特別取締役制度を導入した会社は、その旨を法務局に登記しなければなりません。この登記によって、会社がこの制度を利用していることが対外的に公にされます。ただし、誰が特別取締役に選任されたか、その個人の氏名までは登記する必要はありません

「決議」と「議事録」はどうなるの?

特別取締役による決定は「決議」と呼ばれますが、これは「特別取締役会」という新しい会議体ではありません。特別取締役が協議し、意思決定を行ったという事実を指します。

この決議は、通常の取締役会の決議と同等の法的効力を持つため、議事録の作成が義務付けられています。これは、決定の経緯を記録し、透明性を確保するために非常に重要です。議事録には、決議内容や決議日、提案した特別取締役の氏名などを詳細に記録する必要があります。

常務会や経営会議と呼ばれるものとの違い

特別取締役は会社法に定められた法的な制度です。特別取締役が決議した事項は、取締役会の決議があったものとして扱われます。一方、常務会経営会議は、法律上の根拠を持たない会社独自の任意団体です。これらは経営陣が情報共有や意見交換を行うための場であり、そこで決まった内容を正式な会社の意思決定とするには、改めて取締役会で決議が必要です。

まとめ

最後に、特別取締役制度のポイントをまとめます。

  • 目的:意思決定を迅速化し、ビジネスチャンスを逃さないため。
  • 要件:取締役6名以上、うち社外取締役1名以上が必須。
  • 選定:その中から3名以上の特別取締役を選定。
  • 手続き:特別取締役による決定後、必ず議事録を作成して記録を残す。
  • 公表:制度の採用は商業登記される。

特別取締役制度は、会社のガバナンス(企業統治)を強化しつつ、スピードを重視する現代の経営に役立つ有効な手段と言えるでしょう。


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