年俸制の正しい理解と運用のポイント

Last Updated on 2025年9月16日 by

年俸制とは?

年俸制とは、従業員に支払う給与の総額を1年単位で決定する賃金制度です。企業は向こう1年間の給与総額を提示し、従業員がこれに合意することで労働契約が成立します。この年俸額は、原則として1年ごとに見直し(更改)されます。

年俸額の決定方法は、企業ごとに就業規則や賃金規定で定められます。一般的には、前年の業績や成果を評価しつつ、向こう1年間に期待される役割や貢献度を加味して金額が設定されます。

年俸の支払い方と減額ルール

支払い方は労働基準法で決まっている

年俸制であっても、年俸額を一括で支払うことはできません。労働基準法第24条では、「賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。したがって、年俸総額を12分割して毎月支払うのが一般的です。

賞与分が含まれている場合も、この「毎月払い」の原則は守る必要があります。多くの企業では、年俸総額を14や16などに分割し、夏季・冬季に「特別賞与」や「一時金」として上乗せして支払う方法を採用しています。

合意のない一方的な減額は違法

年俸の更改時に、前年度よりも金額を下げることは可能です。しかし、会社や個人の業績が変化したからといって、合理的な理由なく減額することは「労働条件の不利益変更」にあたります

  • 合理的な理由: 就業規則や賃金規定に明確な評価基準や減額ルールが定められており、それに則って減額される場合です。
  • 社会通念上の合理性: たとえルールに基づいていても、社会通念上不合理と見なされる大幅な減額(例えば、業績不振の責任を個人の年俸に過度に転嫁するなど)は、**「人事権の濫用」**として無効とされる可能性があります。

このため、一般企業で導入される年俸制は、個人の活躍次第で給料が大幅に変動するプロ野球選手の年俸制とは全く異なることを理解しておく必要があります。

割増賃金(残業代)との関係

年俸制でも残業代は支払われる

「年俸制だから残業代が出ない」というのは間違いです。労働基準法上、年俸制は固定給の一種であり、時間外労働、休日労働、深夜労働に対しては、別途割増賃金の支払い義務があります。

年俸は、あくまで所定労働時間に対して支払われる賃金です。所定労働時間を超えて働いた分については、適正な労働時間管理に基づいて、割増賃金を支給しなければなりません。

固定残業代制度を併用する場合も、年俸のうち基本給にあたる部分と、固定残業代にあたる部分を明確に分け、実際の残業時間が固定時間を超えた場合は、その不足分を支払う必要があります。

割増賃金の計算方法

割増賃金の基礎となるのは、月給を時間あたりの賃金に換算した金額です。年俸制の場合、この基礎賃金を算出する際は、年俸総額を12ヶ月で割った金額を基準にします

例えば、年俸を16分割して毎月支払う方式であっても、割増賃金の計算では、年俸を12ヶ月で割った金額を基礎としなければなりません。これは、賞与分は「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」とみなされ、割増賃金の計算基礎から除外されるためです。

欠勤控除・賞与との関係

欠勤控除のルール

欠勤や遅刻をした際に、その分の賃金を控除するかどうかは、就業規則や賃金規定に明記されているかによります。記載があれば控除が可能ですが、記載がない場合は控除することは難しいでしょう。

賞与との関係

年俸制の場合、別途賞与が支給されないのが一般的です。ただし、年俸総額に賞与分が含まれていることを就業規則などに明記し、従業員に周知しておく必要があります。業績が大幅に上回ったからといって、当初の年俸額を超える賞与を支給する義務はありませんが、労働契約の内容によっては、その可能性を排除するわけではありません。

一方で、たとえ業績が悪化したとしても、当初の年俸額を一方的に減額することはできません。これは、総額で労働契約が成立しているためです。


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