Last Updated on 2023年10月7日 by 勝
年俸制とは
年俸制とは、従業員の給料を1年単位で決める制度です。
向こう1年間の給与総額はこれだけと会社が提示し、従業員が合意することで決定します。
原則として1年ごとに更改することになります。
金額の決め方
個々の年俸額は、会社ごとに就業規則や賃金規程で定めた決定方法により決定します。
基本的には、前年の業績を基準にしつつ、向こう1年間の期待を加味した金額になるでしょう。
更新時の減額に注意
気を付けなければならないのは、更新時の減額です。会社や個人の業績の変化があったとしても従業員の待遇を下げることは「不利益変更」になるので、合理的に説明できる内容でなければなりません。
賃金規程等で年俸増減のルールが決まっている場合は、そのルールの範囲を守らなければなりません。ルールの範囲内だったとしても、社会通念上不合理とみなされる減額幅であれば、人事権の濫用になると考えられます。
つまり、会社が導入することができる年俸制は、プロ野球などの年俸制とは全く違うことを理解しなければなりません。
支払い方
年俸制であっても月々に分割して支給しなければなりません。
年俸分を一度にポンと払うことはできません。
労働基準法第24条に「賃金は、毎月一回以上支払わなければならない」という定めがあります。法律で月に1回以上と明確に決められているので、年俸制であっても分割して毎月支払わなければならないのです。
賞与との関係
年俸制の場合は賞与が出ないのが一般的です。ただし、賞与を支給しない場合は賃金規程などに、年俸に賞与分が含まれていることが明記されていなければなりません。
また、年俸の中に賞与が含まれていると規定していたとしても、業績が大幅に上回ったときに年俸制だから賞与を支給できないということはありません。
逆に、業績が下がったからと言って、当初の年俸を期の途中で減額することはできません。賞与分が含まれているとしても総額で労働契約が成立しているからです。
時間外割増賃金との関係
時間外手当は別途必要
年俸制だから残業代が出ないというのは間違いです。残業手当、休日出勤手当、深夜手当の支払が必要です。
年俸は、1年間の所定労働時間に対して支給する賃金です。所定労働時間外については別に支給しなければなりません。
つまり、年俸制にしている従業員に対しても適正な労働時間管理をしなければなりません。
あわせて固定残業制度を採用するのであれば、基本給にあたる部分と残業代にあたる部分を明確に分けたうえで、さらに労働時間管理により不足分を払わなければなりません。
割増賃金の基礎になる賃金は
なお、年俸は「1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」ではありません。実際には1か月単位で支給されるので、割増賃金の基礎になる賃金に入ります。
また、年俸を16分割した額を毎月支払い、賞与月には2か月分ずつ上乗せする支給方法を選択している場合は、割増賃金の基礎になる賃金は、毎月支給している1か月分の金額ではなく、年俸の12分の1にしなければなりません。年俸額が決定していて単に支払い方が違うだけだとみなされるからです。
欠勤控除等との関係
欠勤や遅刻をしたときに控除できるかどうかは就業規則等への定めによります。控除について記載がなければ控除するのは難しいでしょう。控除について記載してあれば控除できます。
退職申し出の時期
民法627条3項に、「6か月以上の期間によって報酬を定めた場合」には、前項の解約の申し入れは3か月前にしなければならない。と規定されています。年俸制がこれに該当します。
ただし、労働基準法では、賃金は毎月1回以上の支払いをしなければならないと定めています。その結果、「月という期間によって報酬を定めた」と同じになるので「3か月」という制限は適用できないと考えられています。
月という期間によって報酬を定めた場合には、給与計算期間の前半に退職の意思表示をした場合は、その給与計算の終了日をもって労働契約が終了し、給与計算期間の後半に退職の意思表示をした場合は、次の給与計算の終了日をもって労働契約が終了することとになります。
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