Last Updated on 2025年9月21日 by 勝
職務等級制度とは
職務等級制は、人事制度の等級制度の一つです。
職務等級制度は、従業員が担当する「仕事の内容」や「責任の重さ」に基づいて等級を決める人事制度です。簡単に言うと、「どんな仕事を任されているか」で評価と給与が決まる仕組みです。
職務等級制度の仕組み
この制度を導入する際は、まず会社のすべての職務を洗い出し、それぞれの職務の重要度や難易度を客観的に評価します。そして、その評価結果に応じて職務に「等級(グレード)」を付与します。
例えば、以下のように職務に等級を付けます。
- 営業職:
- 等級1:新規顧客開拓(責任小)
- 等級2:既存顧客の担当(責任中)
- 等級3:主要な大口顧客の担当(責任大)
この等級は「職務」に紐づくため、その職務を担当するすべての人は、原則として同じ等級になります。その等級が、基本給や手当の算定基準となります。
職務等級制度の根幹となるのが「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」です。この文書には、各職務の具体的な業務内容、必要なスキル、責任範囲などが詳細に記載されており、評価の透明性を保つ役割を果たします。
職務等級制度のメリット・デメリット
1. メリット
- 評価の公平性・透明性が高い: 職務内容が明確なので、評価の基準が客観的になり、従業員は「なぜこの給料なのか」を理解しやすいです。
- 成果主義と相性が良い: 職務の価値や達成した成果が直接的に給与に反映されるため、高い成果を上げた従業員のモチベーション向上につながります。
- 人件費を抑制しやすい: 従業員の能力が上がっても、担当する職務の価値が変わらなければ等級は上がりません。そのため、人件費の無秩序な増加を防ぎやすいです。
2. デメリット
- 業務の柔軟性が低い: 職務範囲が明確に定められているため、職務記述書にない業務は「自分の仕事ではない」と従業員が協力しなくなる可能性があります。
- 導入・運用の手間がかかる: すべての職務を分析し、職務記述書を作成・維持・管理する作業は、人事担当者にとって大きな負担となります。
- ゼネラリスト育成に不向き: 特定の職務に特化した専門性(スペシャリスト)は育ちやすい一方、幅広い業務を経験するゼネラリストは育ちにくい傾向があります。
職能資格制度との違い
職務等級制度と前回解説した職能資格制度は対照的な関係にあります。
- 職務等級制度: 「仕事」に等級をつけます。
- 評価基準: 担当している職務の価値や責任の重さ。
- 昇給: より価値の高い職務に異動・昇進した時。
- 適している企業: 成果主義を重視する企業、専門職が多い企業。
- 職能資格制度: 「人」に等級をつけます。
- 評価基準: 個人の職務遂行能力や経験、スキル。
- 昇給: 能力が向上し、等級が上がった時。
- 適している企業: 長期雇用を前提とし、ゼネラリストを育成したい企業。
職務等級制度と職務給の関係
職務等級制度と職務給は、「仕事」の価値を賃金に反映させる仕組みとして一体の関係にあります。職務等級制度が「仕事に等級を付ける」枠組みであるのに対し、職務給は「その等級に応じた給与」そのものを指します。
職務等級制度と職務給の連動
- 職務の評価: まず、会社内の全ての職務(例:経理、営業、事務)について、その難易度、責任の重さ、求められるスキルなどを詳細に分析・評価します。この分析結果は「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」にまとめられます。
- 職務等級の設定: 評価結果に基づいて、職務に等級(グレード)を付与します。例えば、「一般事務職は等級1」「チームリーダーは等級2」といったように、職務の内容に応じてランク付けをします。
- 職務給の決定: この等級に紐づく形で、給与額が設定されます。この等級に基づく給与が職務給です。同じ職務、つまり同じ等級にいる社員は、原則として年齢や勤続年数に関係なく、同じ水準の職務給が支払われます。
職務給の主な特徴
- 同一労働同一賃金: 「同じ仕事には同じ給与」という考え方が徹底されます。これにより、給与決定の公平性・透明性が高まります。
- 成果主義・ジョブ型雇用との親和性: 職務給は、担当する職務の価値や成果が直接的に給与に反映されるため、成果を重視する企業や、職務内容を明確にする「ジョブ型雇用」と非常に相性が良いです。
- 昇給の仕組み: 職務給は、担当職務が変わらない限り、基本的に給与は上がりません。昇給するためには、より責任の重い、価値の高い上位の職務に異動・昇進する必要があります。
職務等級制度と職務給は、役割分担が明確な欧米企業で発展してきた制度であり、近年は日本でも、専門性の高い人材の確保やグローバル化への対応のために導入する企業が増えています。