成果主義賃金制度はなぜ敬遠されるのか?

賃金

Last Updated on 2025年9月29日 by

今の若者は安定志向が強い傾向にあります。これは、日本の経済状況や社会の変化を背景とした、彼らの合理的な選択であると捉えられます。そして、その安定志向の強さから、従来の「ハイリスク・ハイリターン型」の成果主義賃金制度は敬遠される傾向があります。

1. 若者の「安定志向」の現状と背景

安定志向の高まりを示すデータ

  • 複数の調査で、就職先を選ぶ際に「安定した生活を送りたい」や「安定している会社」を重視する若者の割合が増加傾向にあります。
  • 特に20代を中心に「成果主義よりも年功序列(的な安心感)を望む」という回答が増えている調査結果も出ています。

安定志向の内容

「安定志向」は高まっていますが、その意味合いは従来の「年功序列で終身雇用」とは少し異なります。

従来の安定志向今の若者の「新しい安定志向」
会社に尽くせば自動的に給料が上がる「経済的安定」終身雇用が崩壊した時代における「心の安定」「市場価値の安定」
経済の停滞や終身雇用の崩壊を目の当たりにし、企業に将来を託すことへの不安がある。
成果主義の「評価の不透明さ」に対し、頑張っても正当に評価されないリスクを感じている。
柔軟な働き方や良好な人間関係といった「心の健康」を重視する傾向が強い。
いつでも転職できるスキルや経験を身につけることが、結果的に最も安定したキャリアだと考えている。

2. 成果主義賃金制度が敬遠される理由

成果主義自体が問題ではありませんが、設計や運用方法によっては若者に特に不利に感じられ、敬遠されます。

  • 初期の不公平感: 入社したばかりの若手は、仕組み上どうしてもすぐに大きな成果を出すのは難しく、成果主義では低く評価されがちです。これにより「焦燥感」や「不公平感」を抱きやすい。
  • 評価の不透明さ: 評価基準が曖昧だと、「結局、上司に気に入られるかどうかで決まるのでは?」と不信感を抱き、「頑張っても報われない」と感じるリスクが高まります。
  • リスク回避: リスクを避けたい若者にとって、給与が大きく変動する可能性がある成果主義は、生活基盤の「安定」を脅かす要因と捉えられます。

3. 今後、若い世代に好意的に受け止められる賃金制度

若者が求める「安定」と「成長・納得感」の両方を満たす、ハイブリッドな賃金制度が好意的に受け止められると考えられます。

目指すべきは、「貢献度対応型賃金制度」や「ロール型雇用」の考え方を基本にした設計です。

1. 「安心のベース」を保証する(年功序列的な要素)

給与の「下限」を保証し、生活基盤の安心感を提供します。

  • 安定したベースアップ(定額昇給):
    • 等級や評価に関わらず、入社から一定期間(例:30代半ばまで)は生活給として毎年一定額が確実に昇給する仕組みを残すことで、長期的な安心感と定着率向上に寄与します。
  • 高い初任給・若手の賃金カーブのフラット化:
    • 初任給を市場相場より高く設定したり、若年層の昇給カーブをなだらかに上昇させることで、「入社当初から正当に評価されている」という納得感を与えます。

2. 「納得感のある報酬」を強化する(成果主義・能力主義的な要素)

ベースの安定の上に、個人の頑張りや能力を適切に評価し、報います。

  • 透明性の高い「役割・グレード別範囲給」:
    • 給与を、年齢ではなく「担っている役割の大きさ(ロール)」や「発揮している能力」に基づいて決定します。
    • さらに、昇給・昇格の基準を明確にし、全社員に公開することで、評価への納得感と公平性を高めます。
  • 短期的なインセンティブ(成果給)の活用:
    • 月給や年俸に大きく影響させるのではなく、賞与や一時金の一部として成果報酬を反映させることで、挑戦を促しつつ、基本給の安定性を維持します。
  • 成長・スキルへの投資としての報酬:
    • 業務に必要な資格取得やスキルアップに対し、直接的な手当や報酬で報いることで、「成長が給与につながる」ことを可視化します。

企業としては、「安易な成果主義」ではなく、「頑張りや成長が必ず報われる透明な仕組み」を構築し、それを丁寧に若者に向けて発信することが、優秀な人材の獲得と定着において最も重要です。