Last Updated on 2025年9月11日 by 勝
損害賠償請求リスクの一覧
従業員や遺族、元従業員からの損害賠償請求リスクについて、まず、箇条書きで示します。
- 安全配慮義務違反
- 長時間労働やハラスメントなどにより、従業員が精神疾患(うつ病など)や過労死、過労自殺に至った場合。
- 労働災害(労災)に対する安全対策が不十分であったために、従業員が負傷または死亡した場合。
- ハラスメント
- パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、モラルハラスメントなど、さまざまなハラスメント行為によって、精神的苦痛を受けた場合。
- 不当解雇
- 合理的な理由や正当な手続きなく従業員を解雇し、その地位確認や賃金支払いを求められた場合。
- 賃金未払い
- 残業代、休日手当、深夜手当などが正しく支払われていなかった場合。
- 退職勧奨・退職強要
- 退職を強要するような言動や、脅迫的な退職勧奨により、従業員が精神的苦痛を受けた場合。
- 個人情報保護義務違反
- 従業員の個人情報が漏洩したり、不適切に利用されたりした場合。
- 名誉毀損
- 元従業員に対して、事実と異なる情報を流布するなどして、社会的評価を低下させた場合。
- 不当な契約内容
- 職業選択の自由を不当に制限するような競業避止義務や秘密保持契約など。
日頃から注意するべき点(概要)
従業員や遺族、元従業員からの損害賠償請求リスクについて、会社が日頃から注意すべき点と具体的な実施事項を項目ごとに解説します。
1. 安全配慮義務違反
会社は、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する義務があります。日頃から労働時間を適切に管理し、過重労働やハラスメントの兆候を見逃さないことが重要です。
具体的な対策として、長時間労働が続く従業員には産業医との面談を促したり、業務量の見直しを行ったりします。また、心身の健康相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる環境を整えることも必須です。労働災害が発生しないよう、作業現場の安全点検を定期的に実施し、危険な箇所は速やかに改善します。これらの取り組みを就業規則に明記し、従業員に周知徹底することで、リスクを大幅に軽減できます。
2. ハラスメント
ハラスメントは従業員の尊厳を傷つけ、心身に大きな苦痛を与える行為であり、会社には防止措置を講じる義務があります。日頃から注意すべきは、社内のコミュニケーションを円滑にし、ハラスメントを許さない風土を作ることです。
具体的には、全従業員を対象としたハラスメント研修を定期的に実施し、ハラスメントの定義や具体例、加害者・被害者にならないための心得を教育します。また、相談窓口を設置し、相談者や内容のプライバシー保護を徹底した上で、迅速かつ適切に対応する体制を構築することが不可欠です。ハラスメントが認められた場合は、就業規則に基づき厳正に対処します。
3. 不当解雇
会社は従業員を解雇する際、客観的に合理的な理由と社会通念上相当な理由が必要です。日頃から、従業員の評価は公平かつ客観的な基準で行うよう心がけ、その過程を記録に残すことが重要です。
具体的には、就業規則に解雇事由を明確に記載し、従業員に周知します。解雇を検討する際は、いきなり通告するのではなく、本人に弁明の機会を与え、改善を促すための指導を文書で行うなどの手続きを慎重に踏む必要があります。これらの手続きを怠ると不当解雇と判断される可能性が高まります。解雇は最終手段であり、他の配置転換や業務内容の見直しなどを十分に検討することが求められます。
4. 賃金未払い
残業代や休日手当などの賃金は、労働基準法に基づき正確に計算し、全額支払う義務があります。日頃から、従業員の労働時間を適正に把握することが最も重要です。
具体的には、タイムカードや勤怠管理システムを導入し、労働時間を客観的に記録・管理します。管理職は部下の勤怠状況を常に確認し、サービス残業を容認しない姿勢を徹底する必要があります。また、給与計算ルールを明確にし、従業員が自身の給与明細を確認しやすいように配慮します。労働基準監督署の指導が入ることもあり、万一、未払いが発生した場合は、速やかに是正して支払うことが必要です。
5. 退職勧奨・退職強要
退職勧奨は、あくまで従業員の自発的な意思に基づくものである必要があります。日頃から、従業員とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を築くことが大切です。
具体的な実施事項としては、退職勧奨の面談時には複数名で対応し、威圧的な言動や長時間にわたる説得は避けるべきです。従業員が退職を拒否した場合は、その意思を尊重し、退職強要と受け取られるような言動は一切行わないように徹底します。退職勧奨の経緯や内容を詳細に記録しておくことで、万が一のトラブルに備えることができます。脅迫的な言動があったと判断されれば、損害賠償を請求される大きなリスクとなります。
関連記事:退職勧奨はあくまでも選択肢の提示、無理強いをしてはいけない
6. 個人情報保護義務違反
会社は、従業員の個人情報(氏名、住所、生年月日、病歴など)を適切に管理する義務があります。日頃から、個人情報の取得、利用、保管、廃棄に至るまで、厳格なルールを定めて運用することが重要です。
具体的な実施事項としては、個人情報を取り扱う従業員に対して定期的な研修を実施し、個人情報保護の重要性を周知します。また、個人情報を含む書類やデータにはアクセス制限を設け、不正なアクセスや持ち出しを防ぐための物理的・技術的な対策を講じます。退職した従業員の個人情報は、法令で定められた期間が過ぎれば速やかに適切な方法で廃棄します。
7. 名誉毀損
名誉毀損とは、元従業員などに対して公然と事実を摘示し、社会的評価を低下させる行為です。会社が日頃から注意すべきは、元従業員に関する情報を不必要に外部に漏らさないことです。
具体的には、退職した従業員について、在職中の評価や退職理由などを問い合わせられても、安易に回答しないという社内ルールを徹底します。特に、事実と異なる情報や、ネガティブな情報を意図的に流布する行為は絶対に避けるべきです。名誉毀損は、元従業員からの訴訟リスクだけでなく、会社の信用失墜にもつながるため、慎重な対応が求められます。
8. 不当な契約内容
競業避止義務や秘密保持契約は、会社と従業員の双方にとって利益があるべきものです。日頃から、契約内容が合理的かつ必要最小限の範囲に収まっているかを確認する必要があります。
具体的には、競業避止義務を設定する場合、対象期間や地域、職種の範囲を限定し、従業員の職業選択の自由を過度に制限しないように配慮します。また、秘密保持契約についても、保護すべき情報が何であるかを明確に定義し、従業員が負担に感じないような内容にすることが重要です。不当な契約は無効と判断されるだけでなく、損害賠償請求の対象にもなり得るため、弁護士などの専門家に確認を依頼することも検討します。
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