小規模な支店の労働基準法や社会保険の扱い

会社の運営

Last Updated on 2025年9月24日 by

支店の法律上の位置づけ

支店も一つの独立した事業場ですから、本社と同様に法律上の義務を果たす必要があります。支店だから猶予されるということは原則そしてありません。ただし、事務手続きにおいては、届け出することで上位の組織と一体に扱うことが出来る場合があります。

労働基準法

営業所や出張所などで規模が著しく小さく、組織的な関連や事務処理能力などを勘案して、一つの事業として独立性がないと判断されるものについては、直近上位の機構(本社など)と一括して取り扱うことができます。

一括の可否は、以下の点を総合的に考慮して、個別に判断されます。

  • 所属人数
  • 業務内容
  • 責任者の配置の有無
  • 労務管理の能力

ただし、支店の規模にかかわらず行わなければならない事項もあります。

この取り扱いに疑問点がある場合は、所轄の労働基準監督署に相談することが最も確実です。

労働条件の適用

法律で定められた労働時間(原則1日8時間、週40時間)や休憩、休日を確保する義務は支店の規模にかかわらず、全ての事業場に適用されます。

労働条件の明示

労働者を雇い入れいる際は、支店の規模にかかわらず、賃金や労働時間、就業場所などを書面で明示する必要があります。

就業規則の作成・届出

独立性がないと認められた営業所は、上位の事業場(本社など)と一体とみなされ、上位の事業場の就業規則が適用されます。

これは、労働基準法における「事業場」の解釈が、単に場所的な概念だけでなく、人事や労務管理の独立性も考慮するためです。独立した人事権限や経理能力がない小規模な営業所は、本社という一つの事業場の一部として扱われます。

従業員が10人以上の場合

もし、独立性がないと認められた支店で、そこに所属する従業員が10人以上になった場合でも、単独で就業規則を作成・届け出る義務は生じません。

理由:

  • 就業規則の作成・届出義務は「事業場単位」で判断されます。
  • 独立性がない事業場は、法的に一つの「事業場」としてカウントされません。
  • そのため、本社と支店の従業員数を合算して判断することになります。

この場合、本社と支店の従業員を合わせた総数が10人以上であれば、本社が就業規則を作成・届け出る義務があります。その際に作成された就業規則が、独立性のない支店の従業員にも適用されることになります。

周知の義務に注意してください。本社が就業規則を作成した場合、その内容を独立性のない支店の従業員にも必ず周知させなければなりません。

36協定

36協定も、原則として事業場単位での締結が必要とされるため、その事業場の労働者過半数代表と協定を結びます。小規模な事業場の場合、独立性がないと判断されたものは本社と一括することができます。しかし、たとえ独立性がなくても、勤務時間や休日が本社と異なるなど、労務管理の実態が異なる場合は、本社とは別に36協定を締結して届け出る必要があります。 これは、労働者の健康と安全を確保するため、事業場の実態に合わせた協定を設けることが重要だからです。

労働者名簿と賃金台帳

支店が独立した事業場と認められない場合でも、労働者名簿と賃金台帳はその支店に備え付ける必要があります。

労働基準法は、労働者名簿と賃金台帳について「各事業場ごとに作成し、事業場に備え付けなければならない」と定めています。これは、労働基準監督署の臨検(立ち入り調査)があった際に、その場で帳簿をすぐに確認できるようにするためです。

本社で電子データとして一括管理することは可能です。しかし、その場合でも、各支店からいつでもそのデータを閲覧・印刷できる状態にしておく必要があります。これは、法律上の「備え付け」義務を満たすための措置です。

労働安全衛生法

労働安全衛生法は、労働基準法と同様に、原則として事業場を単位として適用されます。支店が「事業場」とみなされるかは、場所的な独立性や、人事・経理などの管理機能が独立しているかといった観点から判断されます。

労働安全衛生法上の管理者(安全管理者、衛生管理者、産業医など)や委員会の設置義務は、事業場ごとの従業員数に基づいて判断されます。支店が独立した事業場でない場合、本社と合算した従業員数でこれらの義務の有無が判断されます。例えば、本社45人、支店5人の場合、合計50人となるため、本社に衛生委員会の設置や衛生管理者の選任義務が生じます。

健康診断は、労働者が1人でも対象となるので、支店の規模にかかわらず行わなければなりません。

また、作業環境の維持: 労働者の安全と健康を確保するため、機械設備や作業方法を安全なものにし、職場環境を快適に保つ、作業環境の維持も支店の規模にかかわらず行わなけれなりません。

労働保険

労働保険(労災保険・雇用保険)は、原則として事業場単位で適用されます。そのため、小規模な支店でも、独立した事業場とみなされる場合は、支店独自に手続きを行う必要があります。

ただし、人事・経理等の事務が本社で一括して行われており、独立性がないとみなされる場合は、「継続事業一括」の申請をすることで、本社と合わせて一つの事業場として手続きを行うことができます。

支店を本社と一括して労働保険の事務処理を行う場合は、「継続事業一括認可申請書」を本社の管轄労働基準監督署およびハローワークに提出します。

「継続事業一括」が認められれば、小規模な支店で個別に手続きをすることなく、本社でまとめて事務処理ができるようになります。

これにより、支店における以下の手続きが省略できます。

  • 労働保険の保険関係成立届の提出: 支店を設置した際の新規提出が不要になります。
  • 雇用保険適用事業所設置届の提出: 雇用保険の適用対象者がいる場合でも、支店単独での提出は不要です。
  • 労働保険料の申告・納付: 労働保険料は本社と支店の賃金総額を合算して計算し、本社が一括して申告・納付します。

社会保険

社会保険(健康保険・厚生年金保険)も、原則として事業所単位で適用されます。小規模な支店でも、以下の要件を満たす場合は、個別に社会保険の適用事業所として手続きを行う必要があります。

  • 場所的に本社から独立していること
  • 経営上の意思決定や、人事・経理などの事務能力を有していること

上記の要件を満たさない場合は、本社が社会保険の手続きを一括して行うことができます。しかし、支店が独立した事業所として、社会保険の手続きを行うべきか判断が難しい場合は、年金事務所に確認することが重要です。

支店が独立した事業所と見なされない場合は、本社で手続きを一括するための「一括適用承認申請書」を年金事務所に提出します。

「継続事業一括」が認められれば、小規模な支店で個別に手続きをすることなく、本社でまとめて事務処理ができるようになります。

これにより、支店における以下の手続きが省略できます。

  • 健康保険・厚生年金保険の新規適用届の提出: 支店を独立した事業所として新たに設置した場合の届出が不要になります。
  • 月々の保険料の納付: 支店の従業員分も含め、本社がまとめて保険料を納めます。
  • 算定基礎届・月額変更届などの提出: 従業員の報酬変更等に関する届出も、本社でまとめて行います。

会社法

会社法において、支店の設置・移転・廃止は登記が義務付けられています(会社法第911条、第915条)。

  • 設置: 新たに支店を設けた場合は、2週間以内にその旨を本店所在地の管轄法務局に登記しなければなりません。
  • 移転・廃止: 支店を移転したり、廃止したりした場合も同様に登記が必要です。

※ 2022年9月1日の会社法改正により、支店所在地の法務局での登記は不要になりました。これにより、本店所在地を管轄する法務局だけで手続きが完結し、登記手続きが簡素化されました。

会社法上の「支店」とは、単なる営業所ではなく、本店とは別に独立して営業活動を行い、契約等の取引ができる権限を有する拠点を指します。

会社が「支店」という名称を使っていても、実態として独立した意思決定権限がない場合は、会社法上の「支店」には該当せず、登記義務は生じないことがあります。しかし、対外的な信用獲得や融資の要件として、実態が営業所であっても任意で登記を行うケースもあります。


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