厚生労働省が定めた「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」とは?わかりやすく解説

安全衛生管理

Last Updated on 2025年10月3日 by

快適職場指針の主要な4つの視点

厚生労働省が定めた「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(通称:快適職場指針)は、「仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づくり」を目指すために、事業者が自主的かつ継続的に取り組むべき事項を定めたものです。

法定基準を超えて、より良い職場環境を形成するための努力義務として、主に次の4つの視点から措置を講じることが望ましいとされています。

作業環境

労働者が不快と感じることがないよう、以下の要素を適切に維持管理するための措置を講じます。

  • 空気環境: 空気中の浮遊粉じん、臭気、タバコの煙などがないよう維持管理する(必要に応じて分煙対策も含む)。
  • 温熱条件: 温度、湿度を作業の態様や季節に応じて適切な状態に保つ。
  • 視環境: 作業に適した照度を確保し、まぶしさ(グレア)などがないように配慮する。採光や色彩環境にも配慮する。
  • 音環境: 外部からの騒音を遮蔽し、OA機器などについては低騒音化を図る。
  • 作業空間等: 作業空間や通路などの適切な確保を図る。

作業方法

労働者の心身の負担を軽減するため、作業方法の改善を図るための措置を講じます。

  • 不良姿勢作業: 腰部や頸部に負担がかかる不自然な姿勢での作業を機械設備の改善等により改善する。
  • 重筋作業: 荷物の持ち運びなど、相当の筋力を要する作業について、助力装置の導入などにより負担を軽減する。
  • 高温・多湿・騒音等: 高温、多湿や騒音の場所での作業について、遠隔操作化や遮音壁の設置などにより負担を軽減する。
  • 緊張作業等: 高い緊張や長時間の同一姿勢が求められる作業について、緊張を緩和する機器の導入などで負担を軽減する。

疲労回復支援施設

疲労やストレスを効果的に癒すことができるよう、施設・設備を設置・整備するための措置を講じます。

  • 休憩室等: 疲労やストレスを効果的に癒せるよう、臥床(がしょう)できる設備を備えた休憩室などを確保する。
  • 洗身施設: 多量の発汗や身体の汚れを伴う作業がある場合、シャワー室などを整備し、清潔に保つ。
  • 相談室等: 疲労やストレスについて相談に応じられる相談室などを確保する。

職場生活支援施設

洗面所、トイレなど、職場生活で必要となる施設等を清潔で使いやすい状態にしておくこと。

快適な職場環境づくりを進めるにあたって考慮すべき事項

指針では、これらの措置を講じるにあたり、以下の4点を十分考慮することが望ましいとしています。

  1. 継続的かつ計画的な取り組み: 体制を整備し、定期的な見直しを行う。
  2. 労働者の意見の反映: 実際に働く人の意見を反映する場を確保する。
  3. 個人差への配慮: 温度や照明など、職場の環境条件について年齢などによる個人差に配慮する。
  4. 潤いへの配慮: 職場に潤いを持たせ、リラックスできるような配慮をする(例:緑地の設置、色彩環境への配慮など)。

この指針のポイントは、「法定基準の遵守+αの自主的な取り組み」であり、労働者の意見を反映しつつ、継続的に改善していくことの重要性を示している点です。

事務所衛生基準規則との関係

事務所衛生基準規則が最低限守らなければならないルールであり、快適職場指針はそのルールを超えて、より働きやすい環境を目指すための指針です。

事務所衛生基準規則とは(義務基準)

事務所衛生基準規則は、労働安全衛生法に基づいて定められた厚生労働省令です。

  • 目的と性質: 事務所で働く労働者の安全と健康を確保するため、事業者が最低限、必ず守らなければならない衛生上の具体的な基準(義務基準)を定めています。
  • 具体的な規定(例):
    • 温度: 空調設備を設けている場合、室の気温を18℃以上28℃以下にするよう努める(暖房が必要な場合は10℃以下にしないなど、守るべき最低限の基準も規定)。
    • 照度: 一般的な事務作業では300ルクス以上を確保する(守らなければならない具体的な数値)。
    • 換気: 一酸化炭素や二酸化炭素の濃度上限値。
    • トイレ・休憩設備: 設置基準や男女の区別など。
  • 違反時の措置: 違反した場合は、労働安全衛生法に基づき罰則が科される可能性があります。

快適職場指針とは(努力目標)

快適職場指針は、事務所衛生基準規則などの法定基準をクリアした上で、さらに一歩進んだ快適な職場環境(疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場)を目指すために、事業者が自主的に取り組むことが望ましい事項をまとめたものです。

  • 目的と性質: 労働者の快適性(アメニティ)に配慮し、心身の負担を軽減するための措置を講じるよう促す努力義務を示す指針です。
  • 具体的な内容: 規制の数値基準ではなく、空気環境の「不快感がない」維持管理、作業方法の改善、リフレッシュのための休憩室、潤いへの配慮(緑地など)、個人差への配慮といった、より質的な側面に焦点を当てています。
  • 違反時の措置: 法律のような罰則はありませんが、労働環境を改善するための指針として活用が推奨されています。

両者の関係性のまとめ

項目事務所衛生基準規則快適職場指針
法的性質義務(労働安全衛生法に基づく省令努力義務(厚生労働省の指針
水準最低限クリアすべき基準望ましい水準、快適性への配慮
目的労働者の安全・健康の確保疲労・ストレスの軽減、働きやすい職場づくり
内容具体的な数値基準が多い(照度、温度など)質的な配慮が多い(臭気、潤い、個人差など)
罰則あり(違反した場合)なし(あくまで推奨事項)

事業者は、まず事務所衛生基準規則を確実に遵守し、その上で快適職場指針を参考にしながら、労働者の意見を取り入れ、継続的かつ計画的に「より快適な」職場環境づくりを進めていくことが求められています。