カテゴリー: 株主総会

  • 株主総会のオンライン開催

    株主総会を行う場所

    会社法は、株主総会を具体的な「場所」で開催することを前提としています。

    会社法第二百九十八条 取締役(略)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
    一 株主総会の日時及び場所

    すべてを仮想空間で実施すれば、地図上の場所を示すことができないので、開催の要件を満たさないことになります。

    上場会社の特例

    上場会社の場合には、産業競争力強化法により、経済産業大臣等の確認や定款変更等の一定の要件を満たした場合に、会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」、物理的な会場を用意しないバーチャルオンリー型の株主総会を開催することができます。

    産業競争力強化法第六十六条(抜粋) 金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社(上場会社)は、(略)経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定款で定めることができる。

    ハイブリッド型

    非上場会社の場合は産業競争力強化法の適用がありませんが、現行の会社法でも、地図上の場所で、役員や株主が実際に出席する株主総会を開催しつつ、「当該場所に存しない」他の役員や株主がインターネットを利用して遠隔地から参加する形態の開催方式は認められています。

    会社法施行規則第七十二条3項一号 株主総会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)

    この、会場での株主総会の開催とオンライン参加を併用する株主総会(ハイブリッド型のバーチャル株主総会)は、上場会社・非上場会社を問わず開催することができます。

    経済産業省は2020年に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」、2021年に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を公表しています。

    参加型と出席型

    ハイブリッド型バーチャル株主総会には、参加型と出席型があります。

    参加型

    参加型の場合は、オンライン参加の株主は、法的な意味では出席していないものとして扱います。

    オンラインで質問や動議を提出することも、議決権を行使することもできません。参加というより、中継動画を視聴するという言い方が近いかもしれません。

    株主としての権利は、別途、議決権行使書や委任状によって行使することになります。

    株主は、会社から提供されるID、PWを利用して、会場の動画配信を行うサイトや、株主専用サイトにアクセスすることになります。

    出席型

    出席型の場合は、オンライン参加の株主が、法的な意味で出席しているものとして扱います。

    議事録において出席株主として扱い、オンラインで質問や動議を提出することも、議決権を行使することもできます。

    とりわけ「出席型」においては、株主の権利を確保し、株主総会の手続に瑕疵を生じないために、周到な準備・対応が必要になります。

    出席型の注意点

    オンライン株主総会を開催するには多くの注意点がありますが、そのいくつかを示します。

    株主総会を開催している会場と、オンラインで参加している株主との間で、情報伝達の双方向性と即時性が確保される必要があります。

    株主の本人確認を行うための確実な認証システムが必要です。

    議決権行使のための賛否投票もオンラインで即時・正確に処理しなければなりません。

    株主のなかにはインターネットに不慣れな人もいます。分かりやすいパンフレットやマニュアルが必要になります。電話等での相談体制も準備しなければなりません。

    以上のために、通常の株主総会より事前準備が増加します。また、当日も動作確認のために通常の株主総会より早い時間から準備が必要になります。

    システムを確実に作動させ、運用するための技術的スタッフが必要になります。一般的には、専門会社の有償サポートが必要になると思われます。


    関連記事:取締役が一堂に会せない場合の取締役会

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  • 取締役と監査役の就任承諾書のサンプル

    就任承諾書のサンプル

    就任承諾書

    株式会社〇〇御中

    私は、令和〇年〇月〇日開催の株主総会において、取締役に選任されましたので、その就任を承諾します。

    令和〇年〇月〇日

    住所          

    氏名         印

    記載上の注意点

    監査役の場合は取締役を監査役に置き換えます。

    就任承諾書は、一般的には株主総会における選任決議がなされた後に提出されるので、発行日付は株主総会日にします。

    株主総会で選任決議がなされることを条件として、取締役に就任することを承諾する意思表示する場合は、文面を「私は、令和〇年〇月〇日開催の株主総会において、取締役に選任されることを条件として、その就任を承諾する」とし、この場合は、発行日付は株主総会日の前になります。


    関連記事:取締役と監査役の就任承諾書について

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  • 株主総会終了後の取締役会

    総会後の取締役会

    定時株主総会が終了したら、株主総会から委任された事項等を決議するために取締役会を開催しなければなりません。

    多くの場合は、株主総会終了後直ちに、控室に戻った再任および新任の取締役により取締役会を開催します。

    この場合、定款等で取締役会の招集権者を代表取締役としている場合は、厳密に言えばまだ代表取締役が選出されていません。全員の同意があれば招集手続を省略できますが、もしも欠席者があれば取締役会の招集に瑕疵が生じます。

    対策として、株主総会前に取締役と監査役の候補者全員から預かっている就任承諾書に、当該株主総会終了後ただちに取締役会を開催することについての同意する旨の文言を加えておくと安心です。

    取締役会の決議事項

    一般的には次の事項について決議が必要です。

    □ 代表取締役等の選任
    □ 取締役の役付け
    □ 取締役の使用人兼務
    □ 役員報酬等の配分決定

    代表取締役等の選任

    株主総会では取締役が選任されます。代表取締役は取締役会で選任しなければなりません。

    その他に、副社長や専務などの役付き取締役の選任や、取締役に使用人を兼務させる場合においても取締役会の決議が必要です。

    新任の取締役だけでなく、再選された取締役についても同様に決議が必要なので注意しなければなりません。

    取締役の報酬の配分

    株主総会は「取締役全員に対して月額〇〇万円以内」などと定めるにとどめて、具体的な配分は取締役会に委任されるのが一般的です。取締役会では個々の取締役の報酬額を決議しなけれなりません。

    これは取締役会の決議事項なので「社長に一任する」という決定はできません。社長が支給案を提出することはできますが、決定するには取締役会決議が必要です。

    なお、監査役の報酬は監査役会の決定事項です。

    退職慰労金額の決定

    株主総会は「退任する取締役〇〇に対して、内規の定めるところにより、退職慰労金を支払うこととし、その金額、支払方法、時期等は取締役会の決議に一任する」と決議するのが一般的です。

    支給案は内規によって計算できますが、内規もある程度は裁量の幅があるように決められているのが一般的です。実務的には内規にそって社長が功績度を考慮して支給案を提案し、取締役会が決議して決定します。

    この場合、事情によって、取締役会に計算方針とおおよその支給額を示して具体的な額の算出を社長に一任することもあるようですが、その場合は、社長は具体額決定後にその額を取締役会に報告する義務があると考えられています。

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  • 定時株主総会終了後の手続

    手続きのマニュアル化

    株主総会終了後、速やかに行わなければならない手続きがあります。それぞれの会社の規模や上場の有無、取締役会の有無などに異なりますが、会社ごとに一定のパターンで繰り返す業務です。

    マニュアル化して正確に把握しておきましょう。

    就任承諾書をもらう

    取締役や監査役が就任するためには、株主総会の決議だけでなく就任する本人の承諾が必要です。就任の登記の申請書には就任承諾書をを添付しなければなりません。株主総会議事録に就任を承諾した旨が記載されていれば、その議事録を援用して登記申請することができます。

    関連記事:取締役と監査役の就任承諾書

    議事録を作成する

    株主総会終了後に議事録を作成します(318条)。書面または電磁的記録によって作成します。

    関連記事:株主総会議事録の書き方

    取締役会を開催する

    取締役会設置会社では株主総会が終了したら取締役会を開催します。定時株主総会後の取締役会では一般的に代表取締役の選定や役員報酬等の配分決定などが行われます。

    関連記事:株主総会終了後の取締役会

    監査役会を行う

    監査役会設置会社では株主総会が終了したら監査役会を開催します。

    定時株主総会終了後の監査役会では、常勤監査役等の選定や報酬等の配分決定などが行われます。

    各種登記を行う

    株主総会が終了し、取締役や代表取締役の選任、重任、解任、監査役の設置や募集株式の発行、新株予約権の発行、組織再編等の決議があれば、その旨の登記を2週間以内に行う必要があります(911条1項)。

    決算公告を出す

    決算公告が求められている株式会社では決算公告を出さなければなりません。特例有限会社と合同会社などの持分会社は必要ありません。

    なお株式会社でも上場会社などの有価証券報告書提出が義務付けられている会社は不要です(440条4号)。

    公告は定款に定めた方法で行います。官報や日刊新聞、Webでの公告などがあります。

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  • 株主総会における代理人の扱い

    原則的な取り扱い

    株主総会に会社が発行した議決権行使書(または委任状)用紙を持参して来場した人については、(明らかにその人が本人でないことが明確な場合をのぞき)その人を株主本人であると推定して受付すること多くの株主総会で行われています。

    ただし、厳密に言えば、そうした簡便な方法をとったことで後日問題が起こるリスクがないわけではありません。

    例えば、代理人であるのに委任状なしで議決権を行使した場合、その議決権行使は法的に有効な代理権に基づかないものとして、後に株主総会決議の取消しの訴え(会社法第831条)の対象となる可能性があります。

    代理人であるとの申し出があった場合

    来場した人が、議決権行使書と委任状を提示したときは、代理人として取り扱います。

    まず、定款において、株主の代理人が他の株主に限定されている場合(ほとんどそうなっています)は、代理人の住所氏名を質問し、株主名簿と照合して代理人資格を確認します。

    来場者が代理人資格を有している場合は出席として扱います。

    来場した人に代理人資格が無い場合は、出席させることができないことになります。

    この場合、せっかく来場されたということで、多くの会社では、次の措置をとっているようです。

    ① 本人出席または議決権行使書(または委任状)出席のいずれにもカウントしないものの、傍聴者として入場させる。
    ② (申し出がなければ入場させていたはずであるため)特別措置として出席として扱う。

    いずれの場合でも、受付で混乱が生じないように、事前に取扱基準をマニュアルなどに明記して受付担当者に徹底させておく必要があります。

    法人株主の場合

    法人株主の場合は、名義になっている代表者ではなくその法人の役職員が来場するのが一般的です。

    この場合、①委任状の提出を求める ②名刺や社員証で確認できれば入場させる ③そのまま入場させる のどれを選択するか事前に定めておく必要があります。原則的な扱いは「委任状」です。


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  • 株主提案権について

    株主提案権とは

    株主提案権とは、株主が株主総会の議案を請求することができる権利です。

    株主提案権を行使するためには、6ヶ月以上前から継続して総株主の議決権の1%以上の議決権か、300個以上の議決権を持っている株主に限られます。

    複数の株主の議決権を合算して要件が満たされる場合には、共同提案として請求できます。

    議題提案権や議案通知請求権の行使をするには、株主総会が開催される8週間前までに行なう必要があります。

    具体的には、定款変更を求める株主提案がよく見られます。例としては、役員報酬の個別開示を義務付ける旨の定款変更を求める株主提案があります。

    また、取締役の選任・解任や剰余金の配当に関する株主提案も比較的多く見られます。

    株主提案権の種類

    株主提案権には株主総会の「議題」に関するものと「議案」に関するものがあります。

    いずれも「株主が取締役に対して」提案を行うものであるという点では変わりありません。

    「総会の目的」に関する株主提案権

    会社法303条に定められた株主提案権です。一定の事項を「株主総会の目的(議題)」にすることを請求する権利です。

    「議案」に関する株主提案権

    会社法305条に定められた株主提案権です。「議案の要領(議題の具体的な内容)」を株主総会招集通知に記載するよう請求する権利です。

    株主提案権に対する対応

    株主提案があったら次の事項をチェックして、問題がなければ取り上げなければなりません。

    □ 総株主の議決権の100分の1以上または300個以上を6か月前から引き続き有する株主であるか。

    □ 株主総会の日の8週間前までに請求されているか。株主提案権の行使日と株主総会の日を算入せず、その間に8週間が必要であるとされています。

    □ 議案の内容が法令・定款に違反していないか。株主総会の権限として会社法または定款で定められていない事項に関する議題の提案がなされた場合には取り上げる必要はありません。

    □ 議案が伴っているか。書面投票制度または電子投票制度を採用する会社については、株主総会参考書類に議案の記載が義務付けられているため、株主提案であっても、議題とともに議案が提案されていることが必要です。

    □ 同一の議案につき株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していないか。ただし、前の提案と微妙に異なる内容の提案については、判断が難しい場合もあります。

    2019年12月に成立した改正会社法では、株主提案権の濫用的な行使を制限するために、株主が提案することができる議案の数を10までとする上限が新たに設けられました。今後施行されます。

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