カテゴリー: 評価制度

  • 目標管理制度とはどんな制度か?その目的は、メリットとデメリットは

    目標管理制度とはどんな制度か?その目的は、メリットとデメリットは

    目標管理制度とは

    目標管理制度とはどんな制度か、目標管理制度を導入する目的、メリットとデメリットを解説してください。

    目標管理制度(MBO: Management by Objectives)は、従業員一人ひとりが自分で目標を設定し、その達成度で評価する仕組みです。

    これは、ただ上司から与えられた目標をこなすのではなく、個人の自律的な成長と組織全体の目標達成を同時に目指すことを目的としています。

    導入する目的

    目標管理制度を導入する主な目的は以下の3つです。

    1. 組織目標と個人目標の連動: 会社の大きな目標を、各部署や個人の具体的な目標に落とし込むことで、社員全員が同じ方向を向いて働くように促します。
    2. モチベーションと自律性の向上: 自分で目標を決めることで、「やらされ感」が減り、社員は主体的に仕事に取り組むようになります。これにより、モチベーションが高まり、自己成長にもつながります。
    3. 公平な評価: 漠然とした評価ではなく、設定した目標の達成度という客観的な基準で評価することで、評価の公平性と透明性を高めます。

    メリットとデメリット

    メリット

    • 従業員の主体性が高まる: 自分で立てた目標に向かって努力するため、仕事への当事者意識が向上します。
    • 評価の納得度が高まる: 評価基準が明確なので、評価結果に納得しやすくなります。
    • 組織のパフォーマンスが向上する: 全員が共通の目標に向かって努力することで、組織全体の成果が向上します。

    デメリット

    • 形骸化するリスク: 面談や目標設定が形式的になり、本来の目的が失われることがあります。
    • 短期的な成果に偏る可能性: 定量的な目標を重視しすぎるあまり、チームワークや長期的な成長といった、数値化しにくい部分がおろそかになることがあります。
    • 適切な目標設定の難しさ: 高すぎる目標はモチベーション低下を招き、低すぎる目標は成長を妨げます。適切な難易度の目標を個人や上司が設定することが難しい場合があります。

    主体的な目標設定が重要

    「自分で目標を設定し」と言いますが実際は上司との面談で決まりますよね

    ご指摘の通り、目標管理制度(MBO)の実態として、上司との面談で目標が決まることが多いのは事実です。それは決して悪いことではありません。しかし、そのプロセスには「何のために面談を行うか」という目的が重要になります。

    上司との面談は「対話」であるべき

    目標管理制度がうまく機能している企業では、上司との面談は単に上司が目標を「与える」場ではなく、「対話を通じて目標をすり合わせる」場になっています。

    1. 自己分析の共有: まず、あなたが仕事で何を目指しているのか、どんなスキルを身につけたいのかを上司に伝えます。
    2. 会社の目標との接続: 上司は、あなたの考えを踏まえつつ、部署や会社が今、何を重要視しているのかを説明します。
    3. 目標の調整と合意: お互いの考えをすり合わせ、最終的に納得できる目標を一緒に決めます。

    このように、上司が一方的に決めるのではなく、本人の意見が反映され、最終的に「自分で納得して決めた」と思えることが重要です。このプロセスを経て設定した目標は、単に上司に指示された目標よりも、はるかに高いモチベーションにつながります。

    避けるべき「いけない」面談

    逆に、以下のような面談は、目標管理制度の本来の目的から外れてしまうため、避けるべきです。

    • 「ノルマの通達」: 上司が一方的に厳しいノルマを課し、あなたがそれに従うだけになるケース。これでは「目標管理」ではなく「管理」だけになってしまいます。
    • 「形だけの儀式」: 毎年同じ目標を使い回したり、お互いが深く考えずに形式的に終わらせたりするケース。これは、モチベーション向上や成長には繋がりません。

    目標管理制度は、上司と部下が協力してキャリアや成長について話し合うためのツールであり、その対話を通じて「自分の目標」を明確にすることが最も大切なのです。

    形骸化をどう防ぐか

    デメリットのところで解説していただいた通り、当社においても「形骸化」が指摘されています。いろいろ働きかけてきましたが、基本的には甘い目標を設定しようとする傾向が止まりません。目標管理廃止論もでていますが、アドバイスをお願いします。

    ご指摘の通り、目標管理制度(MBO)が形骸化し、甘い目標設定が蔓延するという問題は、多くの企業で共通の課題です。目標管理を単なる評価のための事務手続きと捉えると、こうした傾向は避けられません。目標管理の「廃止」を考える前に、まずその目的を再定義することをおすすめします。

    なぜ「甘い目標」を設定するのか?

    目標設定が甘くなる背景には、いくつかの心理的な要因があります。

    • 評価への恐怖: 達成が難しい目標を立てて失敗するよりも、確実に達成できる目標を立てて高い評価を得たいという心理が働きます。
    • 手間を省きたい: 意味のある目標を真剣に考えるのが面倒だと感じ、過去の目標を流用したり、形式的な目標で済ませたりする傾向があります。
    • 管理職の指導力不足: 部下と目標について深く対話する時間やスキルがなく、部下の提案をそのまま承認してしまう、あるいは一方的に簡単な目標を割り振ってしまうケースです。

    目標管理を「機能させる」ためには

    目標管理制度を復活させ、本来の目的を果たすためのアプローチは、制度そのものを変えるよりも、「運用」の仕方と「目的」の認識を変えることにあります。

    1. 「評価」から「成長」に目的をシフトする
      • 目標管理制度の最大の目的を「社員の能力開発と成長」であると、経営層が明確に打ち出しましょう。評価はあくまでその結果に過ぎません。
      • 目標達成率だけでなく、目標に向かってどのようなプロセスで努力したか、何から学びを得たかを評価の重要な要素に加えます。
    2. 対話の質を高める
      • 目標設定面談を年2回ではなく、四半期ごとなど定期的に行うようにします。進捗をこまめに確認し、目標が現状に合わなくなったら見直す柔軟な運用が大切です。
      • 上司と部下が「目標は一緒に創り上げるもの」という共通認識を持ちます。上司はコーチやメンターとして、部下のキャリアプランを踏まえて目標設定をサポートします。
    3. 目標の「ストレッチ度合い」を見直す
      • 「挑戦的だが達成可能」な目標を設定する文化を醸成します。これを「ストレッチ目標」と呼びます。
      • 目標の難易度に応じて評価を調整する仕組みを導入します。例えば、100%達成した時の評価基準を、単に「A評価」とするのではなく、「挑戦的な目標を100%達成した場合」と「簡単な目標を100%達成した場合」で明確に分けます。

    目標管理制度を補完する新たな選択肢

    OKR(Objectives and Key Results)の導入

    もし、目標管理制度そのものの再設計が必要であれば、OKR(Objectives and Key Results)の導入を検討するのも一つの手です。

    OKRは、MBOよりもさらに挑戦的な目標設定と、組織全体での透明な情報共有を重視するフレームワークです。

    • Objectives(目標): 「社員のモチベーションを最高レベルに高める」のように、定性的で野心的な目標を設定します。
    • Key Results(主要な結果): その目標を達成したか測るための「鍵となる結果」を3~5個、定量的に設定します。「従業員満足度を80%に向上させる」などです。

    OKRは報酬評価と切り離して運用されることが多く、四半期など短いサイクルでレビューするため、目標が形骸化しにくいという利点があります。OKRは、MBOの弱点である「甘い目標設定」や「評価との結びつきすぎ」を補完する強力なツールとなり得ます。

    あなたの会社では、目標管理を「ノルマ管理」から「自律的な成長と対話の機会」へと変えることが、目標管理制度廃止論に対する最善の答えとなるでしょう。

    目標管理を報酬評価から切り離すのであれば、従来の評価システムを復活させることになり、目標管理を続ける意味がなくなる、と懸念するのですが・・・、いかがでしょうか。

    目標管理を報酬評価から完全に切り離すことに対する懸念は理解できます。たしかに、目標管理制度(MBO)の多くの利点は、成果が評価と報酬に結びつくことによって生まれてきました。

    しかし、目標管理を報酬から切り離す意味は、「報酬を基準にした甘い目標設定」という根本的な問題を解決し、本来の目的である「個人の成長と組織への貢献」に立ち返ることにあります。

    報酬と目標管理の新しい関係性

    目標管理を評価から切り離すという考え方は、報酬評価の仕組みをなくすことではありません。むしろ、報酬を決める別の評価軸を明確にすることが重要です。

    1. 報酬評価の新たな軸

    目標管理制度が報酬から切り離された場合、企業は、社員の報酬を決めるために別の評価軸を設けることになります。これには、主に以下の要素が考えられます。

    • 職務遂行能力: 職務給の考え方に基づき、担当する職務の価値や、その職務を遂行するために必要なスキル・知識のレベルを評価します。
    • コンピテンシー(行動特性): 会社が求める行動様式(例:チームワーク、リーダーシップ、問題解決能力など)をどの程度体現しているかを評価します。
    • 企業の価値観との一致: 会社のミッションやビジョンにどれだけ貢献しているかを評価します。

    2. 目標管理制度の本来の価値

    では、目標管理制度の役割は何になるのでしょうか。目標管理は、報酬を直接決めるのではなく、上記の新たな評価軸をより適切に評価するための「具体的なツール」となります。

    • キャリア開発のツール: 目標設定のプロセスは、社員が自身のキャリアや成長について深く考える機会となります。上司は、目標達成に向けたアドバイスやフィードバックを通じて、社員の成長をサポートするコーチ役を担います。
    • 能力開発の羅針盤: 例えば、「新しい技術を習得する」という目標を立てた場合、その進捗を管理することで、職務遂行能力の向上を客観的に示す証拠となります。

    つまり、目標管理は直接的な報酬決定要因ではなく、「成長の記録」「能力開発の証拠」として機能するのです。

    従来の評価システムとの違い

    この新しい考え方は、単に昔の評価システムに戻すわけではありません。

    従来の評価システム(例:年功序列や職能給のみ)では、個人の成果や貢献が賃金に反映されにくいという問題がありました。一方、報酬と切り離した目標管理制度は、以下の点で優れています。

    • 健全な目標設定: 報酬が直接かかっていないため、社員は失敗を恐れずに、より挑戦的で意欲的な目標を設定できるようになります。
    • 評価の公正性: 報酬は個人の能力や行動特性に基づいて決まり、目標管理は個人の成長を促すための別のツールとして機能します。それぞれの役割が明確になることで、評価制度全体の透明性と公正性が高まります。

    この新しいアプローチは、目標管理制度が「ノルマ達成のため」ではなく、「個人と組織の成長」のために真に機能するよう、その目的を再定義する試みだと言えるでしょう。


    関連記事:OKR(Objectives and Key Results)とは?わかりやすく解説

    会社事務入門評価制度のあらまし>このページ

  • 上司評価と自己評価に大きな違いが生じたら、上司はどうすべきか?

    部下の自己評価と上司の評価に大きな違いが生じた場合、面談の進め方は特に慎重に行う必要があります。部下のモチベーションを下げずに、今後の成長につなげるためには、事前の準備と面談中のコミュニケーションが非常に重要です。

    面談に臨む心構え

    部下の自己評価を尊重する

    まず、部下面談の一般的な心得ですが、部下がどのような意図でその自己評価に至ったのかを理解しようとする姿勢が大切です。自己評価は、部下が自分なりに考えた結果です。たとえ上司の評価と異なっても、頭ごなしに否定するのではなく、その評価を尊重し、耳を傾けることから始めましょう。

    事実に基づいたフィードバックを準備する

    具体的な事実や客観的なデータに基づいて話すことが重要です。「頑張りが足りない」といった抽象的な表現ではなく、「〇〇の納期が遅れた」「〇〇で大きなミスが発生した」などのように、事実に基づく準備しておきましょう。そのためには、日頃から問題だと感じたことについて、その経緯を記録しておくことが必要です。

    ゴールを明確にする

    評価後の面談の目的は、部下を非難することではなく、お互いの評価のギャップを埋め、今後の成長につなげることです。部下と建設的な対話ができるように、今後の行動計画についていくつかのアイデアを準備しましょう。

    面談の進め方

    ケース1:大部分の項目で自己評価と上司評価に違いが生じた場合

    大部分の項目で大きな違いがあるケースでは、自分の仕事に対する認識が不十分であるとともに、上司が期待する役割を理解していない可能性が高いです。面談は、お互いの認識を丁寧にすり合わせるプロセスとなります。

    想定されるやり取り

    オープニング:

    上司:〇〇さんの自己評価シートを拝見しました。私もいくつかの点で、〇〇さんの努力を高く評価しています。ただ、私の方で少し見方が異なる点もあるので、今日はそのすり合わせと、今後の目標について話し合いたいと思います。

    自己評価の聴取:

    上司:まずは、この自己評価にについて、〇〇さんから補足説明をお願いします。特に、高い評価をつけた項目について、どんな点に着目して高い評価をつけたのか、できるだけ具体的に教えてください。

    部下:〇〇プロジェクトでは、新しい提案を積極的に行い、チームに貢献したつもりです。△△の業務でも、効率化のための改善を提案して一部実施しました。

    上司評価の提示(事実に基づいて):

    上司:〇〇プロジェクトでの〇〇さんの積極性は認めています。ただ、そのプロジェクトでは、顧客からのフィードバックは、あまり良いものではありませんでした。特に、納期遅延への不満が大きかったようです。チームへの貢献という点では、チーム内の情報共有が不足し、〇〇さんから情報が伝えられなかった他のメンバーの負担が増えたという事実もあります。△△業務の効率化も、データを見ると、残念ですが結果的に品質が低下した言わざるを得ません。これらのことについて、〇〇さんはどう捉えていますか?

    ギャップのすり合わせ:

    上司:〇〇さんが「頑張った」という気持ちは理解できます。ただ、評価は「結果」と「プロセス」の両面から行われます。今回の場合、プロセスでの努力は認めたいと思いますが、結果に結びついていない部分があったと私は考えています。この認識の違いはどこから来ていると思いますか?

    まとめ方:

    上司:今日の話から、お互いの認識に違いがあったことが分かりました。今後は、努力が結果につながるように、次の点を意識して仕事に取り組んでみませんか。1つは「〇〇」、もう1つは「△△」です。これらを具体的な目標として設定し、定期的に進捗をチェックしていきましょう。

    ポイント:

    一方的な説教にならない: 「あなたと私の間にはこれだけのギャップがある」と突きつけるのではなく、「あなたと私の間にはこれだけのギャップがあるようですが、どうすればそのギャップを埋められるでしょう、一緒に考えませんか」という前に進む議論になるように心がけましょう。

    期待の明確化: 上司に何を期待しているのかを、具体的に理解できるように、具体的な行動目標を設定しましょう。

    ケース2:数カ所の項目で自己評価と上司評価に違いが生じた場合

    このケースは、部分的な認識のズレであり、大きな問題に発展する可能性は低いでしょう。面談は、そのズレを修正し、部下がさらに成長するためのアドバイスを与える場となります。

    想定されるやり取り

    オープニング:

    上司:〇〇さんの自己評価シートを拝見しました。多くの項目で私の評価と一致していて、私は〇〇さんの仕事ぶりを評価しています。ただ、いくつか、もう少し頑張ってもらえると嬉しいな、という点があるので、今日はそのことについて話し合いましょう。

    自己評価の聴取:

    上司:今回の評価項目で、特に〇〇の項目について、〇〇さんは高い自己評価をしていますが、どのような点でそう考えましたか?

    部下:〇〇プロジェクトのとき、課長もご存知のように予期せぬトラブルが発生しました。あのとき、素早く原因を特定し、解決策を提案できた点です。

    上司評価の提示(事実に基づいて):

    上司:その対応は素晴らしかったと思います。ただ、私の評価では、そもそも、実施前のチェックが甘かったことがトラブル発生の原因ではないかと考えています。例えば〇〇の確認について、チーム全体に情報を流しておけば、防げたのではないでしょうか。その点について、どう思いますか?

    ギャップのすり合わせ:

    上司:トラブルを解決する力は高い。そこは大いに認めます。ただ、より高いレベルを目指すなら、トラブルを未然に防止するところまで踏み込んでほしかったと思います。今後は、他のチームメンバーに的確に情報を流すということを意識すると、さらに良いと思います。

    まとめ方:

    上司:今日の話で、〇〇さんの「課題解決力」は、非常に高いレベルにあることが再確認できました。今後は、さらに一歩進んで、トラブルを未然に防ぐための情報の流し方を考えるように意識していきましょう。そうすることで、〇〇さんの強みはさらに伸びるはずです。

    ポイント:

    成功体験を否定しない: 部下の自己評価が高い部分は認め、その上で「さらに上を目指すためのアドバイス」として伝えることで、部下のモチベーションを維持しましょう。

    具体的な改善点を提示: 「どうすればいいのか」を具体的に示し、部下が次の行動につなげられるように促しましょう。

    いずれのケースにおいても、面談の締めくくりは前向きな言葉で終わらせることが非常に重要です。面談後も、部下との信頼関係を築き、成長をサポートする姿勢を継続していきましょう。

    部下が納得しないときは

    部下が自己評価を譲らず、上司の評価が間違っていると固執する場合、感情的な説得は逆効果です。そのような場合、まずは、客観的な事実に基づいた対話に立ち戻り、評価の根拠を冷静に提示することが重要です。

    説明の繰り返し

    まず、部下を頭ごなしに否定せず、「あなたの考えは分かりました」と一度受け止めます。その上で、以下のポイントで説得を試みます。

    評価の「ものさし」を共有する

    上司:〇〇さんの評価が間違っているとは言いません。ただ、私たちが評価する際に使う「ものさし」が、もしかしたら少し違うのかもしれませんね。私は会社やチームの目標、そして〇〇さんの職務記述書にある「〇〇の達成」という基準で見ています。〇〇さんは、どのような「ものさし」で自己評価をしましたか?」

    ポイント:

    「間違っている」と断定するのではなく、「ものさし」の違いとして提示することで、対立ではなく対話の姿勢を見せます。

    評価基準を明確にし、部下の評価が主観的である可能性を考えてもらいます。

    具体的な事実とデータを再提示する

    上司:この評価項目については、結果を客観的な事実で見るとあなたの評価と少し違ってきます。例えば、私が担当した〇〇プロジェクトでは、顧客満足度調査で満足とやや満足が△△%に留まりました。あなたの貢献はあったものの、目標の〇〇%には届きませんでした。これはどう捉えますか?

    ポイント:

    「私はこう思う」という主観ではなく、「データがこう示している」という客観的な事実を示します。

    議論の焦点を感情論から事実へと移し、冷静な判断を促します。

    役割の違いを説明する

    上司:部下の成長を促すのが私の仕事です。今の〇〇さんを高く評価するのは簡単ですが、それでは「なぜこの評価なのか」を理解してもらえなくなります。この評価は、〇〇さんがさらに成長するために、私が今伝えておくべきことだと考えました。この評価の背景にある私の意図を理解してもらえませんか?

    ポイント:

    上司としての責任や期待を伝え、評価が部下への「期待」であることを示唆します。

    評価が「過去の評価」だけでなく「未来への投資」であることを伝え、部下の成長への関心を示します。

    意見が一致しなかった場合のまとめ

    すべての説得が成功するわけではありません。どうしても意見が一致しない場合は、無理に合意を求めず、「合意しないことに合意する」という形で面談を締めくくります。

    まとめ方の例

    「今日の面談で、お互いの意見がすべて一致しなかったことは事実です。それは、お互いが真剣に仕事に向き合っている証拠でもあります。ただ、評価の最終決定権は私にあります。今日の評価は、私が見た客観的な事実と、今後の期待を込めたものです。

    これ以上議論しても、おそらく平行線になってしまうと思うので、今日はここまでにしましょう。ただ、〇〇さんの自己評価が高いこと、そして自分の考えをしっかりと持っていることは、私は素晴らしいことだと思います。

    この評価を不服に思うかもしれませんが、まずは「評価のギャップがあった」という事実を受け止めてください。そして、次の目標を設定するにあたり、どうすればこのギャップを埋められるか、一緒に考えていきましょう。これからの〇〇さんの活躍を期待しています。」

    ポイント:

    平行線を認める: 無理に説得しようとせず、意見が一致しなかった事実を認めます。

    最終決定権を明示する: 上司としての役割と責任を明確に伝え、これ以上の議論は生産的ではないことを示唆します。

    未来志向で締めくくる: 過去の評価に固執するのではなく、「今後の成長」という未来に焦点を当てて話を終えます。

    面談で意見が一致しなくても、部下との信頼関係を完全に崩さないことが重要です。面談後も部下の様子を気にかけ、今後の行動で成果が出た際には、積極的にフィードバックをするなど、丁寧なフォローアップを心がけましょう。


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  • 「ハロー効果」に要注意!元気=営業、は思い込みかもしれません

    部下を評価する際、「ハロー効果」という心理的なバイアスがあるのをご存じですか?これは、ある一つの目立つ特徴に引きずられて、他の評価項目もすべて良く見えたり、逆に悪く見えたりする現象です。

    ハロー効果とは?

    ハロー効果の「ハロー(halo)」は、聖人の頭上に描かれる「光輪(後光)」を意味しています。後光が差していると、その人がとても素晴らしい人に見えるように、一つの良い特徴が全体を良く見せてしまうことを「ハロー効果」と言います。

    具体例

    • Aさんはプレゼンが非常に上手で、活発で目立つタイプです。
      • つい「あの人は仕事ができる」と高く評価してしまいがちですが、実は細かな事務作業や報告書の提出は苦手かもしれません。
    • Bさんはいつも静かです。
      • 「仕事ぶりも特別のことはないかな」と思ってしまいがちですが、実は地道な作業を着実にこなし、チームの縁の下の力持ちとして貢献しているかもしれません。

    このように、私たちの評価は、「第一印象」や「目立つ特徴」に大きく左右されやすいのです。

    なぜハロー効果は起きるの?

    ハロー効果は、人間の脳が情報を効率的に処理しようとするために起こります。すべての情報を細かく分析するのは大変なため、脳は特定の情報をもとに「この人はこういうタイプだ」とパターン化しようとします。

    たとえば、「活発な人は営業に向いている」という思い込みがあると、活発な人を見ただけで「この人はきっと営業として成功するだろう」と決めつけてしまうのです。これは、過去の経験や社会的なステレオタイプに基づいていることが多く、無意識のうちに私たちの思考に影響を与えています。

    ハロー効果を避けるための対策

    評価項目を明確にする

    「この人は活発だ」という印象だけで評価せず、「売上達成率」「顧客への対応」「チームへの貢献度」など、具体的な評価項目ごとに客観的な事実に基づいて評価しましょう。先を急がずに、項目ごとに一つずつ丁寧に評価することで、全体的な印象に引きずられにくくなります。

    多角的な視点を持つ

    部下を評価するときは、あなた一人の視点だけでなく、それとなく、同僚や他部署からのフィードバックも参考にしましょう。周囲からの声を鵜呑みにしてはいけませんが、よく考えてみれば、あなたが見ていなかったその人の別の側面を発見できるかもしれません。

    思い込みに気づく自己トレーニング

    「この人は大人しそうだから事務職向きだ」「あの人はリーダーシップがあるから管理職向きだ」といった自分の思い込みに気づくことが大切です。その思い込みは本当に正しいか?と自問自答する習慣をつけましょう。

    まとめ

    人事考課は、誰でも苦労しています。完璧な評価は難しいかもしれませんが、こうした「評価エラー」の存在を知っているだけでも、公正な評価への第一歩になります。

    ハロー効果で言えば、活発な人も、大人しい人も、声が大きい人も、声が小さい人も、それぞれの個性や強みが必ずあります。先入観にとらわれず、その人自身をしっかり見てあげてください。それが、部下を成長させ、チームを強くする一番の秘訣です。


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  • あらかじめ決めている順番になるように点数を操作している評価者がいます

    一部の評価者は、あらかじめ部下の順位を決めて、その順位になるように評価点を操作しているそうです。不公平になりかねないので改めさせたいのですが?

    それは、「メイキング」という評価エラーの一つです。どのようなものか、どう対策すればよいか以下で解説します。

    メイキングの具体例

    人事考課における「メイキング」とは、評価者が事前に決めた評価結果に合うように、後から理由や事実をでっち上げる評価エラーのことです。先に結論があり、後付けで理由を探すため、「事実に基づく評価」ではなくなってしまいます。

    メイキングは、以下のような状況で起こります。

    例1:嫌いな部下の評価

    ある評価者が、個人的にそりが合わない部下を「仕事ができない」と決めつけていたとします。その部下は真面目に業務をこなしていますが、評価者は「その部下を低く評価する」という結論を先に持っています。

    そこで評価者は、面談の際に「君の報告は要領を得ない」などと些細なミスを強調したり、実際にはない「君の言動で困っている人がいる」などと決めつけたりして、低い評価に結びつけます。

    例2:好きな部下の評価

    逆に、考課者が個人的に親しい部下のことを「優秀だ」と先に決めていたとします。その部下が大きな成果を出していないにもかかわらず、評価者は「彼は見えないところで努力を続けている」「大変成長している」といった曖昧な理由を並べ立て、高い評価を与えます。

    このように、メイキングは個人の感情や先入観が評価の根拠を歪めることで発生します。

    メイキングをやめさせる方法

    メイキングは、多くの場合、無意識ではなく意識的な行動です。本人が意図的に行う不正行為に近い側面があるので、やめさせるのは困難なケースもありますが、いくつか対策を提示します。

    評価を補正する

    簡単な方法としては、上司や人事が評価を強制的に修正する方法があります。しかし、評価結果を強制的に補正するアプローチには、いくつかの大きな問題があります。

    • 補正の基準が不透明:どのくらいの割合で、どの評価者の点数を補正するのか、その基準を客観的に設定するのは非常に困難です。
    • 客観的に補正したとしても、「補正された」という事実が評価者に知られると、不信感を生み評価者自身の責任感やモチベーションがさらに低下する恐れがあります。
    • 本質的な問題の放置:補正はあくまで対症療法に過ぎません。なぜその評価者がメイキングをするのか、という根本的な問題(個人的な感情、不公平感、評価制度への不満など)を解決することにはなりません。

    推奨される対策

    強制補正よりも有効な対策は、評価のプロセスを厳格に管理することです。

    考課者トレーニングの実施

    考課者に対し、メイキングを含む様々な評価バイアスについて理解を深めるための研修を行います。バイアスが存在することを知り、その対策を学ぶことで、自身の評価行動を客観的に見つめ直すきっかけとなります。ただし、メイキングは、バイアスの存在などの評価制度を理解した上で行うことが多いので、トレーニングの効果は限定的です。

    複数評価者による評価と調整

    360度評価を行い、直属の上司だけでなく、同僚や他部署のリーダーなど複数の視点から評価を行うことで、一人の評価者の主観が入り込む余地を減らせます。

    また、複数の考課者が評価を行い、その結果をすり合わせることで、一人の考課者の個人的な感情が評価に影響するのを防ぐことができます。

    評価プロセスの可視化と

    考課面談の記録や評価の根拠を詳細に記録させ、第三者が確認できるようにします。

    評価の根拠を明確化する仕組み

    評価者が、具体的な行動や成果に基づいた詳細なコメントを記入することを必須とします。たとえば、「真面目さ」「積極性」といった抽象的な評価項目ではなく、「数字」を中心にした事実に基づいた評価項目を多めに設定します。これにより、感情的な理由付けが難しくなり、客観的な評価がしやすくなります。

    評価会議の実施

    評価者全員が集まり、各被評価者の評価結果と根拠を共有する評価会議を行います。この場で、評価が甘すぎる、または厳しすぎるケースについて議論し、評価の統一を図ります。これにより、個人的な感情や先入観が入り込むことを防ぎ、評価の公平性を高めることができます。

    これらの方法を組み合わせることで、「事実を先に、評価は後に」という健全な評価プロセスを定着させ、メイキングを防ぐことができます。


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  • 職能資格等級表とはどういうものか?「等級」と「号俸」の関係も解説

    職能資格等級表とは、職能給制度で使う「社員の能力や役割を段階的に整理した一覧表」のことです。社員の能力レベルを等級に分け、その等級ごとに求められる能力や役割を明文化したものです。

    職能資格等級表

    職能資格等級表の目的

    ・能力評価や昇格の基準を明確化する

    ・社員に「自分が何を身につければ昇格できるか」を理解させる

    ・公平・一貫性のある賃金運用を可能にする

    職能資格等級の構成の基本例

    等級呼称主な役割・責任必要能力・スキル代表職位昇格目安
    1級初級指示を受けて定型業務を遂行基本的な業務知識・技能一般職(新人)入社1〜3年
    2級中級業務を自律的に遂行専門知識の習得、問題解決力一般職(中堅)3〜5年
    3級上級後輩の指導・業務改善指導力、チーム調整力主任5〜8年
    4級監督部署の目標管理・戦略立案高度な判断力、マネジメント力係長・課長補佐8〜12年
    5級管理部署責任者として全体統括経営的視点、部門戦略策定力課長以上12年以上

    運用イメージ

    人事評価の際、この等級表と照らし合わせて「現在の能力がどの等級に該当するか」を判断。

    等級が上がると職能給(基本給部分)が昇給する。

    多くの企業では、この等級表を社員にも公開し、昇格の道筋を見える化しています。

    等級表作成の注意点

    基準が抽象的すぎると評価が曖昧になり、不公平感が生まれる。

    時代や事業環境の変化に合わせて定期的な見直しが必要。

    実務上は「実力より年齢で昇格」という運用になりがちなので、評価制度と連動させることが重要。

    「等級」と「号俸」の関係

    職能資格制度は「等級」だけで運用されることは少なく、多くの場合は「号俸」の二段階構造で運用されています。給与額をきめ細かくコントロールするための方法です。

    等級:社員の能力レベル・役割の大枠を示す階層(1級、2級…)

    号(号俸):同じ等級内での細かな給与段階(1号、2号…)

    イメージとしては、「等級=大きな段」、「号=その段の上に並んだ細かいステップ」という感じです。

    多くの企業は「等級昇格=昇格試験や昇格評価が必要」、「号昇給=年次評価で判断」という運用をしています。

    人件費シミュレーションをしながら等級間・号間の昇給幅を決めるのが重要です。

    なぜ号を設定するのか

    昇給の柔軟性
    等級を頻繁に上げると人件費の変動が大きくなるため、まずは等級内で号を上げて調整。

    評価結果を細かく反映
    年間の評価が「優」「良」「可」などの場合、優は2号昇給、良は1号、可は据え置き…と反映できる。

    給与表が安定する
    長期的に人件費計画を立てやすくなる。

    運用例(サンプル)

    例:職能資格等級表と号俸表を組み合わせた場合

    等級月額(円)昇給幅(円)
    2級1号220,000
    2級2号224,000+4,000
    2級3号228,000+4,000
    2級4号232,000+4,000
    3級1号240,000等級昇格で+8,000

    昇給の例

    年度評価「A」→ 2号昇給(例:224,000円 → 232,000円)

    年度評価「B」→ 1号昇給(例:224,000円 → 228,000円)

    年度評価「C」→ 昇給なし

    メリット・デメリット

    メリット

    等級を大きく変えなくても昇給できるため、昇格ハードルを維持できる。

    評価制度との連動がしやすく、モチベーション管理に使える。

    デメリット

    制度が複雑になりやすい(給与表の管理負担)。

    社員が「何年経てば何号になる」と年功的に考える傾向が出やすい。


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  • 職能給とはどういうものか?分かりやすく解説します

    職能給とはどういうものか?分かりやすく解説します

    職能給(職能資格給)は、日本の多くの企業で長年使われてきた給与制度で、社員の能力や成長度合いを評価して支給額を決める方式です。

    職能給の基本的な考え方

    「人材は育てれば価値が上がる」という発想に基づき、社員の潜在能力や将来の期待値を給与に反映します。

    担当している仕事の内容だけでなく、「その人ができると期待されること」まで評価に入ります。

    評価基準の例

    職能給制度は、統一的な規格があるわけではないので、企業によって細部の制度設計が異なりますが、主に以下が評価対象になります。

    知識(専門知識、業務知識の広さ・深さ)
    技能(作業・技術の精度やスピード)
    判断力(問題解決や意思決定能力)
    コミュニケーション能力(社内外との調整力)
    マネジメント力(部下育成やチーム運営)
    経験年数(経験の蓄積に伴う熟練度)

    運用の仕組み

    職能資格等級表を作り、「等級ごとの期待能力・役割」を定義します。

    たとえば「等級1=基本的業務を指示通りこなせる」「等級3=後輩を指導できる」など。

    定期的(年1回など)に評価し、能力が基準に達したら等級を上げ、連動して給与を昇給させます。

    関連記事:職能資格等級表とはどういうものか?「等級」と「号俸」の関係も解説

    職能給のメリット

    特定の仕事ができるかどうかより、会社員としての総合力を評価する制度なので、人事異動があって別の部署に移っても従来の等級を維持することができます。

    どのような点を向上させれば等級があがるかを明示できるので、賃金への納得感が高まります。

    職能給のデメリット

    等級の前提となる評価が正しく実施されないことがあると、結果として年功給と変わりない結果になります。

    低成長時代には、役職のポストが少ないので、等級が上昇しても希望通りの役職昇任ができない人が増えます。

    役職昇任する人が少なくても、基本給の大部分は等級によって決まるので、人件費は引き続き膨張します。


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