長時間労働を是正するために会社が実施すべき対策

長時間の過重労働は、従業員の健康を蝕み、ひいては企業の存続をも脅かす重大な問題です。労災認定や損害賠償といった法的なリスクだけでなく、生産性の低下、優秀な人材の流出、企業イメージの悪化など、経営に与える影響は甚大です。本稿では、長時間労働がなぜ危険なのか、そしてその根本的な原因を解明し、具体的な是正策について詳しく解説します。

長時間労働がもたらす健康リスク

長時間の過重労働が続くと、身体的・精神的な疲労が蓄積し、血管に大きな負荷がかかります。この状態が慢性化すると、高血圧や動脈硬化を進行させ、やがて脳卒中や心筋梗塞といった重篤な脳・心臓疾患を発症するリスクが高まります。最悪の場合、突然死に至ることもあり、これは過労死と呼ばれます。

業務と健康障害の関連性は、厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定基準」に基づいて判断されます。特に、発症前の時間外労働時間数が以下の基準を満たす場合、業務と発症の関連性が強いと判断される可能性が高まります。

  1. 発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外労働
  2. 発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働

これらの基準は、あくまで労災認定のひとつの目安であり、個々の状況によって判断は異なります。しかし、この基準を超えた労働時間がある場合、労災認定される可能性が高まり、さらに企業の安全配慮義務違反が問われ、多額の損害賠償を請求されるリスクに直面します。

なぜ長時間労働が常態化するのか?

長時間労働を是正するためには、まずその原因を深く掘り下げ、分析することが不可欠です。原因は大きく分けて3つに分類できます。

1. 外部要因:仕事量とスケジュールの問題

  • 仕事量が多すぎる: そもそも個々の従業員に割り当てられている業務量が、所定労働時間内に完了できる量を超えているケースです。
  • 納期に無理がある: 取引先からの厳しい納期要求や、非効率な業務プロセスにより、時間的な余裕がないケースです。

2. 内部要因:従業員個人の問題

  • 残業手当への依存: 残業手当を生活費のあてにしているため、意図的に残業時間を引き延ばしているケースです。
  • 業務処理能力の不足: 仕事のやり方が非効率であったり、スキルが不足していたりするため、他の従業員よりも時間がかかってしまうケースです。

3. 環境要因:組織や職場の問題

  • 周囲に合わせた行動: 職場全体に残業が常態化しており、「みんなが残業しているから帰りづらい」という暗黙のプレッシャーが存在するケースです。
  • 管理職のマネジメント不足: 上司が部下の業務状況を正確に把握できておらず、特定の従業員に業務が集中していることに気づかないケースです。

長時間労働をなくすための具体的対策

根本原因が明らかになれば、それぞれの問題に応じた対策を講じることが可能になります。

外部要因への対策

  • 適正な業務量の見直しと再配分: 業務量を定量的に把握し、特定の従業員に業務が集中していないかを定期的にチェックしましょう。過重な負担がかかっている場合は、業務の分担を再検討し、チーム全体で協力する体制を構築することが重要です。
  • 無理のない受注体制の構築: 営業部門と生産部門が密に連携し、会社の生産能力を正確に共有しましょう。過剰な受注を避け、無理のない納期を設定することで、従業員が追い詰められる状況を回避できます。

内部要因への対策

  • 賃金体系の見直し: 残業ありきの生活設計を脱却するため、基本給の引き上げや、効率的な働き方を評価する仕組みを導入するなど、賃金体系そのものを抜本的に見直すことが求められます。
  • スキルアップ支援と業務効率化: 業務処理能力に課題がある従業員には、個別に相談に乗る時間を設け、OJT(On-the-Job Training)や研修を通じてスキル向上を支援しましょう。また、RPA(Robotic Process Automation)などのITツールを導入し、定型業務を自動化することも有効な手段です。

環境要因への対策

  • 「早く帰る」を評価する文化の醸成: 管理職が率先して定時退社を実践するなど、経営層から「時間内に成果を出すこと」を高く評価するメッセージを発信し続けましょう。これにより、「残業することが当たり前」という職場風土を打破し、生産性向上への意識を高めることができます。
  • コミュニケーションの活性化: 部署やチームの枠を超えた交流を促進し、業務上の課題を共有しやすい環境を作りましょう。これにより、孤立して業務を抱え込む従業員を減らし、チーム全体で助け合う体制を築くことができます。

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医師による面接指導制度の活用

労働安全衛生法により、長時間労働者に対しては医師による面接指導の実施が義務付けられています。具体的な対象者は、週40時間を超える労働時間が1か月で80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者です。

これは、従業員一人ひとりの健康状態を把握し、心身の不調を未然に防ぐための重要なセーフティネットです。管理者は、この制度を積極的に活用し、対象となる従業員に対して面接指導の機会を提供する責任があります。

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長時間労働の是正は、一時的な取り組みで解決する問題ではありません。会社の経営課題として捉え、組織全体で継続的に取り組むことが、従業員の健康と企業の未来を守る唯一の方法です。


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