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取締役と監査役

監査役というのは具体的に言えばどのような仕事をする人ですか?

Last Updated on 2025年8月8日 by

監査役の具体的な仕事内容をご説明します。

監査役の業務

監査役の監査業務は、主に業務監査会計監査の2つに大別されます。

業務監査

業務監査とは、会社の取締役の職務執行が法令や定款に違反していないか、また、不当な点がないかを監査することです。

具体的な作業は以下の通りです。

取締役会の出席: 監査役は、原則として取締役会に出席し、取締役の職務執行状況を監視します。会議での質問や発言、議事録の確認も重要な業務です。

事業報告書の確認: 事業年度ごとに作成される事業報告書の内容が、会社の経営状況を正確に示しているかを確認します。

業務執行状況の調査: 必要に応じて、会社の業務や財産状況について調査を行います。特定の部門や取引について、報告を求めたり、実地で調査したりすることもできます。

会計監査

会計監査とは、会社の計算書類(貸借対照表、損益計算書など)が、会社の財産状況や損益状況を適正に表示しているかを監査することです。

具体的な作業は以下の通りです。

計算書類の確認: 会社の決算時に作成される計算書類の内容を詳しく確認します。計上されている資産や負債が適正か、収益や費用が正しく計上されているかなどをチェックします。

会計帳簿の閲覧: 計算書類の基礎となる会計帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)を閲覧し、不正な取引や不当な会計処理がないかを確認します。

監査報告書の作成: 監査の結果をまとめ、監査報告書を作成します。この報告書には、計算書類が適正であるかどうかの意見を記載します。

小規模な株式会社では、会計監査は公認会計士や監査法人ではなく、監査役が単独で行うことが一般的です。これらの監査を通じて、会社の健全な経営と法令遵守を確保することが、監査役の重要な役割です。

監査役の調査権について

監査役は取締役の許可なく、会社の業務や財産状況について調査することができます。非常に大きな権限です。

会社法では、監査役の職務を効果的に遂行するため、以下の権限を定めています。

事業報告請求権:いつでも、取締役や使用人に対して事業に関する報告を求めることができます。

業務・財産状況調査権:会社の業務や財産状況について、いつでも調査することができます。

これらの権限に基づいて、監査役は不正がないかを確認するために、具体的には、取締役の許可を必要とせずに、担当者に質問したり、現金の実査(実際に数えること)、通帳の確認倉庫の在庫確認などを実施できます。

定款による監査範囲の限定

ただし、小規模な非公開会社(株式の譲渡制限がある会社)では、定款によって監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定している場合があります。この場合、業務監査に関する権限が限定されるため、業務執行の適法性に関する広範な調査はできなくなります。

監査役の重要性

中小企業のなかには、監査役の役割が形骸化して、充分な監査を行わずに用意された監査報告書に捺印することになっていることがあります。それは会社法が求める監査役の職務を十分に果たしているとは言えず、通常とは言えません。

監査役の役割は、取締役の職務執行が法令や定款に違反していないかを監視し、会社の健全な経営を確保することです。これには、以下の点が求められます。

継続的な監視: 監査役は、年に一度だけではなく、会社の経営状況を継続的に監視する義務があります。取締役会の出席や、必要に応じた業務調査がその典型です。

独立した判断: 監査報告書への押印は、自らの判断と責任で行うべきものです。経理部長の説明を鵜呑みにするのではなく、自ら会計帳簿や関連資料を調査し、内容が適正であることを確認した上で意見を表明する必要があります。

善管注意義務: 監査役は、善良な管理者としての注意義務をもって職務を遂行しなければなりません。形式的な監査にとどまり、もし会社に不正があった場合、その責任を問われる可能性があります。

監査役の職務は、会社の規模や状況によって異なりますが、最低限、取締役会への出席や計算書類の慎重な確認は欠かせません。

具体的な監査役面談のやり方

監査役として特定の部門を訪問し、責任者と面談する際の話し方について説明します。

高飛車でも遠慮がちでもない、信頼関係を築きながら情報を引き出すための話し方として、以下の3つのポイントを意識すると良いでしょう。

  1. 目的の明確化: なぜ面談に来たのかを最初に伝えます。
  2. 協力の姿勢: 相手の協力が不可欠であることを示します。
  3. 具体的な質問: 漠然とした質問ではなく、具体的な業務内容に踏み込んで質問します。

これらのポイントを踏まえたシナリオを、会話形式で示します。

シナリオ例:新規事業開発部門の訪問

登場人物

監査役: あなた

責任者: 新規事業開発部門の部長

監査役: 部長、お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。監査役の〇〇です。今日は、こちらの部門で進めている新しい事業について、いくつかお話を伺いたく、参りました。

責任者: こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。

監査役: ありがとうございます。今回、この事業に特に興味を持ったのは、先日、社長が取締役会でこの事業は今後の重点事業だとお話されたからです。そのお話を聞きながら、この事業は当社の将来の成長戦略において、非常に重要な位置づけにあると感じてもう少し詳しくお聞きしたいと思ったからです。

責任者: なるほど。

監査役: そこで、いくつか具体的な質問をさせていただけますでしょうか。

責任者: はい、承知いたしました。

監査役: まず、この新しい事業の具体的な構想をあらためてご説明をお願いします。

責任者: (説明)

監査役: ありがとうございます。次に、この事業で特に懸念されているリスクについてお教えいただけますか?例えば、競合他社との関係、特許問題など、どのようなリスクを想定し、どのように対策を講じているか、差し支えのない範囲でお聞かせください。

責任者: (説明)

監査役: 大変分かりやすくご説明いただき、ありがとうございました。今日お伺いした内容は、監査役としての私の職務遂行に非常に役立ちます。また、何か不明な点が出てきた際には、改めてご相談させていただくかもしれません。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

シナリオのポイント

このシナリオでは、冒頭で監査の目的を明確に伝え、相手の業務への敬意と関心を示しています。また、質問は「何をしているか」ではなく、「どのようにしているか」に焦点を当てることで、プロセスの適正性に踏み込んでいる点が重要です。

監査は、不正を見つけるための「尋問」ではなく、会社の健全性を高めるための「対話」であるという姿勢で臨むと、よりスムーズな情報収集と建設的な関係構築につながります。

具体的な経理面談のやり方

経理部門を訪問し、経理の責任者と面談しながら、銀行の通帳と会社の帳簿を突き合わせる際の一例を紹介します。

この場面でも、「具体的な監査役面談のやり方」で示した3つのポイントを意識してください。それらのポイントを踏まえたシナリオを、会話形式で示します。

シナリオ例:経理部長との通帳・帳簿突合作業

登場人物

監査役: あなた

経理部長: 経理部門の責任者

監査役: 部長、お忙しいところ申し訳ありません。監査役の〇〇です。今日は、経理部門で保管されている銀行通帳と会計帳簿を突き合わせる作業にご協力いただきたく、参りました。

経理部長: はい、承知いたしました。よろしくお願いします。

監査役: ありがとうございます。この作業は、会社の財産が正しく管理されているか、また、帳簿の記録が正確であることを確認するための、監査業務の重要な一部です。ご協力ください。

経理部長: なるほど。

監査役: 具体的には、今期末の主要な銀行口座の通帳を拝見し、経理システム上の預金勘定の帳簿と一つずつ照合していきたいと思います。期中なのでズレがあると思いますが、そのズレの内容についてもその都度、ご説明をお願いできますでしょうか。

経理部長: もちろん、お任せください。どの口座から始めましょうか?

監査役: では、まずはメインバンクである〇〇銀行の通帳からお願いします。

(通帳と帳簿を突き合わせる作業開始)

監査役: これは、◯◯円の違いがありますね。この内容を教えていただけますか。

経理部長: (説明)

監査役: ありがとうございます。よくわかりました。(通帳の記帳内容を指しながら)部長、こちらの日付の「振込入金」ですが、この取引の元になった請求書を確認させていただけますか?

経理部長: はい、少々お待ちください。(書類を探して提示)こちらがその請求書です。

監査役: 承知いたしました。ありがとうございます。これで確認を終わります。

監査役: 本日は長時間にわたり、ご協力いただき本当にありがとうございました。部長のおかげで、スムーズに作業を進めることができ、会社の預金管理が適正に行われていることを確認できました。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

シナリオのポイント

このシナリオでは、作業の目的と手順を最初に明確に伝えることで、相手に安心感を与え、協力を引き出しています。また、質問は「なぜこの取引が行われたのか」というように、背景や根拠を尋ねる形式にすることで、帳簿の内容が正しいかを確認しています。

監査役の作業は、不正を見つけることだけでなく、会社の財務管理体制が適正に機能していることを確認するという側面も持っています。経理部門の専門性を尊重しつつ、具体的な事実に基づいた確認作業を進めることが重要です。


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