会社の「顔」であり、絶対的な「権力者」である社長

Last Updated on 2025年9月11日 by

日本における社長とは

法には規定されていない「最強の役職」

「社長」という言葉を聞いて、どんな人物像を思い浮かべるでしょうか? 会社のトップ、従業員のまとめ役、そして最終的な意思決定者。その役割は多岐にわたります。しかし、その肩書きが持つ意味を深く掘り下げてみると、意外な事実が見えてきます。

実は、日本の法律である会社法には「社長」という役職の規定はありません。 驚かれるかもしれませんが、これは会社が独自に定める役職の一つにすぎないのです。多くの会社では定款でその地位や権限を定めていますが、法律で定められた取締役会や監査役とは異なる位置付けです。

にもかかわらず、ほとんどの会社では「代表取締役」の一人が社長に就任し、事実上の最高権力者として君臨します。その力の源泉は、単に肩書きにあるのではなく、人事権と予算執行権という、会社の根幹を握る権限を一手に握っていることにあります。

社長は、従業員の昇進や降格、そして時には解雇を決める人事権を持ち、会社の成長戦略を左右する予算の使い道を決定します。そして、さらに重要なのは、社長自身を選出する取締役の人事権まで握っているという現実です。社長に逆らう取締役は、次の役員候補の名簿から外される可能性が高く、このことが社長の権力をより盤石なものにしています。

終わりなき影響力

社長の権力は、引退後も続くのが一般的です。次の社長を指名するのが最後の仕事であり、後任の選出を取締役会に委ねることはほとんどありません。このため、引退後も「名誉会長」や「相談役」といった肩書きで、会社の意思決定に長期間にわたって影響力を行使し続けるケースが多く見られます。これは、創業者やカリスマ的なリーダーであった場合に顕著です。

もちろん、会社の透明性を高め、特定の人物への権限集中を防ぐための試みも存在します。たとえば、「委員会設置会社」は、指名委員会、報酬委員会、監査委員会を設け、経営の監視機能を強化することで、社長の独裁を防ぐことを目指しています。しかし、どんな組織も最終的には強いリーダーシップを必要とします。迅速な意思決定や、従業員の士気を鼓舞するためには、強力なリーダーの存在は不可欠です。このため、今後も組織における社長の権力は、決して衰えることはないでしょう。

アメリカにおける社長の地位:CEOとPresident

日本の「社長」に近い役職は、アメリカではどう呼ばれているのでしょうか。一般的に使われるのは、「CEO (Chief Executive Officer)」「President」です。

CEOは会社の最高経営責任者であり、その権限は非常に広範にわたります。会社のビジョンや戦略を策定し、外部に対して会社の「顔」として振る舞います。企業の規模や種類によって選出方法は異なりますが、一般的には取締役会がCEOを選任します。任期は法律で定められておらず、無期限のことが多いですが、期間を定めた契約を結ぶこともあります。CEOは、日本の「会長」に近い存在と捉えることができます。

一方、Presidentは、CEOが定めた戦略を実行する責任者です。日々の業務を円滑に進めるためのオペレーションを統括し、社内の指揮を執ります。Presidentは、日本の「社長」に近い役割を担っていると言えるでしょう。

もちろん、会社によってはCEOがPresidentを兼任することもあり、その役割分担は一概には言えません。しかし、CEOが未来を描く「戦略家」であるのに対し、Presidentは現在を動かす「実務家」という違いは、両者の役割を理解する上で非常に重要です。


社長という地位は、法的な規定以上に、その人物が持つ人間的な魅力や、組織内で築き上げた信頼関係、そして人事や予算といった具体的な権限によって形作られています。それは、単なる肩書きではなく、組織の運命を左右する重い役割なのです。


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