Last Updated on 2025年8月17日 by 勝
休職の延長を申し出ている従業員がいます。会社の判断を受け入れてもらえず交渉が長引いているのですが、その従業員が交渉内容を自分に都合よく書いたブログを立ち上げました。本人はこのような発信は公益通報として保護されると言っていますが、そうなのですか?
公益通報として保護されるか?
公益通報者保護法では、
- 事業者や行政機関などに対して 「法令違反行為」 を通報すること
- その通報が 労働者の解雇・不利益取扱いから守られること
が定められています。つまり「公益通報」として保護されるのは、会社に 刑事罰や行政罰の対象となるような法令違反 があると信じ、かつ相当な理由があってそれを外部に通報する場合です。
このケースは
休職延長の可否や対応の仕方は、基本的には労使間の個別紛争であり、通常の対応は、「法令違反行為」である可能性は低いと思われます。
まして、内容が、単なる不満の拡散、会社を貶める目的での発信、一方的に歪めた発信であれば、公益通報保護の対象外と判断してよいでしょう。
さらに、公益通報者保護法では、通報先として「SNS」をしていません。この点からも公益通報として保護される要件を欠いています。
つまり、ご質問にあった、交渉経過を書いたブログ公開は、公益通報者保護法にいう 公益通報 には該当しない可能性が高いと思われます。
むしろ、会社名や具体的なやりとりを公開しているとすれば、名誉毀損や信用毀損、守秘義務違反 にあたるとして、会社の方から反撃できる可能性もあります。
ただし、公益通報にならないとしても、内部告発が悪いと言うことではありません。「表現の自由の範囲内」かもしれません。そうした微妙な判断については、弁護士等の専門家の意見を聞くべきでしょう。
実務的な対応の方向性
本件の場合であれば、本人には「公益通報の保護対象は、法令違反を外部に通報した場合に限られる」旨を説明してよいでしょう。
発信内容が事実に反して、会社の名誉・信用を害している場合には、削除要請や注意を行ってもよいでしょう。
ただし感情的に対応すると炎上する可能性もあるので、SNS上での対抗はリスクがあります。会社としては記録を保存しつつ、名誉毀損・守秘義務違反などに対する法的対応について弁護士と相談することが望ましいでしょう。
相手に対する警告書の文例
参考までに、こうした発信をやめるように警告する文章の例を示します。
ここでは裁判提起や懲戒処分ではなく、まずは「注意・警告」という位置づけを想定しました。実際に手交する際には事前に弁護士とご相談ください。
警告書(サンプル)
警告書
〇〇殿
貴殿におかれましては現在休職中のところですが、当社との間で休職延長に関するやり取りの内容を、貴殿が運営するインターネット上のブログに掲載していることを確認しました。
しかしながら、当該内容には当社の対応について一方的かつ不正確な記載が含まれており、これにより当社の名誉・信用を毀損するおそれがあると判断しております。また、当該内容は公益通報者保護法における「公益通報」に該当するものではなく、本件のような公開は法的な保護の対象となりません。
よって、当社は貴殿に対し、当該ブログ記事の削除を速やかに行うよう強く求めるとともに、今後同様の行為を繰り返さないよう厳重に警告いたします。万一、本警告にもかかわらず改善が見られない場合には、就業規則に基づく懲戒処分その他の措置を検討せざるを得ませんので、十分にご留意ください。
以上
20XX年〇月〇日
株式会社〇〇
代表取締役 〇〇〇〇
記載のポイント
- 「一方的・不正確な記載」「名誉・信用を毀損するおそれ」などと記載し、断定的表現は避ける。
- 公益通報ではないと判断していることを明示する。
- 削除要請と再発防止を強く求める。
- 放置すれば懲戒等に発展する可能性にも触れて抑止力を持たせる。
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