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マスク等の着用を義務付ける際に気をつけるべき点

Last Updated on 2023年10月10日 by

マスク着用の必要性の判断

新型コロナ感染症の流行にともない、職場でマスク着用を義務付けるケースが増えました。マスク着用については、政府の専門家会議の議論を経て推奨されていたので、これまでは会社等におけるマスクの義務付けについて問題になるケースはそれほど多くありませんでした。

しかし、令和5年3月13日以降、政府の方針が変更され、マスク着用については、個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねることになりました。

とは言え、個々の会社等の事情により、従業員へのマスク着用義務付けを継続する職場も少なくないと思われます。

マスク着用の義務付けを継続するケースは次の場合が考えられます。

①医療機関や高齢者施設など、高齢者等の感染リスクが高い人と接触する職場
②高齢者等の感染リスクが高い人が勤務している職場
③高齢者等の感染リスクが高い人が来所する職場
④マスクを着用しないで応対することに不安を覚える従業員または顧客がいる場合

①については、厚生労働省もこれまで通りマスクの着用を推奨しています。

②③④のケースでは、使用者の判断が重要になります。一般的に会社内にも高齢者や基礎疾患を抱えている人は一定程度いると思われますし、来客の中にも高齢者や基礎疾患を抱えているかたが一定程度いると思われます。

以下では、マスク着用義務を継続する場合の留意点について記載します。(令和5年2月24日時点の記事です)

医療機関や高齢者施設など

上述したように、高齢者など重症化リスクの高い方が多く入院・生活する医療機関や高齢者施設などの従事者の方は、今後も勤務中のマスクの着用推奨が継続されます。

一般の職場

原則的としては、マスクの着用は個人の判断に委ねられるものの、事業者が感染対策上又は事業上の理由等により、利用者又は従業員にマスクの着用を求めることは許容されます。

会社がマスク着用を義務付ける根拠

国がマスクについてふれるときはあくまでも推奨という形をとっていますが、会社には、従業員や顧客の安全を守る義務があり、職場の秩序を維持する権限もあります。

マスクの効果についてはいろいろな意見がありますが。現在は、自分が感染していた場合に他人に感染を広げないためにも、感染予防のためにも、マスクの着用が一定の効果を上げることが、政府の方針として維持されています。したがって、職場における感染症の拡大を抑制することを目的としてマスク着用を指示することは可能だと考えられています。

また、会社等は、事務所や作業場を会社の目的に沿うよう管理・保全する権限を持っています。これを「施設管理権」といいます。これに基づいて会社は、会社で仕事をする従業員や出入りの人に対して必要な指示をすることができます。

さらに、労働契約法は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」として、使用者の安全配慮義務を定めています。つまり、労働者間の感染を抑制することで労働者の身体の安全を確保するために必要な措置としてマスク着用の義務付けが正当化されると考えられます。

マスクの費用等について

ただし、マスクを会社の業務遂行上に必要だということで義務化するのであれば、マスクを会社が支給する、あるいはその費用を会社が負担することを考慮する必要があります。

違反者への対応

マスク着用を義務付けた場合、それに従わない従業員も一定程度出てくる可能性があります。これには次の類型が考えられます。
①マスクを持っていない
②個人的事情でマスクを着用できない
③個人的信念によりマスク着用を拒否する

マスクを持っていない場合

持ってくるのを忘れることもあると思います。着用を義務付けるのであれば忘れてきた場合に支給する予備を準備しておきましょう。なお、品不足等によりマスクが購入できないために着用ができないのであればやむを得ない事情に該当すると考えられます。

個人的事情により着用できない場合

マスクにより、呼吸に困難を覚える、皮膚に異常がでるなど、身体的理由でマスクが着用できない人もいます。会社等にマスク着用義務付けの理由があるとしても、従業員に過重な身体的負担をさせることはできません。個別の理由を丁寧に聞いてなるべく本人の希望に沿って解決しましょう。

天候や作業環境等により熱中症などになる可能性がある場合も配慮が必要です。

感覚過敏等の身体的理由でマスク着用ができなかったとしても、懲戒処分にすることはできないと考えられます。

個人的信念により着用拒否する場合

マスク着用は法律上の義務ではありませんが、企業等が従業員に対してマスク着用の業務命令を出したり、就業規則等で義務付けることは合理性があります。

会社の規則や業務上の指示に従わない場合は、そのままに放置すると職場秩序の乱れにつながるので厳正な対処が必要です。この場合には次の段階を踏むことになります。

①注意する
②指導する
③懲戒処分する

注意する

この場合の注意は上司が口頭でします。会社の決まりで勤務中のマスク着用が義務付けられているので着用して下さい、と口頭で伝えます。

指導する

注意しても従わないのであれば、書面で指導を行います。具体的には、注意を書面にして交付します。なお、文書には、指導の内容、日時・場所等を記載して交付します。控えを保存しておきましょう。

処分する

注意して、指導しても改まらないのであれば、懲戒処分もやむを得ません。処分は、けん責や減給処分などの軽い処分が原則です。処分理由は単にマスク不着用では繰り返したときに二重処分に該当するおそれがあります。具体的に、何月何日のどこにおいての違反というように具体的に記載しましょう。処分しても同じことを繰り返しその態様が悪質であれば勤務態度不良で改善の見込みがないとして、解雇処分に進めることも考えられます。

軽い処分だとしても懲戒処分の一つなので、本人の弁明の機会を与え、懲戒委員会等で審議するなど、会社の懲戒処分のルールに則って厳正な手続きを経る必要があります。

就業拒否について

マスク着用を義務付けている職場においては、マスクを着用しない従業員に対し、使用者はその就業を拒否することが一応可能だと考えます。

ただし、使用者がマスクを着用しない従業員に対して、職場での就業を拒否し、なおかつ業務の性質等から在宅勤務の実施は困難であるとしてその従業員に休業を命じた場合には、一概に判断できませんが、会社都合による休業として休業手当の対象になる可能性もあります。「マスクをつけないなら帰れ」という対応は状況を複雑にしてしまう可能性があるので、就業拒否よりは、前述したように注意・指導・懲戒という段階を踏んだ対応がよいでしょう。

就業規則について

就業規則にマスク着用を明示しなくても、業務命令に従う義務がある旨の規定があれば、マスク着用に関する指示を記載した社内文書にもとづいて、注意・指導・処分を実施することができると考えられますが、明示的な規定を設けたほうがより確実です。

規定例

(マスクの着用指示)
第○条 会社は感染症の社内流行を抑止する目的により、従業員がマスクを着用すべき場所や期間等を指示することがある。マスクの着用指示があったときは、正当な理由がある場合を除き従業員はその指示に従わなければならない。
2 身体的理由等でマスクの着用が困難な従業員には可能な限り配慮するものとする。
3 着用指示があったときは別に定める基準によって会社がマスクを支給するが、支給品以外のマスクを自己負担で着用することもできるものとする。


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