人事担当者が知っておくべき「社会的治癒」の知識

Last Updated on 2025年9月11日 by

人事を担当する皆さんは、「同じ病気で再発した社員に、また傷病手当金は出るのか?」と疑問に思ったことはありませんか?

今回は、人事担当者なら知っておきたい「社会的治癒」の概念と、それが傷病手当金や障害年金の受給にどう影響するのかを解説します。

2022年の法改正で傷病手当金の支給期間が通算1年6か月になったことはご存知かと思います。しかし、このルールを理解する上で「社会的治癒」は重要なキーワードです。

社会的治癒とは

まず、人事担当者の皆さんに理解していただきたいのは、「社会的治癒」は法律で明確に定義された言葉ではないということです。「社会的治癒」とは、傷病手当金や障害年金の審査において、実態に即した判断をするために生まれた、いわば制度上の独自の考え方です。

医学的治癒:医師が「もう治療の必要はない」「完治した」と判断すること。

社会的治癒:医学的治癒とは別の概念で、自覚症状がなく、社会生活(就労など)に支障がない状態が一定期間続いた場合に、「治癒した」とみなすこと。

重要なのは、傷病手当金や障害年金の支給において、社会的治癒は、再発した病気が、過去の病気とは切り離して考えられるかどうかの判断基準になる点です。

傷病手当金における「社会的治癒」の役割

傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算1年6ヶ月です。この期間内であれば、一度復職して再び同じ病気で休んでも、残りの期間について請求できます。

しかし、最初の支給開始日から1年6ヶ月が経過した後に再発した場合は、通常の支給期間は終了しています。

ここで「社会的治癒」が重要な役割を果たします。

もし再発した病気が「社会的治癒」を経ていないと判断されれば、それは前回の病気の延長とみなされるので、1年6ヶ月が経過していれば、傷病手当金は支給されません。

一方、長期間にわたって安定した就労を続けており、「社会的治癒」が認められた場合、再発した病気は新たな傷病として扱われる可能性があります。その場合、再び傷病手当金の申請ができ、新たな支給期間(通算1年6ヶ月)がスタートします。

障害年金における「社会的治癒」

障害年金の場合も、「社会的治癒」は重要な判断要素になります。

障害年金は「初診日」が非常に重要です。同じ病気で再発した場合、初診日は原則として最初の初診日になります。しかし、再発時の初診日で認定を受けれるケースがあります。

つまり、「社会的治癒」が認められれば、再発時の初診日を新たな初診日として扱うことが可能になる場合があります。

人事担当者として知っておくべきこと

  • 明確な基準はない: 「社会的治癒」に「〇年以上の復職期間が必要」といった明確な基準はありません。健康保険組合や日本年金機構が、個々のケースに応じて総合的に判断します。
  • 医師の診断書が鍵: 判断の根拠となるのは、医師の診断書や通院記録、そして被保険者本人の就労状況や症状の安定性です。人事担当者としては、これらの状況を把握し、被保険者とコミュニケーションを取ることが大切です。
  • 専門家への相談を促す: 社員から再発時の給付について相談があった場合は、安易な判断は避け、被保険者本人に加入する健康保険組合や年金事務所に相談するよう促してください。

「社会的治癒」は、複雑なケースを救済するための重要な概念です。社員の不利益にならないよう、基本的な知識を身につけておくことが、人事担当者として求められます。


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