Last Updated on 2025年9月13日 by 勝
休職中の社員を対象としたリハビリ出勤制度は、病気やけがなどで長期にわたって休業していた社員が、無理なく円滑に職場復帰できるよう、正式な復職の前に、通勤訓練・模擬出勤をする制度です。厚生労働省も導入を推奨しており、多くの企業で取り入れられています。
リハビリ出勤制度の具体的な内容
この制度は法律で定められたものではなく、企業が独自にルールを定めて運用するものです。主な目的は、休職者が規則正しい生活リズムを取り戻し、体力や集中力を回復させることにあります。
具体的な内容は企業によって異なりますが、一般的には会社の指揮命令下で業務を行うのではなく、決められた時間に出社して時間を過ごしたり、通勤の練習をしたりすることで、職場環境に慣れることを目的とします。
導入する場合の注意事項
リハビリ勤務制度を導入する際には、将来的なトラブルを避けるために、以下の点に注意して制度設計と運用を行う必要があります。
- 就業規則への明記:
- 制度の目的、対象者、賃金の扱いなどを休職規程等に明記し、社内ルールを明確にしておくことが重要です。
- 休職者本人との合意:
- リハビリ出勤を開始する前に、制度の内容について休職者本人と十分に話し合い、書面で合意を得ておくことが必須です。
- 賃金の取り扱い:
- 会社の指揮命令下で業務を行っていない(模擬出勤など)場合は、労働とみなされず、原則として賃金支払いの義務は生じません。
- 労災保険・健康保険との関係:
- 会社の指揮命令下で業務を行っていない(模擬出勤など)場合は、労働とみなされず、事故があっても原則として労災保険の対象になりません。
- 万が一の事故に備え、会社が独自で保険に加入したり、見舞金制度を設けたりするなど、従業員の不安を軽減するための対応策を検討することが望ましいです。
- リハビリ出勤中の扱い:
- 賃金は支給せず無給とする。
- 主目的は、出社帰宅を繰り返すこと。職場では見学程度とし、持ち込みの本を読んだり、私物のスマホを操作することを認めるが、会社の資料閲覧やパソコン操作等はしない、という扱いにする。
- このようにすることで、指揮命令下ではない、労務の提供がないということになります。規則正しい生活を送るための「訓練」や「リハビリ」の機会を与えているにすぎない、という位置づけになります。
- 厳格な運用:
- 「見学程度」というルールが形骸化し、上司が軽微な作業でも指示したり、本人が自主的に手伝い始めたりすると、意図せず「労働」とみなされる可能性があります。ルールは厳格に守り、会社側も本人も「労働ではない」という意識を徹底することが大切です。
- 産業医・主治医との連携:
- リハビリ出勤の開始可否や勤務内容の調整にあたっては、休職者の主治医や会社の産業医の意見を聴き、健康状態を客観的に評価することが不可欠です。
- プライバシー保護:
- 休職者の健康情報や個人的な情報を厳重に管理し、取り扱いに関わる者への教育・研修を徹底するなど、プライバシー保護に配慮する必要があります。
リハビリ出勤制度は、休職者がスムーズに職場復帰するための有効な手段であり、再休職リスクの低減にもつながります。しかし、その運用には専門的な知識が必要となるため、導入を検討する際は、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
本人との合意書
本人との合意文書の文例を以下に示します。
この文例は、リハビリ出勤が「労働」に当たらないことを明確にし、将来的なトラブルを防ぐことを目的としています。会社の状況に応じて、項目や文言を調整してご活用ください。
リハビリ出勤に関する合意書
(以下、「甲」という。)と(以下、「乙」という。)は、乙の職場復帰に向けたリハビリ出勤について、以下の通り合意しました。
第1条(目的)
本合意書は、乙の円滑な職場復帰を目的とし、休職期間中にリハビリテーションの一環として出勤すること(以下、「リハビリ出勤」という。)に関する事項を定める。
第2条(リハビリ出勤の期間および内容)
- リハビリ出勤の期間は、〇〇年〇〇月〇〇日から〇〇年〇〇月〇〇日までとする。この期間内に行うリハビリ出勤の回数は本人の任意とする。
- リハビリ出勤中は、原則として午前〇〇時〇〇分から午後〇〇時〇〇分までの間に終えるものとする。
- リハビリ出勤中の活動内容は、以下の通りとする。
- 規則正しい生活リズムの再構築、および通勤訓練
- 職場環境への順応
- 机上での個人的読書、個人学習、その他リハビリ目的の活動
- 社員との交流(雑談等)
- その他、甲が認めた軽微な活動
第3条(賃金の不支給)
- 乙が本合意書に基づくリハビリ出勤を行うことは、労働基準法に定める「労働」ではないことを甲、乙双方で確認する。
- したがって、甲は乙に対し、リハビリ出勤に関する賃金、交通費、その他一切の報酬を支払わない。
第4条(労災保険の不適用)
本合意書に基づくリハビリ出勤は、労働ではないため、通勤中または出勤中の事故等による負傷等について、労働者災害補償保険法(労災保険)は適用されない。事故等による負傷等には見舞金を支給する。
第5条(休職期間の継続)
乙は、本合意書に基づくリハビリ出勤中も休職期間が継続することを承諾する。
第6条(復職の決定)
- 本合意書に基づくリハビリ出勤期間の満了後、乙の主治医および甲の産業医の意見を参考に、甲が復職の可否を判断する。
- 甲は、復職の可否を〇〇年〇〇月〇〇日までに乙に通知する。
第7条(その他)
本合意書に定めのない事項については、甲、乙双方で協議の上、定めるものとする。
上記の内容を確認し、双方合意の上、本合意書を2通作成し、甲、乙がそれぞれ1通を保有する。
〇〇年〇〇月〇〇日
甲
会社名:〇〇〇〇株式会社
所在地:
代表者名:
乙
社員番号:
氏名:
住所:
休職規程への記載
就業規則や休職規程に記載する「リハビリ出勤」の条文サンプルをご提示します。
これは、リハビリ出勤が「労働」ではないことを明確にし、企業と社員双方の認識を統一することを目的としています。自社の規定に合わせて修正してご活用ください。
(リハビリ出勤)
- 社員は、休職期間中、職場復帰のためのリハビリテーションとして、会社の承諾を得てリハビリ出勤を行うことができる。
- リハビリ出勤は、労働ではない。そのため、会社はリハビリ出勤に対し、賃金、交通費、その他一切の報酬を支払わない。
- リハビリ出勤の期間および勤務時間は、社員の症状を考慮し、会社が個別に定めるものとする。
- リハビリ出勤中の社員は、会社の指揮命令下で業務を行うことを禁止する。活動は、以下の通りとする。
- 職場への出社・帰宅を通じた生活リズムの調整
- 職場環境への順応
- 個人的自習、個人的読書、職場見学など、心身のリハビリテーションを目的とした活動
- 会社が認めた軽微な活動
- リハビリ出勤中のケガについて、労働者災害補償保険法(労災保険)は適用されない。
- リハビリ出勤は、休職期間を中断するものではない。
- 会社は、リハビリ出勤の実施にあたり、社員の主治医および産業医の意見を聴取し、円滑な職場復帰を支援するよう努める。
- リハビリ出勤に関する詳細は、別途定める「リハビリ出勤に関する合意書」に準ずるものとする。
休職規程の一部ではなく、リハビリ出勤を対象にする規程サンプルも用意しました。
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