旅費支給額の決め方

会社の運営

原則として実費を負担する

出張旅費は、原則として実際に使った費用ですから、損得がないものとして、所得税が課税されません。

しかし、出張旅費のなかでも日当は少しニュアンスが違います。日当は、通常の勤務地と異なる環境での業務による精神的・肉体的疲労への慰労や、出張先でかかる食費や雑費などの補填を目的として、定額で支給される手当です。

原則論で言えば、日当は、給与のように課税される収入として扱われるべきものだとされているようです。とはいえ、それでは実務が大変複雑になってしまうので、妥当な金額であるなどの条件を満たせば、定額支払の日当も経費として扱い、給与課税はしないことになっています。

税務上の適正性を考慮する(最も重要)

出張手当が非課税所得となるためには、以下の基準を満たす必要があります。これが金額設定における事実上の上限となります。

  1. 「通常必要と認められる範囲内」の金額であること: 社会通念上、その出張に必要な金額として妥当であると認められる水準である必要があります。
  2. 「社内的な均衡」が保たれていること: 役職間で不相当に高額な差がなく、全ての対象者に対して適正なバランスで支給されていること。(例:社長の日当が一般社員の10倍など、極端に高い場合は否認リスクが高まります。)
  3. 「出張旅費規程」に明確に定められていること: 支給の根拠となる規程を作成し、株主総会や取締役会で決議し、全従業員に周知する必要があります。

日当の決め方

一般論としては、社会通念上妥当な範囲ということになります。漠然としていますが、世間水準と比較して多すぎないこと、そして、一部の人が特に有利でないこと、この2点を守ればよいでしょう。

社長の日当が一般従業員よりずば抜けて多い場合は、日当の決め方が妥当とは言えないとされる可能性が高いでしょう。しばらくはそれで通したとしても、税務調査があれば否認され、遡って課税されることになると思います。

日当金額を役職にかかわらず一律にしてしまえば問題ないのですが、役職に応じて格差をつけたときは、そのくらいの差が妥当なのかは、世間水準を参考にして、常識的な範囲で決めることになります。この常識的というのが人によって違うので大変なのですが。

朝食込み/別で日当を区分する

出張手当(日当)は、朝食代がホテル代に含まれているかどうかで、金額を区分することが推奨されます

出張手当の主な目的の一つは、出張中の自己負担となる食事代や雑費を補填することにあるため、朝食が支給されるかどうかで日当の金額を変えるのは合理的です。

区分理由支給目的
朝食代込み日当を減額する従業員の朝食代の自己負担がゼロになるため、その分の補填(食事代)を日当から除外するため。
朝食代なし通常の日当を支給従業員が朝食を外で取るなど自己負担が発生するため、その費用を日当で補填するため。

このように区分することで、従業員間の公平性を保ち、「朝食付きホテルに泊まった人だけ日当が多い」といった不公平感や、無駄な経費の発生を防ぐことができます。

設定すべき金額の差の目安

日当の金額は企業が自由に設定できますが、朝食代相当分の差額を設定するのが合理的です。

一般的な国内出張の場合、朝食代の相場を参考に、以下の差額を設定することが推奨されます。

項目差額(1泊あたり)の目安根拠(朝食の単価)
朝食代相当の減額幅500円〜1,500円程度ビジネスホテルの朝食料金(ビュッフェ形式など)を想定します。

ポイント

  1. 「食事代相当額」を明記する: 出張旅費規程の中で、朝食代相当額としていくらを日当から控除するかを明確に定めます。(例:「朝食が宿泊費に含まれる場合、日当から1,000円を減額する」など)
  2. 実費精算との兼ね合い: 宿泊費を実費精算にする場合は、ホテル予約時に朝食代が内訳に含まれているかを確認し、その情報に基づいて日当の支給額を決めます。
  3. 例外規定: 移動日などで朝食を取る時間がなかった場合など、例外的なケースでの取り扱いも明確にしておくと、精算時のトラブルを防げます。

宿泊料の決め方

宿泊料(ホテル代)を実費支給にすれば、不公平になることが多いものです。

例えば、グレードの高いホテルに泊まる人がでると不公平感が高まります。

空室がなくてやむを得ずグレードの高いホテルに部屋をとるという場合もありますが、意図的にそうする人も出てきがちです。

実費支給にすれば、夕食や朝食込みで泊った人は宿泊料に食事代が入ることになります。素泊まりで支払った人は、別途食事にお金をかけなければなりません。また、食事込みでも食事のグレードに違いがあります。

これらを不公平感のないように運用するには、規程を細かくしなければなりませんが、それでも全てをカバーするのは難しいでしょう。そこで、定額払いを採用することが多いようです。

定額払いだと、出張する人はその範囲に収まるようにやりくりします。定額支給分で間に合わなくなったときは自己負担ということになってしまうのですが、やむを得ない理由によるときは、個別に審査して認める方法をとっている会社もあります。

夕食代の負担について

出張における夕食代は、原則として会社が負担するものではなく、従業員個人の自己負担となります。

夕食代が原則自己負担となる理由

夕食代は、出張の有無にかかわらず、生活する上で必ず発生する個人的な費用(生活費)と見なされるためです。

会社が経費として認め、非課税で支給できるのは、「業務遂行のために通常必要とされる費用」に限られます。通常の食事代はこれに該当しません。

会社が費用を負担するケース

ただし、以下のいずれかのケースに該当する場合に限り、会社が費用を負担(経費計上)します。

  1. 出張手当(日当)に含まれる場合
    • 多くの会社では、夕食代を含む出張中の個人的な飲食費や雑費の補填として、定額の「出張手当(日当)」を支給します。
    • この日当は、出張旅費規程に基づき、非課税として従業員に支給されるため、実質的に夕食代の一部を会社が負担していることになります。
    • この場合、従業員は別途、夕食の領収書を提出して精算することはできません。
  2. 接待や会議を目的とする場合
    • 出張先で取引先の接待として食事をした場合、その費用は交際費として処理されます。
    • 社内会議や打ち合わせを兼ねた食事代は、会議費として処理される場合があります。

したがって、「夕食を単に食べるため」の費用は自己負担ですが、「出張手当」という形で間接的に補填されるか、業務上の「接待・会議」であれば経費として認められます。

交通費の決め方

交通費というのは、鉄道や飛行機の費用です。普通はかかった分を支給しますが、鉄道を使えば安いのに飛行機を使ったなどのケースをどうするか、あるいは、安売りの切符を買って、正規の料金を請求する者にはどうするかなどについて、定めておく必要がります。

業務上の必要性

出張報告書等の出張記録が不備で、何のために出張したか分からないようでは、出張ではなく観光旅行だったのではないかと疑われます。そうなると日当どころか旅費全体が否認されてしまう可能性があります。

社長などの役員に多いのですが、確かに取引先を訪問しても、ほとんどの日程がゴルフや飲食に費やされるような出張があります。こういうケースで日当を支給していると税務調査で否認される可能性があります。

支払い方法の多様化

旅費の清算に現金を扱わずに、清算専用の個人口座を用意させてそこに振り込む方法を採用している会社もあります。社内に現金を置かないという意味では不正防止の基本です。

自動車運転による出張は、ETCとガソリンカードは必須です。動きやすいし経費の節約になります。ただし、私用が紛れ込まないように管理は充分にしなければいけません。

クレジットカードの利用についても、法人カードを貸与していない場合は、社員が自分のクレジットカードで出張中の経費を払ったとしても会社に特に不利益はないので、明細書の提出を条件に認めているのが一般的です。

マイレージのポイントを会社に帰属させるべきかという意見もありますが、ポイントを受け取らないことにしても会社の出費が減るわけでなし、それぞれの才覚でわずかの利益をえることまで口を差し挟むことはないでしょう。