年末調整とは?新人給与担当者向けに基本を解説

賃金・賃金制度

会社の給与計算の初心者の方へ、年末調整について基本的な説明をします。

年末調整について

年末調整とは?

年末調整とは、従業員が1年間に支払うべき正しい所得税の額を計算し、毎月の給与や賞与から源泉徴収(天引き)されていた所得税の合計額との差額を精算する手続きです。

なぜ必要なのでしょうか?

  1. 毎月の源泉徴収は概算だから毎月の給与から天引きしている所得税(源泉徴収税額)は、「給与所得の源泉徴収税額表」に基づいて計算されていますが、これはあくまで概算です。年間の正確な給与総額や、従業員の個人的な状況(家族構成や保険料の支払い状況など)をすべて反映しているわけではありません。
  2. 所得控除を反映するため年の途中で確定する生命保険料、地震保険料、扶養親族の状況などの「所得控除」を反映させることで、課税対象となる所得金額が下がり、最終的な税額が確定します。

この精算の結果、以下のいずれかになります。

  • 源泉徴収額 > 正しい年税額還付(払いすぎた分が戻ってくる)
  • 源泉徴収額 < 正しい年税額追加徴収(不足分を支払う)

多くの場合は、源泉徴収額が多くなりすぎているため、従業員に税金が戻ってくる「還付」が発生します。

年末調整の対象となる人

原則として、会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員(正社員、パート、アルバイトなど)が対象です。

ただし、年間の給与収入が2,000万円を超える人などは、年末調整の対象外となり、自分で「確定申告」をする必要があります。

給与計算担当者としての主な作業の流れ(大まかなイメージ)

年末調整は、主に以下のステップで進められます。

  1. 必要書類の準備と配布・回収
    • 従業員に「扶養控除等(異動)申告書」「保険料控除申告書」などの各種申告書を配布し、必要事項を記入してもらい回収します。
    • この際、従業員が支払った生命保険料や地震保険料などの控除証明書も一緒に回収します。
    • 中途入社の従業員がいる場合は、前職の「源泉徴収票」も提出してもらう必要があります。
  2. 年間の給与総額・源泉徴収税額などの集計
    • 1月1日から12月31日までに支払いが確定した、従業員ごとの給与・賞与の総額を計算します。
    • それに伴って天引きした社会保険料の総額、源泉徴収した所得税の総額を集計します。
    • 中途入社の従業員の場合は、前職の給与・源泉徴収税額も合算します。
  3. 年税額の計算
    • 回収した申告書と集計したデータ(年間の給与総額など)に基づき、法律で定められた計算手順に従って、従業員一人ひとりの「正しい年間の所得税額(年調年税額)」を計算します。
    • この計算には、複雑な税率表や控除額のルールを適用します。給与計算ソフトを使用することが一般的です。
  4. 過不足額の精算
    • 「正しい年税額」と「毎月天引きした源泉徴収税額の合計」を比較し、差額(過不足額)を算出します。
    • この差額を、通常は12月または翌年1月の給与で精算(還付または追加徴収)します。
  5. 法定調書の作成・提出
    • 年末調整の計算が終わったら、各従業員に対して「給与所得の源泉徴収票」を作成し交付します。
    • また、税務署や市区町村に提出する法定調書(支払調書、給与支払報告書など)を作成し、期限までに提出します。

初心者へのアドバイス

  • 税法改正に注意:年末調整のルールは毎年少しずつ変わることがあります。国税庁や関連団体の最新情報を確認することが重要です。
  • ソフトの活用:年末調整の計算は非常に複雑なため、給与計算ソフトを使うことで、計算ミスを防ぎ、効率的に作業を進めることができます。
  • 書類の期限:従業員からの申告書や控除証明書の回収、税務署への提出など、すべての期限をしっかり守るようにスケジュール管理を徹底しましょう。

2025年の年末調整

2025年(令和7年分)の年末調整は、税制改正による大きな変更点があります。主な注意点と変更点をまとめました。

基礎控除と給与所得控除の見直し

  • 基礎控除の引き上げ:
    • 合計所得金額に応じて基礎控除額が変わり、最大で95万円(改正前は一律48万円)に引き上げられます。(合計所得2,350万円超は改正前と同様に段階的に減額されます)。
    • 注意点: 従業員(納税者)の合計所得金額の見積もりを正確に把握し、改正後の基礎控除額を正しく適用する必要があります。
  • 給与所得控除の最低保障額引き上げ:
    • 最低保障額が55万円から65万円に引き上げられます(給与収入190万円以下の場合)。
    • 注意点: これに伴い、「年収の壁」が「103万円の壁」から「160万円の壁」に実質的に変わります(年収160万円までは所得税がかからない)。

扶養親族等の所得要件の改正と特定親族特別控除の創設

  • 扶養親族等の所得要件の緩和:
    • 扶養控除や配偶者控除などの適用を受けるための親族の合計所得金額要件が「48万円以下」から「58万円以下」に緩和されます(給与収入でいうと「103万円以下」から「123万円以下」に相当)。
    • 注意点: この改正により、新たに扶養控除の対象となる親族がいる可能性があるため、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の修正や再提出を従業員に促す必要があります。
  • 特定親族特別控除の創設:
    • 19歳以上23歳未満の特定親族(主に大学生など)の合計所得金額が、改正後の58万円超123万円以下の場合に、所得に応じた特定親族特別控除が適用されます。
    • 注意点: 該当する親族がいる従業員は、新たに統合された「給与所得者の特定親族特別控除申告書」の提出が必要です。

申告書様式の変更

  • 「基・配・所」申告書への統合:
    • 従来の「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」に、新たに「給与所得者の特定親族特別控除申告書」が統合され、1枚で4つの控除を申告する様式に変更されます。
    • 注意点: 記載事項が増え、複雑化するため、記入ミスや漏れのリスクが高まっています。従業員への記入例の提供など、丁寧な案内が重要です。

実務上のその他の注意点

  • 各種控除証明書類の確認:
    • 生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除(国民年金など)に必要な控除証明書類の添付漏れがないか、記載内容と証明書類の内容が一致しているかを確認しましょう。
  • 年の途中の退職者への対応:
    • 年の途中で退職した従業員のうち、年収123万円以下で退職した人など、例外的に年末調整の対象となるケースがあります。
  • 従業員への周知徹底:
    • 上記のような大きな改正点があるため、従業員が控除の適用を正しく受けられるよう、変更点を事前に周知し、必要な書類の準備や提出を促すことが非常に重要です。