厚生労働省が安全衛生委員会での調査審議事項として掲げている「安全衛生に関する計画」の作成とは、一般に労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)に基づいた計画の作成を指しています。これは、職場における安全衛生水準の継続的な向上を目指すための、組織的かつ体系的な安全衛生活動の仕組みです。
OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)に基づく計画の作成
計画は、OSHMSの考え方で中心となるPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)の「P(計画:Plan)」の部分にあたります。
計画作成の基本サイクル(PDCA)
OSHMSでは、労働災害の防止や健康増進のために、以下のサイクルを回すことが求められます。
- P(計画:Plan): 安全衛生目標を設定し、それを達成するための安全衛生計画を作成します。
- D(実施:Do): 計画を実行します。
- C(評価:Check): 計画の実施状況や結果を点検し、評価します。
- A(改善:Act): 評価に基づき、次の計画に向けて改善措置を講じます。
安全衛生委員会で審議する「計画」は、このサイクルの出発点となる「P(計画)」に該当します。
具体的な計画の内容
安全衛生計画の作成にあたっては、まず職場の「危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)」を行い、その結果に基づいて対策を盛り込むことが重要です。
計画には、主に以下の具体的な項目が含まれます。
安全に関する計画
主に労働災害の防止を目的とした計画です。
- リスク低減措置の実施計画: リスクアセスメントで特定された危険源に対する具体的な改善措置(設備改善、作業手順の見直し、保護具の導入など)の年間計画。
- 安全教育の実施計画: 新規採用者教育、作業内容変更時の教育、特定の危険作業従事者への特別教育などの計画。
- 作業手順書の作成・見直し: 危険性の高い作業の手順を明確化し、安全性を確保するための計画。
- 機械・設備等の点検計画: 定期的な自主検査、特定機械の法定点検などの計画。
- 非常時の対策計画: 災害時や事故発生時の緊急対応手順の策定・訓練計画。
衛生に関する計画
主に労働者の健康の保持増進を目的とした計画です。
- 健康診断・特殊健康診断の実施計画: 受診率向上策、事後措置(産業医面談、保健指導)の計画。
- 作業環境測定の実施計画: 有害な物質や環境因子(騒音、粉じん、化学物質など)の測定と、その結果に基づく作業環境改善計画。
- メンタルヘルス対策の計画: ストレスチェックの実施、高ストレス者への対応、ラインケアやセルフケアの教育計画。
- 長時間労働対策: 長時間労働者への医師による面接指導の実施計画、労働時間の管理方法の見直し。
- 感染症対策・熱中症対策: 時節に応じた健康障害防止のための計画(例:インフルエンザ予防接種の推奨、熱中症予防のための水分・休憩管理)。
安全衛生に関する計画
これらの具体的な活動について、誰が(担当者・部署)、いつまでに(期限)、何を(具体的な行動)、どれくらい(目標値)行うかを明確に盛り込んだものが「安全衛生に関する計画」となります。
安全衛生委員会の役割
安全衛生委員会は、これらの「安全衛生に関する計画」を議論し、適切に作成、実施、評価、改善するための重要事項を調査審議する場です。
作成された計画が、職場の実態に合っているか、法令を遵守しているか、労働者の意見が反映されているかなどを審議し、事業場全体の安全衛生管理を推進する役割を担っています。
作成義務
安全衛生計画の作成は、法律上の義務ではありませんが、労働安全衛生法の規定や厚生労働省の指針・通達により強く推奨されています。
義務ではない
労働安全衛生法には、「年間安全衛生計画」のような特定の様式の計画書作成を、事業場に義務付ける規定はありません。
指針で定めている
厚生労働省は、「安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善」を安全衛生委員会の調査審議事項として掲げています。
- 指針: 厚生労働省は「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」を公表しています。この指針において、事業者に安全衛生目標を設定し、それを達成するための安全衛生計画を作成することを求めています。
- したがって、「安全衛生に関する計画」の作成は、法律で直接罰則付きの義務とはされていませんが、労働安全衛生法に基づく事業者の責務を果たす上で必要な取り組みであり、OSHMSの指針を通じて強く推奨されています。
例外(安全衛生改善計画)
一般的な安全衛生計画とは異なりますが、重大な労働災害を発生させた事業場などに対し、労働基準監督署長や都道府県労働局長が、安全衛生水準の改善を図るため、特別安全衛生改善計画の作成・提出を命じる場合があります(安衛法 第78条)。この場合の計画作成は義務となります。

