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忌引き休暇制度の検討ポイント

Last Updated on 2025年7月22日 by

忌引き休暇とは

忌引き休暇とは、従業員の近親者が亡くなった際に、その弔事(葬儀や法要など)に参列したり、故人を偲ぶための時間を確保したりするために、会社が従業員に付与する特別休暇のことです。

労働基準法などの法律には、忌引き休暇に関する直接的な規定はありません。つまり、会社には従業員に忌引き休暇を付与する法的義務はないのですが、多くの企業では、従業員の福利厚生や労務管理の一環として、就業規則に忌引き休暇制度を設けています。

法定休暇ではないため、制度を設けるか否かは各企業の自由であり、制度を設けた場合の内容についても、付与日数や対象となる親族の範囲、取得条件など、各企業において自由に制度設計をすることができます。

この休暇は有給で付与されることが多いようですが、企業によっては無給と定めたり、一部を有給・一部を無給としたりするケースもあります。

忌引休暇を与える目的

忌引き休暇の主な目的は以下の通りです。

1.弔事への参加:故人の葬儀、通夜、告別式、火葬などの弔事に参加し、故人を見送るための時間を確保すること。

2.精神的なケア:近親者を亡くした従業員が、悲しみの中で心の整理をつけ、精神的な回復を図るための時間を提供すること。

3.遺族としての役割:遺族として、弔問客への対応、法的な手続き、遺品整理など、故人の死に伴う様々な役割を果たすための時間を与えること。

4.福利厚生の一環:従業員への福利厚生として、会社が従業員の私生活における困難な状況に対し、理解と支援を示す姿勢を表すこと。これにより、従業員のエンゲージメント(会社への貢献意欲)や満足度を高める効果も期待されます。

忌引き休暇制度の検討ポイント

忌引き休暇制度を設計する上で、主に以下の3つのポイントを考慮する必要があります。

1.対象となる親族の範囲: どこまでの親族を忌引き休暇の対象とするか。

配偶者、子、父母が最も手厚く、次いで祖父母、兄弟姉妹、配偶者の父母、孫などが続くのが一般的です。

2.付与日数: 親族の範囲に応じて何日間の休暇を付与するか。

親族との血縁関係が近いほど長く(例:配偶者は5~7日、祖父母は1~3日)、遠い親族ほど短く設定される傾向があります。

3.給与の有無: 休暇期間中の給与をどのように扱うか(有給、無給、一部支給など)。

有給とする企業が多いですが、前述の通り企業ごとの判断に委ねられます。

制度案の提案

以下の3つの案を提案します。貴社の企業文化、従業員のニーズ、および経営状況に合わせてご検討ください。

案1:一般的な制度

多くの企業で採用されている、バランスの取れた制度です。

対象となる親族の範囲:

配偶者、子、父母 5日
祖父母、兄弟姉妹、孫 2~3日
配偶者の父  3日

給与の有無:全て有給とする。

メリット:

1.一般的な水準
2.主要な親族に対する手厚い配慮

デメリット:

完全に無給とする制度に比べ、人件費負担が発生します。

案2:手厚い制度

従業員の福利厚生を特に重視し、手厚いサポートを提供する制度です。

対象となる親族の範囲:

配偶者、子、父母 7日
祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母 3~5日
叔父叔母、甥姪など 1日(通夜・葬儀参列のため)

給与の有無: 全て有給とする。

メリット:

1.従業員満足度向上
2.企業イメージの向上

デメリット:

人件費の負担が最も大きい。

案3:必要最低限の制度

まずは最低限の制度を導入し、将来的な見直しも視野に入れる制度です。

対象となる親族の範囲:

配偶者、子、父母 3~5日
祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母 1~2日

給与の有無:無給、または一部有給(例:配偶者、子、父母の場合のみ有給)とする。

メリット:

1.人件費の負担を抑えることができます。
2.まずは制度を導入したい場合に適しています。

デメリット:

1.従業員からは物足りなく感じられる可能性があります。
2.有給と無給が混在する場合、制度の説明や運用が複雑になることがあります。

忌引き休暇についての規定

案1:一般的な制度を採用した場合の規定例です。

規定サンプル

(忌引休暇)第〇条 従業員が次の各号に定める親族の死亡により葬儀、服喪その他の必要な事由により勤務できない場合、本条に定める忌引き休暇を与える。

一  親族の範囲および付与日数

配偶者、子、父母:5日
祖父母、兄弟姉妹、配偶者の父母、孫:3日

二  備考

上記日数は、死亡した日(死亡日が勤務日以外の場合はその翌日)から連続した勤務日について適用する。

遠隔地での葬儀等、移動に時間を要する場合は、上記日数に加え、別途移動に必要な日数を考慮する場合がある。

忌引休暇は有給とする。

忌引き休暇を希望する従業員は、原則として事前に会社に申請し、承認を得なければならない。緊急やむを得ない場合は事後報告を認め、速やかに所定の手続きを行うものとする。

会社は、必要に応じて、会葬礼状その他忌引き休暇の取得理由を証明する書類の提出を求めることがある。

規定作成のポイント

明確な定義:忌引き休暇の目的と、対象となる親族の範囲、および付与日数を明確に定めます。

日数と親族の対応:案1に基づき、配偶者・子・父母は5日、その他の主要な親族は3日としています。

有給:有給無給の別を明確に定めます。サンプルは全て有給として、従業員の経済的負担がないことを明記しています。

起算日:休暇日数の起算日を「死亡した日(死亡日が勤務日以外の場合はその翌日)」と明確にしています。

遠隔地の場合の配慮:遠方での葬儀など、移動に時間がかかるケースも想定し、柔軟な対応ができる余地を残しています。

申請手続き:申請方法を明確にし、事後報告も認めることで、緊急時にも対応できるよう配慮しています。

証明書類の提出:会社が確認のため、証明書類の提出を求める場合があることを規定しています。

この規定例はあくまで一例なので、貴社の規程管理の規定に合わせて、文言や詳細を調整してください。

その他の考慮事項

連続休暇の取得:忌引き休暇は連続して取得することを原則とするか、分割取得を認めるか明確にする方が良いかもしれません。

年次有給休暇との兼ね合い:忌引休暇のほかに、年次有給休暇は別途自由に取得できるので、合わせて長期休暇になる可能性があります。現場への欠員支援についてあらかじめ検討しておくことが必要です。

試用期間中の従業員への適用:試用期間中の従業員にも忌引き休暇を適用するかどうかを明確にします。

就業規則への明記:決定した制度について就業規則等に明記し、労働基準監督署への届け出と従業員への周知が必要です。


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