カテゴリー
会社の運営 会社規程

職務権限の明確化とその進め方~50人規模の企業における段階的整備~

Last Updated on 2025年8月5日 by

職務権限の明確化を進めるための実務的な解説資料を作成しました。50人規模の企業を想定し、現場での理解・活用を意識した構成です。

なぜ職務権限を明確にする必要があるのか

会社の規模が拡大し、従業員が50人を超える頃から、次のような問題が顕在化します:

・業務の属人化により、他の人が何をしているかわからない

・判断や承認のルールがあいまいで、業務の停滞や責任のなすりつけが起きる

・同じ作業を複数人がやっていたり、逆に誰もやっていなかったりする

・管理職が業務を抱え込み、部下が成長しない

こうした問題に共通する根本原因が、「職務分掌や職務権限が明確になっていないこと」にあります。

全体の整理フロー:段階的に進めるのが基本

職務権限の明確化は、以下の順番で整理することが原則です。

基本ステップ

【STEP 1】組織の明確化(部門・課・役職の整理)
   ↓
【STEP 2】職務分掌の明確化(業務と担当範囲の整理)
   ↓
【STEP 3】職務権限の設定(判断・承認の範囲を規定)

❗ ポイント:職務権限だけを先に決めるのは危険。
業務や担当があいまいなままでは、権限だけ決めても運用できません。

各ステップの進め方(詳細)

【STEP 1】組織の明確化

まずは組織の「箱」をつくります。

・会社の事業内容・機能に応じて、部門や課を編成

・各部門の役割と名称(営業部、総務部、製造部など)を明確にする

・役職(部長・課長・主任・担当など)も明確にしておく

・組織図を整備する

🔍 注意点
組織の形があいまいなままでは、「誰が何をすべきか」を割り当てられません。

【STEP 2】職務分掌の明確化

次に、各部門・職位がどの業務を担当しているかを整理します。これが職務分掌(ぶんしょう)です。

■ 職務分掌とは

職務分掌とは「どの部門・役職が、どの業務を担当するか」を定めるものです。

たとえば、同じ「請求書の処理」でも、

「発行」は経理担当

「内容のチェック」は課長

「送付」は営業アシスタント
というように、実際の業務フローに合わせて担当範囲を整理します。

■ 職務一覧表の作成(業務の洗い出し)

以下のように整理します:

部門業務名担当職位最終責任者備考
経理請求書発行経理担当経理課長発行額30万円未満は担当判断
経理旅費精算の一次確認経理担当経理課長領収書や金額チェック
経理旅費精算の承認経理課長管理部長妥当性判断と承認
営業見積書作成営業担当営業課長特殊案件は課長が承認
総務備品購入申請各部門リーダー総務課長1万円以上は課長決裁

■ 業務名の細分化の目安

細かすぎる:✕「ホッチキス留め」「封筒に入れる」

適切:〇「請求書発行」「備品購入申請」「勤怠集計」

粗すぎる:✕「経理全般」「営業業務」

判断基準:「担当者・責任者が異なる単位で区切る」

【STEP 3】職務権限の設定

職務分掌で業務が整理できたら、次は「誰がどこまで決められるか」を規定します。これが職務権限です。

■ 職務権限とは

職務権限とは、担当業務について、誰がどこまで「決定・指示・承認・命令」できるかを定めるルールです。

■ 権限の分類

権限の種類内容例
決裁権限発注・契約・支払いなどの意思決定
指示命令権限部下への業務命令・指導
承認権限稟議・精算・申請の承認
人事権限採用、異動、評価の決定や関与

■ 職務権限の作成

業務内容担当職位判断・承認条件
請求書発行経理担当30万円未満なら単独処理可
備品購入各課リーダー1万円未満はリーダー決裁、1万円以上は課長承認
顧客との契約営業課長100万円以上は部長承認が必要

文書化と運用

代表的な文書と役割

文書名目的内容
職務分掌表業務と担当範囲の明確化部門・役職ごとの業務一覧
職務権限規程判断・承認ルールの明文化決裁金額や権限区分のルール

・作成後は、全社員への周知・説明が不可欠

新任管理職教育・昇格時研修にも活用

・実態とのずれが生じないように、半年~1年に1度は見直しを推奨

よくある疑問と補足

Q:どの規模から職務権限を明確にすべきか?

30人を超えたら必須、50人規模では制度化していないと混乱が生じやすくなります。

Q:現場から「面倒」と言われそうで不安です。

最初から完璧を目指さず、「属人的になっている業務」や「トラブルが起きやすい業務」から順に整備するのが現実的です。

6. まとめ:3ステップで着実に制度化を

① 組織を明確にする(組織図・役職の定義)
② 業務と担当を整理する(職務分掌)
③ 判断・承認ルールを定める(職務権限)

この流れを丁寧に進めることで、業務の効率化・責任の明確化・人材育成・統制強化につながり、組織全体の生産性向上に直結します。


関連規程:職務権限規程のサンプル職務権限規程のサンプル(2)

会社事務入門>このページ