労働契約法第11条は、就業規則の変更手続きについて、労働基準法の規定に委ねることを定めています。この条文自体が具体的な手続きを定めているわけではありませんが、労働契約法にあえてこの規定がおかれた意味があります。
労働契約法 第11条(就業規則の変更に係る手続)
条文
就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条の定めるところによる。
解説:労働基準法への委任
第11条は、就業規則の変更に関する法的な手続きルールを、以下の労働基準法の2つの条文に依拠させることを明確にしています。
労働基準法 第89条(作成及び届出の義務)
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないと定めています。
- 変更時の対応: 就業規則を変更した際も、これと同様に、変更内容を記載した就業規則変更届と、次に述べる意見書を添付して、労働基準監督署長に届け出る義務があります。
- 法的効力との関係: 届出自体は、就業規則の法的効力発生の直接的な要件ではありませんが、法令上の義務であり、これを怠ると労働基準法違反となります。
労働基準法 第90条(意見聴取義務)
使用者は、就業規則の作成または変更をする場合、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴かなければならないと定めています。
- 意見聴取の重要性:
- 意見聴取は必須の手続きであり、聴取を怠った場合、その就業規則は無効となる可能性があります。
- 意見聴取の結果は、意見書として書面にまとめ、労働基準監督署長への届出時に添付する必要があります。
- ポイント: 労働組合や代表者の「同意」までは必要とされていません(ただし、不利益変更の場合は、同意が得られた方が第10条の「合理性」が認められやすくなります)。しかし、その意見を聴き、真摯に検討する姿勢が求められます。
労働契約法 第11条の存在意義
第11条の役割は、第9条(原則禁止)や第10条(例外容認)が規定する就業規則の変更の実質的なルールに加え、変更を行うための形式的・手続き的なルールを労働基準法から引っ張ってくることにあります。
労働契約法 | 役割 |
第9条 | 不利益変更は、原則として労働者の合意がないとできない(実質の原則) |
第10条 | 例外的に、合理性と周知があれば、合意がなくても変更できる(実質の例外) |
第11条 | 変更の手続きは、労働基準法に基づき意見聴取と届出をしなければならない(形式・手続き) |
つまり、第11条は、就業規則が労働契約の内容として働くためには、内容の合理性(第10条)だけでなく、手続きの適正性(第11条を通じての労基法90条)も求められることを明確にしているのです。