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労働基準法

企画業務型裁量労働制導入のポイント

Last Updated on 2023年9月14日 by

企画業務型裁量労働制とは

裁量労働制とは、実際の労働時間でなく、あらかじめ企業と労働者で規定した時間を働いたものとみなし、その分の賃金を支払う制度です。

裁量労働制を導入した場合は、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだね、業務の遂行の手段及び時間配分の決定などについて、使用者は具体的な指示を出さないことになります。

裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

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企画型の方は、企画、立案、調査、分析を行う業務で、業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務において適用できます。

具体的には、以下に挙げる4つの要件のすべてを満たす業務です。

1.事業の運営に関する業務であること
2.企画、立案、調査、分析の業務であること
3.業務遂行の方法を労働者の裁量にゆだねる必要があると客観的に判断される業務であること
4.いつ、どのように行うか等について広範な裁量が労働者に認められている業務であること

導入手順

企画業務型裁量労働制を導入するには、次のような手順で手続きを進める必要があります。

労使委員会を設置する

企画業務型裁量労働制を導入するにあたっては、対象となる事業場において労使委員会を設置する必要があります。

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労使委員会で決議する

次の事項を労使委員会で審議します。決議には委員会に出席している委員の5分の4以上の賛成による決議が必要です。

1.対象となる業務の具体的な範囲
2.対象労働者の具体的な範囲
3.労働したものとみなす時間
4.使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する、健康・福祉を確保するための具体的な内容
5.使用者が対象となる労働者から苦情を処理するため実施する措置の具体的内容
6.適用について労働者本人の同意を得なければならないことと7.不同意の労働者に対し不利益取扱いをしてはならないこと
8.決議の有効期間(3年以内とすることが望ましい)
9.企画業務型裁量労働制の実施状況に係る労働者ごとの記録を保存すること

関連記事:労使委員会決議のサンプル

なお、令和6年4月1日改正施行に対応して、以下の2つを7の次に追加する必要があります。これまでの8、9は繰り下がります。

8.制度の適用に関する同意の撤回の手続
9.対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと

労働基準監督署に届出をする

労使委員会での決議内容を労働基準監督署に届け出ます。届出の前に企画業務型裁量労働制を導入してはいけません。

健康福祉を確保する措置の実施状況については、決議後6ヶ月以内ごとに所轄の労働基準監督署長に定期的に報告しなければなりません。

就業規則に企画業務型裁量労働制について記載し、就業規則の変更を労働基準監督署に届け出ます。

就業規則規定例:企画業務型裁量労働制|就業規則

対象労働者の同意を得る

企画業務型裁量労働制の対象になる労働者から同意を得なければなりません。就業規則による包括的な同意ではなく、一人ひとりからの同意が必要です。同意が得られない労働者に対して企画業務型裁量労働制を適用することはできません。

また、企画業務型裁量労働制を適用されることに同意しなかった労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをすることは許されません。

時間外労働等の扱い

時間外労働

企画業務型裁量労働制導入後は、労働時間は実際に働いた時間ではなく、あらかじめ定めておいた時間とされます。労使委員会で「労働時間は1日8時間とみなす」と決議していれば、実際に働いた時間とは関係なく1日8時間働いたとみなされます。このため時間外労働は発生しないので、会社に時間外労働に対する割増賃金の負担義務は生じないことになります。

深夜労働・休日労働

企画業務型裁量労働制導入後は、時間外労働は発生しませんが、深夜労働および休日労働に対する割増賃金は支払いは必要です。

夜10時から翌朝5時までの労働に対しては25%、休日の労働に対しては35%を通常の賃金に上乗せして支払わなければなりません。

健康福祉確保措置

上記の労使委員会決議事項4の「使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する、健康・福祉を確保するための具体的な内容」は、まさに具体的に記載する必要があります。

健康・福祉確保措置は、(イ)から(二)までの措置、(ホ)から(ヌ)までの措置から、それぞれ1つずつ以上実施することが望ましいとされています。特に(ハ)を選択することが望ましいとされています。

なお、(イ)(ロ)(ハ)(ホ)は、令和6年4月1日改正実施から追加されるものです。(改正後の「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」)

事業場の対象労働者全員を対象とする措置

(イ)勤務間インターバルの確保
(ロ)深夜労働の回数制限
(ハ)労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除
(ニ)年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めたその取得促進

個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置

(ホ)一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
(ヘ)代償休日又は特別な休暇の付与
(ト)健康診断の実施
(チ)心とからだの健康問題についての相談窓口設置
(リ)適切な部署への配置転換
(ヌ)産業医等による助言・指導又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

長時間労働の防止

裁量労働制を実施しても、例えば健康福祉を確保するためには正確な労働時間把握が必要です。しかし、裁量労働制において正確に労働時間を把握するのは難しいのが実態です。委ねるというところが裏目に出て長時間労働が常態化する危険があるので注意深い運用が必要です。

令和6年4月1日改正施行

①同意の撤回の手続きを定める

同意の撤回の手続と、同意とその撤回に関する記録を保存することを労使委員会の決議に定める必要があります。

②労使委員会に賃金・評価制度を説明する

対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項(説明を事前に行うことや説明項目など)を労使委員会の運営規程に定める必要があります。

対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことを労使委員会の決議に定める必要があります。

③労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う

制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)を労使委員会の運営規程に定める必要があります。

④労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する

労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを労使委員会の運営規程に定める必要があります。

⑤定期報告の頻度が変わります

定期報告の頻度は、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して初回は6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回になります。(現行は6か月以内ごとに1回)


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