定年後再雇用時の社会保険料改定(同日得喪)

社会保険

同日得喪(どうじつとくそう)とは

社会保険の同日得喪(どうじつとくそう)手続きについて解説します。これは、主に60歳以上で定年退職し、引き続き同じ事業所に再雇用される方を対象とした、社会保険料の負担軽減のための特例的な手続きです。

定義

  • 同日に社会保険の資格喪失と資格取得を同時に行うことです。
  • 定年退職日や契約満了日を退職日とし、その翌日(多くは再雇用される日)を資格喪失日と資格取得日とします。

目的とメリット

定年再雇用では、多くの場合、賃金が定年前よりも大きく下がります。

手続きの種類保険料変更のタイミング
同日得喪再雇用日(資格取得日)から、再雇用後の低い賃金に基づいた社会保険料が適用される(翌月分から保険料に反映)。
通常の手続き(随時改定)賃金変更から3ヶ月後に標準報酬月額が改定され、4ヶ月後から保険料が変更される。
  • 同日得喪を行うことで、本来なら数ヶ月かかる社会保険料の変更を再雇用後すぐに行うことができ、従業員と会社の双方の社会保険料負担を速やかに軽減できます。

同日得喪の要件

以下のすべてを満たす従業員が対象となります。

  1. 年齢要件:社会保険の被保険者である60歳以上であること。
  2. 労働契約の切れ目:定年退職や有期雇用契約の満了などにより、一度退職したとみなせること。
  3. 継続再雇用:退職後、1日も空けることなく同じ事業所に再雇用されること。
  4. 社会保険の加入要件:再雇用後も社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入要件を満たす労働条件であること。

注意点: 賃金が上がった場合や、再雇用前と変わらない場合は、同日得喪を行うメリットがないため、この手続きは不要です。

同日得喪の手続きと必要書類

手続きは、事業所を管轄する年金事務所(または健康保険組合)へ行います。

提出書類

以下の2つの届出を同時に提出します。

  1. 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届
  2. 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届

添付書類

以下の書類(いずれか)を提出し、「退職」と「継続再雇用」の事実を証明します。

書類内容
① 就業規則等の写し就業規則の定年に関する規定の箇所や、退職辞令の写しなど(退職日が確認できるもの)。
② 雇用契約書等の写し再雇用後の雇用契約書や労働条件通知書の写し(継続して再雇用されたことがわかるもの)。
③ 事業主の証明書企業側で作成した、退職日および再雇用日が記載された証明書(①と②の代わり)。

その他の添付物

  • 以前の健康保険資格確認証(本人分および被扶養者分)
  • 被扶養者がいる場合:健康保険 被扶養者(異動)届(再度の扶養認定が必要)

従業員が資格確認書を紛失したり、何らかの理由で会社に返納できない場合は、その代わりに「健康保険被保険者証・資格確認書回収不能届」を提出する必要があります。この回収不能届は、資格喪失届に添付して提出します。

提出期限

  • 資格喪失日および資格取得日から5日以内に提出が必要です。

同日得喪のその他の注意点

  • 保険証の変更: 資格喪失と資格取得を同日に行うため、被保険者番号が変わります。
  • 健康保険の給付への影響: 標準報酬月額が下がることで、将来的に傷病手当金や出産手当金などの健康保険の給付額が、改定後の低い標準報酬月額を基に計算されることになり、給付額が減少する可能性があります。
  • 年金への影響: 厚生年金保険料が下がるため、将来受け取る老齢厚生年金の一部(報酬比例部分)の計算に影響を及ぼす可能性があります。

健康保険についての補足

マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)を利用している従業員にとっては、健康保険の資格得喪について体感的な変化は少ないかもしれません。しかし、同日得喪手続きを行うと、たとえ同じ会社で働き続けていても、社会保険上は一旦資格を喪失し、新しい資格を取得し直す扱いになるため、被保険者への連絡は必要不可欠です。

資格情報更新のタイムラグ

  • マイナ保険証で利用する健康保険の資格情報は、企業が年金事務所等へ「資格取得届」を提出し、その情報が登録・反映されて初めて医療機関で利用可能になります。
  • 資格情報が反映されるまでに、数日から数週間程度のタイムラグが生じることがあります。
  • このタイムラグ期間に受診した場合、医療機関の窓口で一時的に全額自己負担となるなど、トラブルが発生する可能性があるため、事前に従業員に伝えておく必要があります。

新しい健康保険証番号の通知

  • 同日得喪により、原則として健康保険証の番号(被保険者証の記号・番号)が変更になります。
  • マイナ保険証を利用していても、医療機関のシステム上、新しい番号が認識されない場合や、マイナ保険証が利用できない医療機関を受診する可能性があります。
  • 協会けんぽなどでは、新しい資格情報が記載された「資格情報のお知らせ」といった書類が送付されます。この書類は、カードリーダーが使えない場合に備えて、マイナンバーカードと併せて提示することで保険診療を受けるための重要な情報源となります。

被扶養者への影響

  • 従業員(被保険者)だけでなく、被扶養者(ご家族)の健康保険証番号も変更になります。
  • 被扶養者にもマイナ保険証の利用を推奨するよう案内するとともに、新しい資格情報が反映されるまでの期間や、必要な手続き(再度の扶養認定など)について必ず伝える必要があります。

従業員への連絡

同日得喪の対象者に対しては、文書で重要なポイントを伝えておくと安心です。以下に、対象者への説明文のサンプルを示します。このサンプル文を、適宜ご修正のうえ、ご利用ください。


社会保険に関するご案内(定年再雇用に伴う同日得喪手続きについて)

被保険者各位

この度、再雇用契約の締結、誠にありがとうございます。

つきましては、再雇用後の社会保険手続きに関し、以下の通りご案内いたします。

1. 手続きの概要:同日得喪(どうじつとくそう)について

当社では、定年後に継続して再雇用される従業員の方に対し、「同日得喪(どうじつとくそう)」という特例的な社会保険の手続きを実施いたします。

項目内容
目的再雇用に伴い給与が変更(減額)される場合、社会保険料の負担を速やかに再雇用後の給与に見合った額へ軽減するため。
効果通常、社会保険料の変更には数ヶ月かかりますが、この手続きにより再雇用された月から新しい保険料が適用されます。
実施日資格喪失日および資格取得日は、再雇用契約の開始日である【再雇用開始日:〇月〇日】となります。

2. 健康保険証・資格確認書の返却について

同日得喪の手続きにより、一旦社会保険の資格を喪失し、新しい資格を取得し直すことになります。そのため、被保険者番号が変更となります。

つきましては、お手数ですが、資格確認書(ご本人様および被扶養者様で交付されている場合すべて)を【提出期限:〇月〇日】までに必ずご返却ください。

3. マイナ保険証をご利用の方へ

マイナンバーカードを健康保険証として利用登録されている方も、同日得喪により資格情報が更新されます。

  • 再度の利用登録は不要です。
  • ただし、資格情報のシステム反映にはタイムラグ(数日から数週間)が生じる可能性があります。この期間に医療機関を受診される際は、窓口にて一時的に全額自己負担となる可能性や、資格確認に時間がかかる可能性があります。
  • 新しい保険証番号や資格情報が記載された「資格情報のお知らせ」が保険者から送付されますので、万一に備えてご用意ください。

ご不明な点がございましたら、人事労務担当者までお尋ねください。

担当者名 〇〇 〇〇
内線/電話番号 〇〇〇-〇〇〇〇


同日得喪は、賃金が下がった際の社会保険料の早期軽減という大きなメリットがありますが、健康保険の給付や将来の年金額にも影響があるため、手続きの影響について従業員に説明しておくことが重要です。