個人事業所の社会保険適用が拡大されることについて解説(2029年10月施行予定)

社会保険

2025年6月に成立した年金制度改正法に基づく個人事業所の社会保険適用について、これまでの扱いと今後の変更点を解説します。

個人事業所の社会保険適用:現行の扱い

個人事業所(法人ではない)が社会保険(健康保険・厚生年金保険)の「強制適用事業所」となるかどうかは、業種常時使用する従業員数で判断されます。

現在、個人事業所は、原則として以下の業種に該当し、常時5人以上の従業員を使用している場合に、強制適用事業所となります(一部例外あり)。

5人以上で強制適用となる業種(法定業種)

以下の業種に該当する個人事業所は、常時5人以上の従業員を使用する場合、社会保険の強制適用事業所となります。

強制適用となる主な業種具体例
製造業、建設業、運送業各種工場、建設現場、運送会社など
通信・報道業、金融・保険業新聞社、広告業、銀行、保険代理店など
物品販売業、不動産業小売店、卸売業、不動産仲介業など
士業弁護士、税理士、行政書士など(2022年10月に追加
医療業、社会福祉事業病院、診療所、介護施設など

5人以上でも強制適用とならない業種(非適用業種)

以下の業種に該当する個人事業所は、常時5人以上の従業員を使用しても、社会保険の強制適用事業所とはなりません(任意で加入することは可能です)。

非適用となる主な業種具体例
飲食サービス業飲食店、居酒屋、カフェ
宿泊業旅館、ホテル
生活関連サービス業理容業、美容業、公衆浴場業、洗濯業
農林水産業農業、漁業など
宗教業神社、寺院、教会など

年金制度改正法(2025年6月成立)による変更点

2025年6月に成立した年金制度改正法では、個人事業所の社会保険適用が拡大されます。(2029年10月施行予定)

  • 変更点:これまで強制適用事業所とされていなかった個人事業所の「非適用業種」が撤廃され、常時5人以上の従業員を使用するすべての個人事業所が、原則として社会保険の強制適用事業所となります。
  • 影響:農林水産業、サービス業(非適用業種だったもの)、宗教業など、これまで業種を理由に強制適用外だった個人事業所も、常時5人以上の従業員がいれば、社会保険への加入が義務化されます。ただし、施行日(2029年10月)時点で既に存在している事業所については、当分の間は適用除外とする経過措置が設けられる予定です。

常時5人以上の意味

「常時5人以上」という従業員数のカウントには、パートタイマーやアルバイトも含まれます。ただし、すべてのパート・アルバイトがカウントされるわけではなく、社会保険上の「常用的な使用関係にある者」が対象となります。

個人事業所が社会保険の「強制適用事業所」となるかどうかの基準となる「常時5人以上」の従業員数には、原則として以下のAとBの両方が合算されます。

A. フルタイムの従業員(正社員など)
  • 雇用形態にかかわらず、期間の定めのない契約や、1年以上の雇用が見込まれるフルタイムの従業員。
B. 短時間労働者(パート・アルバイト)のうち、社会保険の加入要件を満たす者
  • パートやアルバイトであっても、「常用的な使用関係」にあると認められる以下の基準を満たす者が含まれます。
    • 1週間の所定労働時間 および
    • 1ヶ月の所定労働日数 が、
    • 同じ事業所で同様の業務に従事する通常の労働者(正社員など)の 4分の3以上である者。

つまり、フルタイムの正社員と、それに準ずる働き方をしているパート・アルバイトの合計が5人以上になった場合に、個人事業所は強制適用事業所となります。

カウントされない主な従業員
  • 正社員の4分の3未満の労働時間のパート・アルバイト(週30時間未満など、かつ企業規模要件による拡大適用を受けていない場合)。
  • 日々雇い入れられる者(1ヶ月を超えて継続して使用される場合を除く)。
  • 2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(2ヶ月を超えて継続して使用される場合を除く)。
  • 事業主(個人事業主本人)や、その同居の家族(原則として適用除外)。

このように、従業員数の「5人」を判断する際は、単なる在籍人数ではなく、事業所で恒常的に使用されていると認められる従業員の人数で判断します。

事業主の扱い

個人事業所が強制適用事業所(従業員5人以上の個人事業所)になっても、原則として事業主本人や同居の家族従業員は社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入することはできません。

ただし、家族従業員の場合は、「他の従業員と同様に使用されている」と認められる、以下の条件をすべて満たしている場合は、例外的に社会保険の被保険者となることができます。

  1. 就業規則があらかじめ定められており、他の従業員と同様に適用されていること。
  2. 出勤簿などにより、他の従業員と同様に就労時間管理がされていること。
  3. 賃金台帳などにより、他の従業員と同様の計算で賃金の支払いを受けていること。
  4. 税務上の専従者給与として支払われていないこと(税務上の「専従者」は労働保険や社会保険上の「労働者」とはみなされないため)。

したがって、改正法によって旅館や飲食店が強制適用事業所になっても、それは「従業員(労働者)を社会保険に加入させる義務が生じる」ということであり、事業主本人の加入資格には影響しません。個人事業主本人が「健康保険・厚生年金保険」に加入するには、法人成り(個人事業を法人化すること)が、原則として唯一の方法となります。

まとめ

区分現行の扱い今後の扱い
個人事業所の強制適用業種と常時5人以上の従業員数で判断。一部業種は強制適用外(非適用業種)。2029年10月(予定)以降: 非適用業種が撤廃され、常時5人以上の従業員がいればすべての業種が強制適用に。

この改正により、これまで社会保険の加入対象外だった個人事業所や短時間労働者が、健康保険や厚生年金保険に加入できるようになり、将来の年金受給額の増加や、病気・けがの際の保障が手厚くなるというメリットがあります。一方で、事業主側は保険料の負担増や事務手続きの増加といった対応が必要になります。今後、厚生労働省などからの具体的なスケジュールや詳細な情報に注意を払う必要があります。