どのくらいの規模であれば独立性がないと認められるか
独立性がない事業場とは、「規模が著しく小さく、組織的関連、事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないもの」とされていますが、具体的な人数や売上などの統一的な数字の基準は、法令や厚生労働省の通達では定められていません。
これは、「事業場」の独立性の判断が、場所的な要因だけでなく、組織の構造や労務管理の実態などを総合的に考慮して行われるためです。
しかし、実務上の判断の傾向としては以下のようになっています。
独立性がないと判断されやすい目安
独立性がないと判断されるための要件は「規模が著しく小さい」と「独立性がない」の2つですが、特に後者の事務能力・組織的関連が重要視されます。
規模の目安(人数)
具体的な基準はありませんが、多くの労務管理の現場では、以下の人数を目安に独立性の有無を検討することが多いです。
- 労働者数が極めて少ない場合:
- 目安として数人(例:1人〜3人程度)で構成されている出張所。
- 特に、10人未満の事業場は、就業規則の作成・届出義務がないなどの規定があるため、この10人という数字が独立性を判断する一つのラインとされることもあります。
- ただし、10人以上でも、次に述べる「事務能力」がなければ独立性がないと判断されることもあります。
独立性の判断要素(事務能力・組織的関連)
規模の大小よりも、「そこで独自の労務管理が行われているか」が最も重要な判断基準となります。以下の事務能力がない場合、「独立性がない」と判断され、直近上位の事業場(本社など)と一括されます。
判断要素 | 「独立性がない」と判断される状態 |
人事・労務管理 | すべて本社で集中管理されている。支店長などに採用・解雇、異動、懲戒の権限がない。 |
賃金・経理処理 | 給与計算や経費処理がすべて本社で行われ、支店に独立した経理部門がない。 |
時間管理 | 労働時間や休暇(有給休暇など)の申請・承認が、本社経由でしか行えない。 |
建物・組織構造 | 本社や他の事業場に付随する補助施設(例:工場内の診療所、小規模な倉庫、常駐先など)と見なされる場合。 |
判断の原則のようなもの
要するに、その出張所や支所が、自前で「一事業」として完結できるような、人事・労務・経理に関する権限や機能(事務能力)を持っているかどうかが最大のポイントとなります。
規模が著しく小さく(例:数人)、かつ労務管理や経理処理の事務能力も一切なく、直属の上位組織(本社など)の指揮監督下にあると認められる場合に限り、「独立性がない」ものとして、直近上位の事業場と一括して一つの事業場として扱われます。
逆に、たとえ人数が少なくても、採用や解雇、賃金決定などに一定の独立した権限を持つ責任者がいる場合は、独立した「事業場」として扱われる可能性が高くなります。
独立性がない事業場と認められれば
「独立性がない事業場」と認定された場合、その支所や出張所は、労働基準法などの法令適用において直近上位の事業場(本社や主管支店など)と「一括して一つの事業場」として扱われます。
これにより、本来は事業場ごとに義務付けられている労務管理上の各種手続きや義務が、上位事業場に統合・集約されます。
具体的に、主な事務手続きにおける扱いは以下のようになります。
法定帳簿の作成・保管(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)
事務の扱い | 詳細 |
作成義務 | 帳簿の作成・保管は直近上位の事業場(本社など)の義務に統合されます。 |
保管の特例 | 独立した事業場ではないため、帳簿類を一括して本社で電子データ等で管理できます。ただし、その出張所・支所で労働基準監督署の調査があった際には、直ちに該当の帳簿を画面表示または印刷して提示できる体制を整えておく必要があります。 |
管理単位 | 労働者名簿、賃金台帳は原則として事業場ごとの作成ですが、この特例により、上位事業場の帳簿の一部として管理されます。 |
就業規則の作成・届出
事務の扱い | 詳細 |
作成・届出義務 | 就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に作成・届出義務があります。 |
人数の合算 | 独立性がない事業場の労働者数は、直近上位の事業場の労働者数と合算して10人以上になるか判断されます。合算して10人以上になれば、上位事業場の就業規則を適用し、当該労働者にも周知する必要があります。 |
労使協定の締結・届出(36協定、変形労働時間制の協定など)
事務の扱い | 詳細 |
協定の締結 | 労使協定は、原則として事業場ごとに労働者の過半数代表者と締結する必要があります。 |
一括処理 | 独立性がない事業場は、直近上位の事業場の労使協定(36協定など)の適用範囲に含まれます。別途、当該支所・出張所で代表者を選出して協定を締結する必要はありません。 |
届出先 | 上位事業場の管轄労働基準監督署に一括して届け出ます。 |
安全衛生管理体制の構築(産業医・衛生管理者)
事務の扱い | 詳細 |
選任義務 | 産業医や衛生管理者の選任は、労働者数が50人以上の事業場などに義務付けられます。 |
人数の合算 | 独立性がない事業場の労働者数は、直近上位の事業場の労働者数と合算して50人以上になるかで選任義務を判断します。合算して50人以上になれば、上位事業場にて選任義務が発生します。 |
ここに記載した事項はあくまでも一つの見方です。この認定は労働基準監督署が個別の実態に基づいて行います。疑義がある場合は労働基準監督署への問い合わせが必須です。