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労働時間

フレックスタイム制のあらまし

Last Updated on 2024年10月30日 by

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、労働者があらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、日々の始業時刻と終業時刻、労働時間を自ら決めることができる制度です。(根拠規定:労働基準法第32条の3等)

一般的にプログラマー、デザイナー、企画職、事務職などのように、外部との接触時間等を調整しやすく、同僚との連携事務が少ないなど、自分のペースで業務を進めやすい仕事はフレックスタイム制を適用しやすいと言われています。

逆に、接客業、サービス業、工場のライン、営業職などのように顧客と対面で行う仕事や、連携する同僚や外部が多い仕事はフレックスタイム制を適用しにくいと言われています。

フレックスタイム制を導入するためには、就業規則の改定と労使協定の締結が必要です。

就業規則を改定する

まず、就業規則で、始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めます。始業及び終業時刻の両方を労働者の決定に委ねることが必要です。

関連記事:フレックスタイムの就業規則規定例

清算期間、清算期間における総労働時間についても、就業規則に定めます。

労使協定を結ぶ

フレックスタイム制の基本的枠組みについて労使協定を結びます。

定めるべき事項

□ 対象となる労働者の範囲
□ 清算期間
□ 清算期間における所定労働時間(総労働時間)
□ 標準となる1日の労働時間
□ コアタイム(定める場合)
□ フレキシブルタイム(定める場合)

関連記事:フレックスタイム制に関する労使協定のサンプル

対象となる労働者の範囲

フレックスタイム制を適用する労働者の範囲を決めます。対象となる労働者の範囲は全労働者とすることもできるし、個人ごと、課ごと、グループごと等様々な範囲を決めることができます。

清算期間

計算単位となる期間、清算期間を定めます。

清算期間が1ヶ月以内であれば労使協定を労働基準監督署に届出る必要はありませんが、清算期間の上限を1ヶ月を超え3ヶ月以内にした場合は、労使協定を労働基準監督署に届出る必要があります。

清算期間の長さと起算日も定めなければなりません。単に「1ヶ月」とせず、毎月1日から月末までなどと具体的に定めることが必要です。

清算期間における所定労働時間(総労働時間)

つぎに、清算期間中の総労働時間を定めます。労働者が労働すべき総所定労働時間のことです。

この時間は、平均したときに、1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内となるように定める必要があります。

清算期間が1ヶ月を超え3ヶ月以内の場合は、清算期間内の1ヶ月ごとに区分した期間に1週平均50時間を超えた場合、清算期間の途中であっても、各期間に対応した賃金支払い日に割増賃金を払わなければなりません。

標準となる1日の労働時間

標準となる 1 日の労働時間とは、年次有給休暇を取得した際にこれを何時間労働したものとして賃金を計算するのか、明確にしておくためのものです。通常はフレックスタイム制導入前の所定労働時間にしています。適切と思われる労働時間にしても構いません。

コアタイム・フレキシブルタイム

必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)を定めることもできます。会議の時間を取りたいなど、完全に自由にすると支障が出る心配がある会社はコアタイムを設定するところが多いです

コアタイムの開始及び終了時刻を定めます。コアタイムは、法令上必ず設けなければならないものではありませんが、設定する場合は、労使協定において、その開始及び終了の時刻を定めなければなりません。

コアタイムを決めるときは次の通達に留意する必要があります。

昭和63.1.1基発1号、婦発1号、平成113.31基発168号
フレキシブルタイムが極端に短い場合、コアタイムの開始から終了までの時間と標準となる1日の労働時間がほぼ一致している場合等については、基本的には始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだねたこととはならず、フレックスタイム制の趣旨には合致しないものであること。

労使協定が異なる事業場に異動した場合は、労働時間は通算できません。賃金を清算する必要があり、それぞれの期間の労働時間が週40時間を超えていれば、割増賃金の対象になります。

コアタイムが決まればそれ以外の時間がフレキシブルタイムですが、労使協定にそれぞれ記載することもできます。

時間外労働の扱い

使用者は労働時間を把握する義務がある

フレックスタイム制では、始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねるのですが、いつ来たか、帰ったかを知らなくてよいというものではなく、使用者はタイムカードなどで、各労働者の各日の労働時間を把握する義務があります。

これをしないと、事前に定めた総労働時間を超えて労働したのか、不足だったのか把握できず、正しい賃金計算ができなくなります。また、長時間労働の把握ができないので安全配慮義務を果たすことができません。

残業がないわけではないので36協定も必要

36協定も締結する必要があります。清算期間の総労働時間が、法定労働時間の総枠を超えない限りは、時間外労働は発生しませんが、時間外労働が無いということではありません。

36協定は、通常、1日について延長することができる労働時間を記載しますが、フレックスタイム制の場合は、1日単位で時間外労働を計算しないので、「清算期間を通算して〇時間」という記載になります。

関連記事:時間外労働の手続き

労働時間の過不足処理の注意点

清算期間が終わってみると、必要な総労働時間まで働いていないとか、逆に働きすぎがあったということも考えられます。

フレックスタイム制では、時間外労働であるかどうかは、1日単位で判断しないで、清算期間を単位として判断します。清算期間で過不足をみて、法定労働時間を超えていれば時間外労働となります。例えば、清算期間が暦日30日の1ヶ月であれば、171.4時間(40時間×(30÷7日))を超えた時間が時間外労働になります。

清算期間の暦日数週の法定労働時間(40時間)
31日177.1時間
30日171.4時間
29日165.7時間
28日160.0時間

多く働いていた場合は、その労働時間を次期の清算期間に繰り越すことはできず、超過分に相当する賃金を支払って清算しなければなりません。時間外割増賃金の対象になります。

逆に労働時間が不足した場合は、翌月の総労働時間が法定労働時間の総枠の範囲内で、不足分を翌月に繰り越すこともできます。または、不足分に相当する賃金をカット(遅刻や欠勤と同様の扱い)します。

割増賃金は賃金支払日の賃金を基礎にして計算する

割増賃金は、賃金支払い日における賃金額を基礎として算定するのが基本です。ですから、例えば、清算期間の3ヶ月目に昇給があった場合は、昇給前の2ヶ月間を含めた清算期間を平均して、1週間当たり40時間を超えて労働した時間について、昇給後の賃金額を基礎として割増賃金を計算する必要があります。

清算期間についての補足

フレックスタイム制における清算期間の上限は3ヶ月です。

1か月単位のフレックスタイム制は、月またぎの調整ができないため、ある月の労働時間が週当たり40時間を超えていた場合は、その超過時間は、時間外労働となり割増賃金の支払いが必要となります。

逆にある月の労働時間が月の総労働時間に達していないと、その達していない時間は欠勤控除の対象になります。

3ヶ月の間で調整できるようになると、3か月平均の週当たりの労働時間が法定労働時間の枠内に収まれば、時間外労働が発生せず、欠勤控除も発生しません。

ただし、単月において特定の月に過重労働が生じないように、労働時間が清算期間の各月で週平均50時間に収めるように規定されています。

3ヶ月の枠で平均して法定労働時間に収めれば、3ヶ月内の各月では、週平均50時間までは時間外労働にならないというわけです。

この制度について、厚生労働省は子育て中の親が8月の労働時間を短くすることで、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなる、と説明しています。

なお、清算期間が1ヶ月を超える場合は、特例業種の法定労働時間44時間は適用されません。特例業種であっても40時間×週数で計算した総枠に収まるように、総労働時間を設定しなければなりません。

子の看護休暇や介護休暇との関係

厚生労働省のQ&Aには、看護・介護休暇は、労働者の労務提供義務を消滅させる効果を有するものであり、一定期間内においてあらかじめ定めた総労働時間数の範囲内で労働者自身が柔軟に労働時間を設定することができるフレックスタイム制度とは趣旨が異なるものである。したがって、フレックスタイム制度のような柔軟な労働時間制度が適用される労働者であっても、申出があった場合には、時間単位で看護・介護休暇を取得できるようにしなければならない。と記載されています。


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