内定を出すときの注意点

採用

内定とは

内定というのは、一般的には採用を約束するという意味です。

一般的には新卒採用のときに内定というプロセスがあります。採用を決定したときはまだ在学中であるため、卒業を待たないと正規の採用手続きができません。そこで、内定という形で採用決定を伝え、卒業後に正式に採用の手続きをします。

この内定という用語は、労働基準法等の法律にない用語なので、同じく内定と言っても言う人によって意味が違うことがあることに注意が必要です。

正式な内定

一つは、始期付解約権留保付労働契約が結ばれたという事です。

これは判例によるものです。

大日本印刷事件最高裁判決概要
通常の採用内定の場合は、会社の募集は労働契約の申込みの誘引にあたり、これに対する応募は労働契約の申込みになり、会社からの内定通知は申し込みに対する承諾になる。これにより、始期付解約権留保付労働契約が成立する。

実際の内定場面では、そのようなタイトルの契約書を示すことは、ほぼありません。

内定する旨、出社予定日、今後の手続き、内定取り消し事由などが記載された、内定通知書などの文書を交付し、本人から内定承諾書などの文書を受領するのが一般的です。この場合、内定承諾書が提出された段階で始期付解約権留保付労働契約が結ばれたと判断できます。

契約ですから、必ずしも文書による必要はなく、口頭で上記のようなやり取り、つまり、「何月何日から出社してください」「分かりました」というだけでも始期付解約権留保付労働契約が成立するのですが、トラブルを避けるためには文書による内定通知書の交付と内定承諾書の受領が必要です。

なお、内定取り消しは解雇に類似するので、内定者は使用者からの不当な内定取り消しに対して、損害賠償とともに地位確認を請求することができることも上述の判例に示されています。

内定を約束するという意味の内定

いわゆる「内々定」というものです。業界等で内定時期を取り決めている関係で、取り決めた日程の前では伝えにくいことがあります。また、担当者段階では内定にしたいと思っても、まだ正式な社内手続きを経ていない場合もあります。そこで、「時期の関係で正式に内定を出せないが、内定と思ってください」などと伝えることがあります。

これは非常に問題が生じる可能性が高い部分です。「内定」という言葉の使用には慎重さが求められます。

1. 法的なリスク:「内定」は労働契約の成立

先に説明したように、「内定」は、単なる合格通知ではなく、判例上「始期付解約権留保付労働契約」が成立したとみなされます。

  • 労働契約の成立: 応募者が内定を承諾した時点で、将来の入社を前提とした労働契約が成立します。
  • 承認前の取り消し: 採用担当者が「内定」と伝えた後に、権限者(社長や役員など)の承認が下りず、企業側の都合で内定を取り消すことになった場合、これは**法的に「解雇」**に準じて扱われます。
  • 解雇権の濫用: 企業は、客観的に合理的な理由がない限り、容易に解雇(内定取り消し)はできません。権限者の承認が下りなかったという社内的な事情は、法的に合理的な理由とは認められにくいです。
  • 損害賠償のリスク: 不当な内定取り消しと判断された場合、企業は応募者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

したがって、採用決定権限者の承認なしに「内定」と伝えることは、会社が法的な義務を負う状態を、権限外の担当者が勝手に作り出してしまうリスクを伴います。

2. 信頼性の問題と適切な対応

採用担当者は、最終的な承認を確信して「内定」という言葉を使ったとしても、それが覆った場合、応募者からの企業に対する信頼は決定的に失われます。

このリスクを避けるため、権限者の承認を得る前の段階では、「内定」という言葉を避け、以下のような表現を用いることが一般的かつ安全です。

状況使うべき言葉意味合い
承認待ちの段階「採用内々定」最終選考は合格したが、社内の手続きが完了する前の状態。
承認待ちの段階「内定となる見込みです」内定は確実だが、正式通知には手続きが必要である旨を伝える。

これらの言葉を使うことで、応募者に対しては高い採用意欲を伝えつつも、企業側は「内々定」として法的な労働契約の成立を一時的に留保する形を取ることができます。正式な承認が下りた後、初めて「正式な内定通知書」を発行することが、リスク管理上、最も望ましい対応です。

次の段階に進めるという意味の内定

もっと軽い意味で「内定」という言葉が使われることがあります。

一次選考を通っただけの人に「内定」という場合などです。

これは、会社の慣行や担当者の理解不足からくるものですが、安易に内定という言葉を使うと誤解を生むことがあるので注意しなければなりません。

内定の手続き

内定の手続きは、内定通知書を送付して入社承諾書をとることです。

内定期間中の研修等

内定者に対して、内定から正式採用までの間に、レポートの提出、学習課題の提示、集合研修への参加などを求めることがあります。

会社は内定者に対してこれらの義務を課すこととができるのでしょうか。

これについて、「入社前研修への参加に合意があったとしても、学業への支障など合理的な理由がある場合には、研修を免除する義務を負うという」という裁判例(宣伝会議事件東京地裁平成17年)があります。

こうした研修等ができないということではないようですが、内定者に対して過度に負担を与えるものは避けるべきでしょう。また、内定者の都合も様々ですから、都合が悪い場合には参加を強制するものではないこと、参加しないことによって不利益を与えるものではないことを明示する等の配慮が必要だと思われます。

内定の取消しについて

内定は、条件付きとはいえ労働契約ですから、合理的な理由なくして取り消すことはできません。ただし、経営困難などの特別な事情が生じたときや、採用予定者の非行が明らかになったときなどは内定取り消しを行うことがあります。

内定者からの内定辞退について

内定承諾書を提出したにもかかわらず、直前になって入社を断ってくることがあります。大変な迷惑行為ですが、基本的にはどうしようもありません。憲法第22条によって職業選択の自由が定められているので、労働契約よりも就職の自由の方が優先されるからです。

具体的な損害が生じていれば賠償請求ということも考えられるかもしれませんが、裁判で認められる可能性は低いでしょう。裁判を起こす気もないのに脅してやろうと思って、損害賠償させるなどと発言すれば脅迫罪となってしまう可能性もあります。また、罪にならないとしても不適当な発言は企業の社会的評価を下げるので、腹が立っても「残念だけど君がそのように決めたのならしかたない。これからも頑張ってください」などと、穏やかに受け入れるのが大人の対応というものです。