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ハラスメント

相談窓口の設置と運営

Last Updated on 2025年7月16日 by

相談窓口の設置義務

相談窓口の設置を義務付ける法令がいくつかあります。主なものを解説します。

パワーハラスメントに関する相談窓口

根拠法令:労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)、男女雇用機会均等法

内容:職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント等の各種ハラスメントに関する相談窓口の設置が義務付けられています。相談内容に応じて適切に対応できる体制を整備し、プライバシー保護や相談を理由とする不利益な取扱いの禁止を周知徹底することが求められます。

育児・介護休業等に関する相談窓口

根拠法令:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)

内容:育児休業や介護休業、短時間勤務などの両立支援制度に関する相談窓口の設置が義務付けられています。特に2025年4月の法改正により、介護離職防止のための雇用環境整備(研修の実施、相談窓口の設置等)が義務化され、40歳になった従業員への情報提供・意向確認も義務付けられます。

ストレスチェック後の相談窓口(努力義務を含む)

根拠法令:労働安全衛生法

内容:常時50人以上の労働者を使用する事業場では、ストレスチェックの実施が義務付けられています。ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員が医師による面接指導を希望しない場合でも、企業は放置せず、悩みを相談できる窓口の設置など、労働者が相談しやすい環境を整備することが重要です。相談窓口そのものの設置は直接的な義務ではありませんが、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ観点から強く推奨されています。

障がい者からの合理的配慮に関する相談窓口

根拠法令:障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)

内容:障害のある労働者からの合理的配慮に関する相談に応じ、適切に対応するための相談窓口の設置が義務付けられています。相談窓口の周知、担当者の適切な対応、プライバシー保護、相談を理由とする不利益取扱いの禁止などが求められます。2024年4月1日からは、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されており、その一環として相談体制の整備が重要視されています。

公益通報に関する相談窓口

根拠法令:公益通報者保護法

内容:従業員数300人を超える事業者には、公益通報(組織内の不正・違法行為など)に対応するための内部通報窓口の設置が義務付けられています(300人以下の事業者は努力義務)。通報の受付、調査、是正措置、通報者の保護(不利益取扱いの禁止、匿名通報への対応など)を含めた体制整備が必要です。

相談窓口の作り方

相談しやすい窓口担当者

相談窓口は、従業員が相談しやすい窓口である必要があります。

プライバシーが確保できる部屋を準備しましょう。

窓口担当者の人選に気を配りましょう。相談しやすいとともに信頼がある担当者である必要があります。なかなか難しい注文かもしれませんが、ハラスメントは総務が担当するから総務の担当者を充てる、という決め方でなく、人物が重要だという観点で、幅広く人選する必要があります。

一人だけでは負担が大きすぎる可能性があります。兼務であってもなるべく複数の窓口担当者を任命しましょう。

相談のしやすいという観点から、専門家に委託する外部窓口の設置も検討しましょう。

多様な相談方法を用意する

いきなり窓口に行って申告するのはハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。電話や電子メールなどでも相談可能なように窓口担当者の連絡先を社内に公開しましょう。そのために、窓口担当者には専用の携帯電話やメールアドレスを持たせる必要があります。

また、相談は実名が基本ですが、充分な調査ができない可能性を条件に、匿名でも受け付けることにした方が良いでしょう。

担当者の教育をする

相談窓口の担当者には、関係法令の知識やヒアリングのスキルが必要です。そのため、窓口担当者を外部研修に積極的に派遣する、書籍等の購入予算を与える、カウンセラー資格の取得費用を負担する、などの支援が必要です。

なお、相談を受け付けて調査したり措置を検討することは大変ストレスのかかる仕事です。会社は担当者一人に丸投げすることがないように、組織的なバックアップ体制が必要です。

窓口担当者の上司は相談受付の概要や進捗状況の報告を受けて、対応を一緒に協議するなどして窓口担当者の孤立を防がなければなりません。

総合窓口とすることの可否

一つ一つの法律に応じてバラバラに相談窓口を設置するのではなく、総合的な相談窓口を設置することについて検討しました。

会社が設置しなければならない「相談窓口」を一つにまとめればどうなの?

相談業務の運用

相談窓口の業務の流れを紹介します。概ね、以下の流れになります。

相談窓口への相談→事実確認→措置の検討→再発防止策の検討

相談窓口への相談

従業員から相談があったときは、窓口担当者が相談内容を聞き取ります。

窓口の対応範囲を明確にしておきましょう。なんでも相談できるというかたちにすると、逆になにも対応できないという結果になりがちです。

事実確認

相談者の了解を得て、行為者等や第三者に事実確認を行います。基本的には窓口担当者が行いますが、事実確認調査の担当者を別にすることもあります。

事実確認を行う際は、先入観を排除し私情をはさまず中立的な立場で行う必要があります。

同僚等の目撃者に対する事実確認も重要です。調査を行うときは守秘義務について十分な説明を行い、外部に情報が漏れないよう細心の注意を払う必要があります。

事実確認に時間がかかると相談者の不安が増します。なるべく間を置かないように進捗状況を相談者に連絡しましょう。

措置の検討

事実確認が終わったら、相談者の上司、行為者等の上司と連携を図りつつ、その後の措置を検討します。

行為者等への注意や指導で解決が見込まれる場合は、行為者等の上司と連携して行為者等に対して注意を与えます。

行為がハラスメントに該当し、懲戒処分相当と判断される場合は、懲罰委員会等での審議を経て、戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒解雇などの懲戒処分をすることになります。

外見的に解決したようにみえても問題がくすぶっていることもあります。相談者に対して、ある程度長期間のフォローが必要です。

再発防止策の検討

行為者等に対しては同様の問題が起こらないように継続的なフォローが必要です。同じことを繰り返すようであれば、前回の措置以上の厳しい対応を考えなけれなりません。

行為者等のみの問題でなく、同じ行為が発生する職場環境ではないかという視点で再発防止策を検討することも必要です。

不利益取扱いの禁止

相談を行ったこと、証言したことなどを理由に解雇その他不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。会社側はもちろん、行為者等からの報復的な言動が出ないように充分に啓発指導する必要があります。

相談窓口を周知する

相談窓口を設置しても相談者がいないということになりがちです。問題がない職場であれば良いのですが、問題があってもどこに相談すればよいか分からないことも多いものです。一度通知を流しただけでは周知としては不十分です。

定期的に利用を呼び掛けたり、情報発信をおこなうなど働きかける努力をしましょう。

深刻な問題は専門家に相談する

例えば、相談内容が明確に犯罪行為が行われているような場合、犯罪行為である疑いが濃厚な場合は、早い段階で弁護士等の専門家に相談しながら調査を開始しましょう。

例えば、相談者が強い精神的打撃を受けていると思われる場合は、速やかにカウンセラーや医療の専門家に相談しましょう。

深刻な問題に対して社内だけで解決しようとすると、取り返しのつかない事態になってしまうリスクがあります。


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