Last Updated on 2025年9月26日 by 勝
メンター制度が活きるかどうかはメンターの「適性」にあります。優れた「メンター」の存在は、制度の効果を最大化する上で最も重要な要素です。メンターの当たり外れは新入社員の本人の不幸にどどまらず、企業にとっても大きな損失です。企業としてメンターを選抜・育成するプログラムを紹介します。
メンター認定制度(選抜・育成プログラム)を作る
ここで提案するのは「メンターにある種の資格制度を作る」ものです。これを「メンター認定制度(選抜・育成プログラム)」として構築することで、メンターの質の標準化と、適性のない方のスムーズな役割変更が可能になります。
この制度を成功させるための具体的なアドバイスを3つのステップでご提案します。
ステップ1:目的の明確化と選抜基準の設定
まず、「良いメンターとは何か」を定義し、それを具体的な選抜基準に落とし込みます。
1. メンターの役割を再定義する
現在のメンターは「職場の先輩」の役割と混ざっている可能性があります。バディ制度との違いを踏まえ、「新入社員の評価者ではない、キャリアとメンタルを支援する専門職である」と再定義します。
2. 適性基準を設定する
「面倒見が良い」といった曖昧な基準ではなく、スキルと意欲に基づいた基準を設けます。
分類 | 基準項目 | 具体的な評価ポイント |
スキル | 傾聴力と共感力 | 自分の経験談を語るのではなく、相手の状況を掘り下げて聞くことができるか。 |
守秘義務の遵守 | 相談内容を上司や同僚に軽々しく話さない倫理観があるか。 | |
意欲 | 自発的な貢献意欲 | 部下の成長に純粋な喜びを感じられるか。 |
態度 | 一貫性と公平性 | 誰に対しても態度が変わらず、熱心に取り組めるか。 |
3. 適性判断の実施
既存・新規問わず、メンター候補者全員に対して、この基準に基づく選抜プロセスを実施します。
- アセスメント: 上司や人事による評価に加え、アンケートやロールプレイング形式の研修で適性を判断します。
- 意思確認: メンターとして活動する「意欲」と「時間的コミットメント」があるか、正式に確認します。
ステップ2:育成とインセンティブの導入(研修と報酬)
手間がかかる業務をやってもらう場合は何かしらのインセンティブが必要です。
1. 認定研修を義務化する
選抜されたメンター候補者には、必ず認定研修(トレーニング)を受けてもらいます。
- 研修内容: 1on1の具体的な進め方、ハラスメント・守秘義務に関する知識、傾聴スキル、目標設定のサポート方法など、スキルアップを目的とした内容にします。
- 認定: 研修修了者のみを「認定メンター」として正式に任命します。
2. インセンティブを「報酬」以外で補強する
メンター手当を出す方法もありますが、手当を出さない場合でも、メンターのモチベーションを高めるインセンティブはあります。
インセンティブの種類 | 具体的な内容 | メリット |
キャリア・評価 | 人事評価での加点 | 「後進育成への貢献」として、昇進や昇給の際に明確に評価する。 |
特別な呼称の付与 | 「認定メンター」「シニアメンター」などの称号を与え、社内での地位を高める。 | |
能力開発 | 専用スキルアップ研修 | メンター間の交流会や、外部講師によるリーダーシップ研修などを提供し、自己成長の機会とする。 |
時間的配慮 | 業務量の調整 | メンタリングにかかる時間を考慮し、メンターの業務負荷を軽減する。 |
ステップ3:適性のないメンターの「円満な外し方」
最も難しいのが、現在メンターを務めているが適性がないと判断された方を外すプロセスです。新しい認定制度を導入することで、これを「罰」ではなく「制度の移行」として実施できます。
1. 新制度への「再応募」形式を採用する
「新制度への移行に伴い、今後は認定研修の受講と認定を必須とします」と通知し、現メンターにも改めて手を挙げてもらう形にします。
- 外れるケース1(自発的): 研修内容や役割定義を見て、意欲がない、または時間的なコミットが難しいと判断した社員は、自ら辞退します。
- 外れるケース2(人事判断): 研修で適性がないと判断された場合、「あなたの経験は素晴らしいが、メンターとして必要な特定のスキル(例:傾聴スキル)について更なるトレーニングが必要です。今回は見送り、次回に期待します」と今後の成長に期待する前向きな表現で伝えます。
2. 役割の移行を提案する
メンターに向いていない社員には、その社員の適性に合った別の役割を提案します。
- 例: 「メンター」ではなく、業務知識を教える「技術指導担当」や、新入社員の歓迎イベントを企画する「交流委員」など、本人が貢献できる別の役割に移行してもらうことで、「あなたは組織に不要」というメッセージを避けることができます。
この「認定制度」の導入は、長期的に見ればメンターの質が安定し、ミスマッチによる早期離職が減少します。