労働安全衛生法が改正され、「個人事業者等」が労働安全衛生法のなかに位置づけられ、個人事業者等の労働災害防止対策が強化されました。
この法改正は、労働者と個人事業主が協働する多様な働き方に対応し、働く場所や雇用形態にかかわらず、安全で健康に働ける環境を整備することを目的としています。
個人事業者等の労働災害防止対策
主な改正のポイントは、「注文者等が講ずべき措置」と「個人事業者等自身が講ずべき措置」の2つです。
注文者等が講ずべき措置(義務の強化)
個人事業者等に仕事を注文する事業者や元請け事業者(注文者等)が、その作業場所で働く個人事業者等の安全と健康を確保するために講じるべき措置が明確化・義務化されます。
- 統括管理の対象拡大:
- 建設業、造船業、製造業などの特定事業における注文者は、労働者だけでなく、現場で作業する個人事業者等を含む作業従事者も統括管理の対象に追加し、混在作業による労働災害防止のため、作業間の連絡調整などの必要な措置を講じることが義務付けられます。
- 危険・有害な作業場所での措置:
- 労働者を退避させる必要がある事故等が発生した場合、同じ作業場所にいる個人事業者等も退避させる措置を講じることが義務付けられます。
- 特定の場所への立入禁止措置等の対象に、個人事業者等も追加されます。
- 化学物質の有害性情報について、労働者と同様に個人事業者等も見やすい箇所に掲示するよう義務付けられます。
- 労働時間等への配慮(努力義務):
- 注文者等は、個人事業者等に業務を委託する際、長時間就業による健康への影響を防止する観点から、安全衛生を損なうような長時間就業とならないような期日を設定するなど、必要な配慮を求めることとされています。
個人事業者等自身が講ずべき措置(新たな義務と保護)
これまで安衛法の対象外であった個人事業者等に対しても、一定の危険有害な作業を行う際に、自らの安全を確保するための措置が義務付けられます。
- 特定機械等の使用禁止・検査:
- 構造規格や安全装置を具備しない機械等の使用が禁止されます。
- 特定の機械等に対する定期自主検査の実施が義務付けられます。
- 安全衛生教育の受講:
- 危険・有害な業務に就く際は、安全衛生教育の受講が義務付けられます。
- 業務上災害報告の仕組みの整備:
- 個人事業者等の業務上災害が発生した場合、災害発生状況などについて厚生労働省に報告する仕組みが整備されます。
- 休業4日以上の死傷災害が発生した場合に、注文者等(特定注文者など)が労働基準監督署に報告する仕組みや、過重労働による健康障害が発生した場合に個人事業者自身が報告できる仕組みなどが設けられます。
- 個人事業者等の業務上災害が発生した場合、災害発生状況などについて厚生労働省に報告する仕組みが整備されます。
施行時期
これらの改正は段階的に施行される予定です。例えば、注文者等が講ずべき措置の一部は公布日や2026年4月1日、個人事業者等自身が講ずべき措置の多くは2027年4月1日からの施行が予定されています(改正の時期や具体的な内容は、今後の政令等により変更される可能性があります)。
「等」とは
個人事業者等の「等」には、主に個人事業主(フリーランス、一人親方など)に加え、類似の作業を行う中小企業の事業主や役員が含まれることを指します。
「等」に含まれる具体的な対象
「個人事業者等」の「等」には、主に以下の人々が含まれるとされています。
- 個人事業者:
- 労働者を使用しない個人で事業を行う者(例:フリーランス、一人親方など)。
- 請負契約や業務委託契約など、契約形態の有無は問いません。
- 中小事業の事業主および役員:
- 個人事業者や労働者が行うのと類似の作業を自ら行う、中小規模の事業主や役員。
- 労働者の安全衛生対策を講じる労働安全衛生法の枠組みにおいて、労働者と実態として変わらない作業を行う中小企業の経営者自身も、同様の保護水準を享受できるようにするために対象とされます。
- (補足) ここでいう「中小事業の範囲」は、業務上災害の実態や他の法令の取り扱いを踏まえて定められることとなります。
この改正は、多様な働き方をする人々が、雇用形態に関わらず安全な環境で働けるよう、法律上の保護の範囲を拡大することを目的としています。
「個人事業主等の健康管理に関するガイドライン」との関連
労働安全衛生法改正と、令和6年5月に発出された「個人事業主等の健康管理に関するガイドライン」は、ともに「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会」(2023年10月報告書公表)の提言に基づいて進められました。
検討会報告書(2023年10月)の提言
検討会は、個人事業者等への対策について、以下の2つの方向性を示しました。
| 分野 | 対応の方向性 |
| 安全対策(危険性) | 安衛法の枠組みを改正し、個人事業者等を保護対象・義務の主体として明確に位置づける(→これが安衛法改正につながる)。 |
| 健康管理対策 | 安衛法の枠組みを超えるため、ガイドラインを策定し、個人事業者等と注文者双方の自主的な取り組みを推奨する。 |
ガイドラインの策定(2024年5月28日)
検討会報告を受け、健康管理の分野(過重労働防止、メンタルヘルス、健康診断の受診推奨など)について、法改正を待たずに、まずは自主的な取り組みを促すために「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」が策定・公表されました。
このガイドラインは、法的拘束力を持たせない代わりに、法改正では対応が難しい幅広い分野について、速やかに周知・啓発を行うことを目的としています。
法改正の成立(2024年成立・順次施行)
ガイドライン策定後、検討会が提言した「安全対策(危険性の防止)」や「義務の主体への位置づけ」といった、より根幹的な法整備が国会で審議され、安衛法改正として成立しました。こちらの施行時期は、多くが2026年以降に設定されています。



